第十小隊所属騎士ケイン・バルディの苦労
私の名前はケイン・バルディ。今、王宮内で一番注目されているエレントル王国騎士団第十小隊に所属している。何故注目されているかといえば、副隊長であるティアがヴェルモート侯爵家の養子となり、ウィリアム王太子の婚約者として発表されたからだ。
もちろん反発もあったようだが、国王から王太子を守ったことへの勲章を女性で初めて貰い、侯爵家の娘という地位を得て、ズワーダ王国やナルエラ王国から祝いの言葉が送られてきては覆すことはできない状態だった。巷では王太子と女騎士の恋物語が流れ、お祝いムードになっている。
当の本人は変わることなく剣術の鍛錬をしているのだが、王妃になるための勉強も入れられているらしい。指導を行う者達の話では、所作や話し方などはほとんど教えなくても良いほどのレベルだったとか。知識も豊富で、教えるべきことが少ないと驚いていたそうだ。
たしかにティアは平民出身にしては振る舞いが優雅で、剣を持っていても美しいと男女問わず人気があった。最近では、恋をしているからかより美しくなったと評判である。
そしてもう一つ、注目されている原因はヴェルモート隊長である。整った美しい顔立ちの隊長は地位や実力も相まって、結婚したい男No. 1と言われていた。しかし女に興味をしめさないとして、ほとんどの人が諦めてもいたのだ。そんな隊長に恋人ができた、それは多くの人を驚かせた。そして、運良く恋人と共にいる隊長を見た者はその見たこともない甘い表情に腰を抜かすことになる。
そんな大注目されている第十小隊だが、所属している私達騎士は隊長、副隊長の幸せを祝福しつつも、大きな被害を受けていた。主に精神的ダメージだ。
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「もう一歩早く踏み込めッ!」
「はっ!」
「よし、次! ティア、こい!」
「はっ!」
目の前ではヴェルモート隊長との一対一の打ち合いが行われている。これでも第十小隊は実力は騎士団の中でも高く、隊長と打ち合える実力の持ち主しかいない。それでも隊長に勝てないのだから隊長の強さは恐ろしいものがある。
壁には汗や土でどろどろになりながら座り込む騎士達がいる。私もその中の一人だ。目の前では訓練とはいえないほど壮絶な打ち合いが繰り広げられている。皆、そこから吸収しようと目を凝らしているが、最初の頃は剣を追うことすらできなかった。
隊長と副隊長の打ち合いは隊長に軍配が上がった。本当に尊敬すべき実力の持ち主達だ。そう感心していると、自分を支えてくれている壁の外から男の声がかかった。
「いつ見ても訓練とは思えないな。怪我はしないようにしてくれよ、いつ何があるかわからないんだからね」
「ウィリアム様!」
隊長の声と同時に休憩している騎士達が慌てて立ち上がる。壁の外にはウィリアム王太子が微笑みを浮かべて立っていた。その優しげな表情に騙されてはいけない。ウィリアム様は策士であり、腕も立つ、優しくも厳しい方だ。
「急に来て悪いな。ちょっと身体を動かしに来たんだ。皆も気にせず休んでいなさい」
「執務を逃げ出して来たんではないですか?」
「急ぎのものは終わらせて来たさ。少しくらい息抜きに婚約者殿の顔を見に来てもバチは当たらないだろう?」
「またフィルディン様を困らせて……」
そう口では怒りながらも、ティアの顔は嬉しそうに笑っている。あんな表情もするのかと最近驚いたばかりだ。そう、最近は息抜きとしてよくウィリアム様が来るのだ。そして目の前で軽く剣を振りつつ、ティアと幸せそうに談笑して帰っていくのである。
「くそ、羨ましい……」
「俺も彼女欲しいなぁ」
そして独身騎士達にダメージを与えていくのである。
「よし、これで訓練は終了だ。各自昼食にしよう」
厳しい訓練と精神的ダメージを受けた騎士達は昼食を食べにヘロヘロになりながら騎士団本部へ向かう。そんな私達の進む流れとは反対方向へと一人の女性が走っていった。見なければいいのに、ついつい動くものへとつられて視線を向ける。
「レオ! 訓練お疲れ様です。昼休憩ですよね? よかったら、お弁当を作って来たんですけど一緒にどうですか?」
「ありがとう、リリー。ではあの木の下でいただこうか」
「ええ! たくさん作ってきたから他の騎士の方も……」
リリアンの言葉が聞こえて尻尾を振るように駆け出そうとする騎士達。女性の手作りなど、そうありつけるものではないため喜んでいる彼らを隊長が一撃で沈める。
「リリー、俺のために作ってくれたのだろう?」
「え? あ、はい。そうですが……」
「ならば全て俺がいただこう」
「この量をですか!?」
「箱を返すのは明日でもいいか?」
「それは構いませんが」
「ありがとう。美味しそうだ、食べていいか?」
「も、もちろんです!」
そうして破壊力抜群な甘く柔らかな笑顔をリリアンに向けながら隊長は昼食をとり始めた。
私の目の前には無残に崩れ落ちている騎士達がいる。もはやとどめを刺され、再起不能状態だ。実力のある者たちには全く見えない。それほどまでに精神的ダメージが大きかったのだろう。
小さなため息が漏れる。別に隊長達は仕事は真面目に熟し、文句などつけられないほどに働いている。ウィリアム様の相手をするのも仕事だし、隊長が恋人に癒されている時間は休憩中のみ。それでも一言言わせて欲しい。
「せめて彼らに見えないところでやってあげてくれないかな」
目の前の憐れな騎士達を見ながら呟く。脳筋な彼らをまとめる隊長達を陰ながら支えるのが私の仕事だと思って動いてきた。引っ張るタイプではないと己自身理解していたから、今のポジションに文句はない。
だから、これも私の仕事なのかもしれないな。
「よし、明日は休みだ。今日は飲みにでも行こうか」
「ケインさぁぁあん!」
「行きますぅううう!」
「飲むぞぉおおおお!!!」
「おい、彼女いるやつは来るなよ!」
「そうだそうだ!」
何とか尽き果てた気力を絞り出して盛り上がる彼らを微笑ましげに見つめる……が、最後の言葉に引っかかった。
「彼女がいてもいいんじゃないか?」
「いや、それは駄目っすよ。幸せなやつは今日は抜きっす!」
「なら、私も駄目なんだが。婚約者いるし」
「「「ケインさぁあああああん!!」」」
だって私、一応貴族だもん。幼い頃から決められた婚約者ぐらいいるさ。
第十小隊の中で一番大人なのはケインさんでしょうね。
ちょいちょい小説にも出てくるケインさんは上と下に挟まれて苦労していそうだと思いまして……きっと、周りに気をつかいながら恋愛もしてきたんでしょうね。
ケインさん頑張って!




