精霊使いとしての仕事
リリアン視点です
王宮の前にはすでに騎士団第十小隊が揃っていた。第十小隊はヴェルモートさんを隊長とし、副隊長をティアが務めている。
そしてその中にとても懐かしい人を見つけた。青色の長い髪を後ろで結び、濃い紫色の瞳に眼鏡をかけた男性は、私が王宮で働いていた時の上司であり、3体の精霊と契約している王宮精霊使いでもあるハイドさんだ。
「ハイドさん! お久しぶりです!」
「リリアン、元気そうでよかったよ」
優しく笑いかける彼は、兄のように私のことを気遣ってくれる。精霊使いとしての資質を見つけてくれたのも、精霊について教えてくれたのもハイドさんだ。今の私があるのは彼のおかげと言える。それにしても……
「ハイドさん、目の下に隈ができてますよ。今度はどれだけ帰ってないんですか? 気をつけて下さいと言っておいたはずですが」
「あはははは、たまたまだよ。ちゃんと帰ってるよ?」
ハイドさんは精霊の歴史を研究しているのだが、精霊好きのせいか研究に集中しだすと時間を忘れ、休憩も食事もしなくなる癖があった。いつも注意するのは私の役目だったのだが、目を逸らしているところを見ると怪しい。疑うように見つめていると、ヴェルモートさんから情報が与えられた。
「もはや研究室がこいつの部屋だな」
「ちょっとレオ! いらないことを!」
ハイドさんが慌ててヴェルモートさんの口を塞ごうとするも、華麗にかわされている。ちなみにハイドさんはヴェルモートさんの数少ない友人である。
それにしてもやはりそうか。あんなに口酸っぱく言っていたのに!
「ハーイードーさーーーん! もういい歳なんだから自分で管理できるようになってください!」
「ちょ、酷いなぁリリアン。いい歳ってまだ24だよ!」
「24歳は立派な大人です」
私の言葉に落ち込み項垂れるハイドさんを見て、少し言い過ぎたかなと後悔し始める。なんて言えばもとに戻れるか考えていると、ハイドさんが急に顔を上げ、ヴェルモートさんに詰め寄った。
「24歳ってもう老けてるかなぁ? どう思う?」
「知らん、俺に聞くな」
「なっ! 老けてるなんて言ってないじゃないですか! 子供じゃないって意味ですよ!」
慌てて反論すると、ハイドさんがニヤリと笑う。この人、わざと同い年のヴェルモートさんに振ったな! 私が動揺するのを楽しんでる。本当に人をいじるのが好きなんだから! 後悔して損したわ。ハイドさんをひと睨みしていると、呆れた顔のティアが入ってきた。
「話はそれくらいにして、早速調査に向かいましょう。歪みの生じた所までは距離もあるし馬で行くわ。リリアンは乗れないから私と一緒でいいわね?」
「うん。よろしくね」
実は、あの部屋からここまでの間に一悶着あった。それは私が誰と馬に乗るかである。最初の案は、なんとヴェルモートさんと一緒と提案されたのだ。それも本人からである。何を血迷ったかと思わず身を引いてしまった。ヴェルモートさんに抱きつけと? そんな恐ろしい事できるわけない。もはや無事、目的地に着けるかさえ自信がない。
理由は簡単、馬を走らせるのも扱うのもヴェルモートさんが1番上手いからなのだが、彼はやはり私を女と思っていないんじゃないかな。
しかし、反論してくれたのはティアだった。未婚の女性を乗せるなど、もってのほかだと言ってくれたのだ。私にとっては未婚関係なくヴェルモートさんにくっつくなど、もってのほかなのだけど。
ヴェルモートさんは、そんな強く反論するティアの意見を汲み取ってくれた。家族に過保護なティアに救われた。危うく彼の上着を鼻血で染め上げるところだった。
そんな訳でティアと馬に乗り、歪みの発生した場所まで走っているのだけど、私はティアの腕の中にいる。てっきり後ろに乗ってしがみつくのかと思えば、ドレスの私が後ろに乗るとスピードを出せないので、前に座り包み込まれる形で乗馬することになったのだ。本当に危なかった……彼の目の前で鼻血を飛ばすところだった。
そんな事を考えているとはつゆ知らず、第十小隊は王都の外へと馬を走らせた。賑わう街並みから門を抜け、林へ入る。木々を抜けながら王都の塀に沿って走っていくと、目的の場所へとたどり着いた。そこは何の変哲も無い場所だった。こんな人気のないところで何があったのだろうか。
馬から降りるのを手伝ってもらい、塀の近くまで向かって行く。ここからは精霊使いの仕事だ。
「ハイドさん、私は植物の精霊カリシアと風の精霊シルくらいです」
「僕は土の精霊ノルムだけかな」
精霊使いは、自分の契約している精霊に契約していないと姿の見えない精霊と会話をしてもらうことで、精霊から話を聞き、原因のわからない事柄を解決するのが仕事だ。他の精霊と関わりを持つことをしない精霊達と会話するには属性が近い精霊同士の方が成功確率が高くなる。そのため、林の中で活躍できるのは限られてくるのだ。
「2人ともお願いね」
「頼むよノルム」
そう言うと光の粒が辺りに広がっていく。騎士達はその美しく幻想的な光景にため息を漏らしていた。わかる、私も初めて見た時は感動したもの。自分自身が作り出した光景ではないけれど、少し鼻高々である。
少し待っていると、カールした緑色の髪を可愛く揺らす植物の精霊カリシアが姿を現した。
「リリアン、範囲が広すぎて状況を知っていそうな精霊までたどり着くのに時間がかかりそうですぅ」
「そうなの?」
「はいぃ。植物達に宿る精霊は下位精霊で、一つ一つの植物に宿っていますから、こんな緑の多いところで一体一体確認していたら、たどり着くのは何時になるか……」
うーん、確かにそうか。周辺に緑がたくさんあるからすぐわかるかと思ったけど、気まぐれの精霊の中で人間に興味を持つ精霊は少ない。だからこそ精霊使いが貴重な訳だけど、これはなかなか難しいかも。
後から風の精霊シルも難しい顔をして現れた。ハイドさんの様子を伺うも同じ反応だった。このままウィリアム様のもとに収穫はありませんでした、なんて報告をしに戻る訳にもいかない。何か捕まえなくては……やっぱりやるしかないかな。
「しょうがない、私がやるしかないか」
「リリアン大丈夫?」
シルが不安そうに尋ねてくる。この力を使うと身体が怠くなるから使いたくはないけど、これよりいい手段を思いつかないし、しょうがない。
「無理はしないから、大丈夫よ?」
「わかった……」
そんな精霊との会話を聞いて、ハイドさんが怪訝そうな顔をして近づいてくる。
「何をする気だい?」
「新ワザをお披露目しようとしてます」
怪訝そうな顔が直ればとおちゃらけて返すが、効果はなかった。精霊使いは精霊の力をかりるだけに過ぎない。その精霊がお手上げなのに新ワザなどと言っているからなんだろうとはわかる。でもこの新ワザは公の場ではできない。ある意味、国家秘密だからである。
「ヴェルモートさん、少しお願いがあります。耳を貸してくれますか?」
「?……わかった。」
突然話しかけられ、よくわからないという顔をしながら耳を貸すために屈んでくれる。私が言い出したことだけど、これは恥ずかしい。でも、髪綺麗、良い匂いもする。っていやいや何を考えてる! 仕事、仕事、と言い聞かせて、私はお願い事を囁いた。
この小説、登場人物が多いんです。
作者の私もわからなくなる時があるほど…いや、私はカタカナが覚えられないだけかもしれませんが。
なので、一番最初に登場人物紹介を入れようと思います。わからなくなった時などにお使いください。




