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星の下で貴方を想う①

ティア視点です。


 

 あれからナルエラ王国は黒幕を捕まえた事で次々と関係する者を捕らえていった。ほとんどウィリアム様の計画通りに事が進んだのだろう。多くの魔術師や貴族が捕らえられ、これから国の立て直しが大変だろうと思ったが、ラルフレット国王は国の仕組みを変えるちょうど良い機会となった、とウィリアム様に伝え、謝罪と共に感謝もお伝えになったそうだ。


 エレントル王国の者一行は身体を休めるため一日王城で過ごし、公式的な訪問ではないので、ひっそりとラルフレット国王や側近のみに見送られ、エレントル王国へと出航した。


 ラルフレット国王が用意させた船は、行きよりも大きく立派な船であった。また一隻のナルエラ王国の護衛船まで付けられている。行きと違い張り詰めた緊張感もあまりなく安全な船内では、夜になれば見張り番の者以外は気を緩めて酒を飲み交わしていた。

 一杯だけ酒をもらい、一人甲板に出る。雲ひとつない満天の星空は美しく、穏やかな海を月が照らす。気持ち良い海風が髪を靡かせるのをおさえながら、果てまで続くような光景を見つめ、滅多に飲まない酒を舐めるように少しずつ啜った。


 一人になれば考えてしまう……

 私は選択を間違えたのかと。


 あの後ナルエラ王国では今回の件についての話し合いがあり、ウィリアム様と個人的に話す機会はなかった。一騎士として彼の護衛にあたるだけ。そして、ウィリアム様も変わらず王太子として私に対応していた。

 それは私が選んだこと。彼の隣に立つには私はあまりにも問題を抱えすぎていて彼の想いを受け止めきれず、このままの関係でいることを求めた。それが彼のためになると信じて。


 それでも、私の選択が間違いではないと思えたのはあの時だけで、一人になれば本当にこれでよかったのかと自問する。それが彼への未練だとわかっていても、私は他に良い選択が見つけられなかったのだ。

 私は彼を想いながら彼の側にいられる、彼を守れる、それでいいじゃない。そう言い聞かせながらも、彼の隣に別の女性…婚約者候補の二人のどちらかが並んだら私はどう思うのだろうかと考えるだけで気が滅入る。そしてまた私は間違えたのかと自問するループに入ってしまうのだ。



「こんなんじゃ、お酒も美味しくないわね……」



 なかなか減らないグラスを見つめながら、小さく息を吐く。本当に私は何がしたいのかしら。



「……ティア?」



 呼ばれた方を見ればリリアンが心配気に暗闇の中に立っていた。



「あら、もう寝てるのだと思ったわ」

「あー、うん。行きは船の上で景色なんて見れなかったからさ。存分に楽しもうと思ってね」

「そう」



 ゆっくりと私の隣に来たリリアンは、私の手元を見ると小さな声で私に問いかけた。



「私、違うところに行こうか?」



 その優しさに溢れた言葉を聞いた瞬間、何故か目頭が熱くなる。最近涙脆くなってしまったみたいだ。声を出せば涙が溢れそうで、無言のまま首を横に振る。



「じゃあ、ここにいる。船の上は周りに明かりがないから星が綺麗。王都に来てからはなかなか綺麗に見れなくて残念だと思ってたんだよね。私、魅入っちゃうかもしれないから話しかけられても聞こえないかも。その時はごめんね」

「え?」

「夢中になったら聞こえないかもしれないけど、気にせず話してってこと」

「……ふふふ、そうね。リリアンは気になり始めると周りが見えなくなるものね」

「直したいんだけど、なかなか直らないのよねー」



 リリアンは困ったという顔をしながら、王都に来る前、リリアン家族と過ごしていた頃住んでいた村の周りの森でよくしていたようにゴロンと甲板に寝転がった。女性がするには、はしたない格好だから注意しようとして止めた。ただ一心に星を見つめているフリをするリリアンに注意することができなかった。


 聞こえないかもしれないけど、気にせず話して


 なんとも不器用な誘い文句、それがリリアンの精一杯だとわかるから。リリアンやザックは滅多に自分の事を話さない私に無理矢理話を聞いてくる事はなかった。それでも二人がいれば安心して決断できていた。迷えば相談する事もあったけれど、騎士となってからは秘密事項も増え、なかなか相談する事もなかった。それでも気にしながらお互いを見守ってきたのだ。

 だからこその誘い文句。相談してと言われて相談するタイプの私ではないから、愚痴を零せばいい、そんな誘い。その不器用さが微笑ましく、有り難かった。だからその優しさに甘えさせてもらう。



「ずっと気づかないフリをしてたけど、彼は私にとって特別だった。リリアン達家族や両親への愛情とは違う、仲間達への信頼とも違う、彼への感情は全てと違ってた。声を聞くだけで安心して、何を考えているのかわからないだけで不安になる。私に向けて心からの笑顔を向けてくれるだけで幸せや優越感に浸れ、体が勝手に動くほど失うのが怖い」

「……」

「正直、好きって感情がわからなかった。それでも両親やおじさんおばさんのような関係になれたら幸せなのかもしれないと、ずっと側にいたいと思えた。だからこれは好きということなんだと思うの」



 憧れていた。言葉にしなくても目線で愛し合っているのが伝わる、あんな関係を。


 ゆっくりとリリアンの横に寝転がる。目の前には星空が広がっているはずなのに、ぼやけて淡い光にしか見えなかった。



「私は間違った選択をしたのかしら……彼の負担にはなりたくなかった。側にいられればそれで十分だと思ってた。それなのに……なんでこんなに悲しいの。なんでこんなに苦しいの。彼を想ってるだけなのに」



 言葉にすればする程溢れる涙が止まらない。悲しいと、苦しいと吐いてしまえば簡単な事だった。

 私は彼を守る一騎士としてではいたくない、彼の側ではなく隣にいたい、他の女性を見て欲しくない、そう思ってしまっている。後悔しているのだ。


 なんて自分勝手で愚かな願いなんだろう。彼のためにと彼を傷つけ突き放したのは自分自身なのに、諦めきれないなんて。



「私は馬鹿ね……」



 甲板に響くのは私の声とすすり泣く音だけ。リリアンは一言も発することなく私の手を握りしめた。


 こうして女だけの静かな天体観望は幕を閉じたのである。




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