捜索活動
ウィリアム視点です。
船から降りると、待っていたのはナルエラ王国の国王が使いに出した者達だった。深々と頭を下げて待つ彼らのもとへと向かう。
「まさか迎えが来るとはな。まずは頭を上げよ」
「失礼いたします。遠路はるばるナルエラ王国まで足をお運び頂きまして、誠に申し訳ありません、ウィリアム王太子様」
一番前に立つ男は頭を上げたかと思うと、すぐに謝罪の言葉と共に頭を下げた。この者がこの場での責任者のようだ。他の者よりも身なりの良い格好から国王の側近なのだろう。
「その言い方だと事情は全て理解しているようだな」
「はい。国王陛下よりその件についてお話があると申し使っております」
「わかった。時間が惜しい、すぐに向かおう」
「かしこまりました」
そのまま馬車に揺られ王城へと向かう。他の者は、護衛の騎士に馬が与えられ、その他は徒歩で王城へ向かった。ナルエラ王国は島国であるため、港がある一番栄えたこの街に王城はある。そう遠い道のりではない。
側近であろう男は馬車に同乗し、王城に着くまでに自国で調べた事を報告してくれた。こちらが時間を気にしている事への配慮だったのだろう。なかなか気がきく。
到着した王城は、我がエレントル王国よりも塀が高く、建物自体も高かった。これは攻め込まれた時に守り抜くための構造なんだとか。応接間には私とレオだけで入り、少し離れた部屋に他の者を控えさせる。戦争をしに来たわけではない。協力してもらえるのならそれに越したことはないのだ。まずは友好的に話を進めるため二人だけで乗り込んだ。
すでに待っていた国王は、国王にしては若い男だ。なぜなら急死した前国王の代わりに、若干22歳で即位したからだ。5歳年上の彼には、エレントル王国に留学しに来た時にお世話にもなった。そう、知り合いなのである。
「ラルフレット国王陛下、お久しぶりでございます」
「ウィリアム王太子、久しぶりだな」
久しぶりの再会に握手を交わすが、挨拶はここまで。時間の猶予はない。
「早速ですが、我が騎士と魔術師を捜索に向かわせたいのです。よろしいでしょうか?」
「あぁ、わかっている。我が国の者にも手伝わせる故、好きに使ってくれ」
「ご協力ありがとうございます」
レオに目配せすると、小さく頷き扉の外に待つ伝達の者へと伝えに行った。
「今回の件、誠に申し訳なかった。そちらから連絡が来るまで全く気づかなかったとは、完全にこちらの落ち度だ」
「私達も計りかねていたとはいえ、お伝えしなかった事は申し訳ないと思っております」
「いや、いいんだ。そちらに非はない。それどころか、ナルエラ王国全体での仕業だと判断されなかっただけでも感謝している」
「それは私がラルフレット様の人と成りを知っていたからです。変わられていないのならば、争いを好まないあなた様がこのようなことはしないと思っておりました」
実際、レオなどには国で動いているのか個人で動いているのかわからないと言ったが、個人であろうとは思っていたのだ。しかし、それを証明する証拠がなかった。それをはっきりさせるためにリリアンを囮にする作戦に出たのだ。
「誠に感謝する、ウィリアム様」
「先ほどこちらに来るまでの馬車で一通り報告は受けました。そして、作戦はその者に伝えましたが聞きましたでしょうか?」
「あぁ、聞いた。しかし良いのか?」
「ええ、良いのです」
「……何から何まですまないな、ウィリアム」
「気にしないでください。これが両国のためです、ラルフ兄様」
申し訳なさそうに顔を歪めるラルフレット様に笑いかける。呼び方が昔に戻ったのも、全てを託された証拠なのかもしれない。ならば全力で応えるのみである。
「では、私はこれで失礼します」
「こちらのことは任せておいてくれ。馬は用意させた、存分に使ってくれ」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
一礼し、応接間を出るとレオが戻ってきたところだった。そのレオの表情は早く行きたいと急かしているようでもあった。
「私も捜索に出る。まぁ、ハイドがいればすぐに見つかるだろうから心配するな、レオ」
「……はい」
「心は決めたな?」
「はい!」
「よし、では行くぞ」
頼もしい返事をし、早歩きで廊下を歩くレオに苦笑いしながらも、これからのことを考えて気を引き締める。王城の前まで行けば、すでに皆は準備万端で、いつでも馬に飛び乗れる状態だった。なんとも頼もしい者達である。
「これよりリリアンの捜索にあたる。ハイド、どうだ?」
「大丈夫です、辿れます」
「よし、では行くぞ!」
「「「はっ!」」」
先頭をハイドが走り、その後にレオ、私、騎士、魔術師が続く。馬に乗れない者は相乗りだ。
ハイドが先頭の理由は、リリアンの精霊が残した印をハイドの精霊が追うから。ハイドによると、精霊は遮断されても契約者に力は貸せないが追うことはできるため、リリアンの辿った道を示してくれているそうだ。ここまで協力的なのは、心からリリアンのことを心配してのことだろう。その想いに応えるべく、ひたすら馬を走らせる。
集団の先頭を精霊の光が照らし、それを追うように賑わう街から遠く離れた林の中を駆け抜ける。敵が折り返してくる可能性も考えて、道から少し外れた木々の中を走るため、魔術師が速度を上げられずレオの纏う空気が一層張り詰めていくのが真後ろの俺にはよくわかった。
「レオ、あまり気を張るなよ」
「……はい」
馬をレオの横につけ、落ち着いた声を意識して話しかける。長年、レオの友人をしてきたが、ここまで緊張しているレオは初めて見た。しかし、それも仕方がないのかもしれない。ナルエラ王国に着く少し前、俺の部屋として使っている船の一室にレオが訪れた時のことを思い出す。
『失礼します。突然、申し訳ありません。』
これからのことを考えながら深く椅子に掛けていたのを座り直し、レオを見つめる。その真剣な面持ちに何かあったのかと思ったが、俺に報告するべき事件が船の中で起こるはずもないと考えを改める。そうなれば、レオにとって大切なことは一つしかない。
『彼女のことか?』
『はい』
『ならば、それは友人として聞こう。そう硬くなるな』
『……わかった』
向かいの椅子へ座るように促し、レオの様子をつぶさに観察する。一度下を向いたレオは決意を固めたように顔を上げ、俺をまっすぐ見つめ返した。
『俺は……恋愛感情がよくわからない』
『あぁ』
『だから今でもはっきりとは言えない』
『そうか』
まさか律儀に船の上で過ごす三日間考えて、結論が出ませんでした、なんて報告に来たのか。おいおい、どれだけ不器用なんだ。そんな俺の心配はすぐに消え去った。
『だが、彼女がいなくなることを考えただけで恐ろしい。ハイドが言ったように、彼女に何かあった時……お前の側を離れないと言い切る自信がない』
『レオ』
『職務放棄だ、やって良いことではない。それはわかっているのに自信がないんだ……すまん』
真剣に頭を下げるレオを見て、心が熱くなった。確かに職務放棄と言えばそれまでだが、レオが俺より命をかけ守りたい人ができたこと。それが女性であることが本当に嬉しかった。少し寂しい気もするが、これでレオは簡単に命を投げ出すことはないと思った。
俺が一番心配していたことは、俺のためにレオが死ぬこと。王太子である俺の命が最優先される事は十分理解しているが、大切な友人や仲間が俺のせいで死ぬことが耐えられなかった。忠誠を誓ってくれている者に、こんな事を考えるのは彼らの意志を裏切ることなのかもしれないが、それが何よりも苦痛だった。特にレオは、この世に未練はないと言い切れそうな男だから怖かったのだ。そこに珍しくレオが受け入れる女性が現れた。そのことに一番期待したのは俺なのかもしれない。
『レオ、俺はお前が大切な人を見つけた事が心から嬉しい。だから謝るな。俺に忠誠を誓ってくれていることに感謝している。まぁ、恋愛感情は深く考えるな。もう一度彼女に会えば何かわかるさ』
『……そう、だろうか』
『あぁ』
何かを考えるように黙り込むレオを心の中で応援しつつ、レオが己の世界から戻ってくるまで放っておいた。この後、言われた通りハイドにも報告しに来たと聞いた時は笑ってしまった。
「あそこです」
ハイドの声で我にかえる。馬から降り、木の陰へと隠れながらハイドの指差す先を見る。そこには貴族の屋敷として使われていたのだろう古びた建物があった。
「あの建物の地下のようです。精霊を遮断する部屋に入れられているようで、中の様子はわかりません」
「よし、わかった。では建物の周りの結界を破壊するのと同時に進入する。外に逃げる者も逃すな。先頭は第十小隊だ。魔術師もすぐあとを追え。レオ、頼むぞ」
「はっ!」
「ではーー」
「お待ちください、何者かが出てきます!」
建物の入り口に目を向けると、そこから貴族らしき男が出てきた。俺たちに気づくこともなく、そのまま馬車に乗り込み出発する。黒幕である可能性が高いため、数名の騎士と魔術師に追跡を指示する。あの様子だと時間の猶予はなさそうだ。
「急ぐぞ。準備はいいな!」
「「「「はっ!」」」」
「では突撃開始!」
俺の合図と共に魔術師の攻撃が始まり、レオ率いる第十小隊が走り出した。




