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不器用騎士に喝!

ティア視点です。


今回も長くなってしまいました。

 

 大きな船は約60人近くを乗せてアルフォード領の港を出航した。ナルエラ王国までは約3日程かかる。

 それにしても、よく40人の救出隊と船上でお世話をしてくれる者、船を動かす者を乗せることができる大きな船を調達できたな。食材なども確保されており、本当にどこまで見越していたのかとウィリアム様に聞いてみたい。そんな事を考えていると、背後から男性の話し声が聞こえてきた。振り返れば、そこにはハイドさんとヴェルモート隊長がいる。


 他者が見れば、いつも通りの不機嫌そうな表情に、落ち着いているような立ち振る舞いであるヴェルモート隊長だが、よく知る者が見れば、どこか落ち着きがない。黙って立っているだけでも、あまり話しかけたくはないオーラを放っている。そんな隊長を気にすることなく話しかけられるのはウィリアム様とフィルディン様、ハイドさんくらいだろう。



「レオ、顔が怖いぞ」

「いつもと変わらん」

「いや、いつもと違う自覚あるだろう?」



 盗み聞きをするのも気が引けてその場を後にしようとしたところ、ハイドさんが動き出した私に気づいた。



「ねぇ、ティアさん。君もそう思わない?」



 私に振らないでほしい。困ったように見つめ返しても、ハイドさんは許してくれない。



「僕が言うっていうのも迷ったけど、周りの人が指摘しないとわからないと思うんだ」

「はぁ」

「別に心配していることを隠さなくてもいいと思うんだよ。そんなそわそわしているぐらいならね」

「……」



 ハイドさんの言葉に隊長は眉間の皺をより深くする。確かに隊長は私達家族よりもリリアンの事で不安定な気がする。私達が心配していない訳ではなく、心が揺れているようだと言えばいいのか。そんな私の考えを代弁するかのように、ハイドさんは隊長に向き合うように立つ。



「レオは、リリアン救出という現実を理解しているし、ウィリアム様の作戦に納得しているけど、自分の中の感情が理解できていない。いや、二の次にしているってところかな?」

「な、何を言ってるんだ、ハイド」

「その様子じゃ図星でしょ? ほらほら、友人に相談してごらんよ」



 腕を広げニヤニヤ笑うハイドさんは、心配というより面白がっているんじゃないかな、と思う。隊長は嫌なものを見るような目つきだ。



「お前……面白がってるだろう。こんな時に不謹慎だぞ」

「不謹慎? 僕はそんな状態のレオが作戦に参加する方が怖いから言わせてもらうよ。ウィリアム様はレオを信じて参加させたんだろうけど、今のままじゃリリアンも危険だ」

「そんなことはーー」

「ないと言えるかい? 中途半端な気持ちでいれば判断が鈍る。もしリリアンに危険が迫った時、ウィリアム様にも何かあればどちらをとる? はっきりとウィリアム様だと断言できるかい?」



 珍しい光景だと思った。いつも柔らかな眼差しでみんなを見ているハイドさんが、隊長に鋭い言葉をぶつけていく。その言葉を受けて押し黙る隊長というのも珍しい。以前リリアンが言っていた言葉を思い出す。


『ハイドさんは周りをよく見ている人なんだよ。きっと私達の中で一番それぞれの事を理解してるんじゃないかなー』


 きっと見るに見かねての行動なんだろう。周りの者は薄々感じている隊長の変化を本人が自覚していない。それはハイドさんの言うように命のやり取りをする場所では危険な事もある。〈理性と本能〉咄嗟の判断を迫られた際にどちらをとるのか。それは騎士にとって重要なことだ。命がけの場面では特にである。ハイドさんはそれを危惧しているのかもしれない。



「今の状態ならウィリアム様だと答えられるだろうけど、目の前でリリアンが危険な状態に陥っていたらわからないだろう?別にリリアンを選ぶ事が悪いとは言わないけど、レオの仕事はリリアン救出の前にウィリアム様の護衛でもあるんだ。気持ちをはっきり周りに伝えてくれないとフォローしたくてもできない」

「……ハイド、お前」

「ハイドの言う通りだよ、レオ」

「ウィリアム様!?」



 突然新たな人物が会話に乱入してきた。ウィリアム様はどこから聞いていたのだろうか。しかし二人も揃えば私の出番はない。私は少し三人から離れ、見守ることにする。



「確かにレオの事は頼りにしているが、友人としてはレオが大切な人を失うような選択はして欲しくない」

「……大切な、人」

「選択に迷うような事があれば僕達に相談すればいい。僕だってウィリアム様の事を全力で守るし、レオにとっての大切な存在を失わせるような事もさせない」

「まっ、自分の気持ちが判断できたら私にでも言ってくれ。しっかり協力するから」

「あっ、僕にも言ってほしいなー! あと3日は考える時間があるし、ゆっくり考えればいいよ」



 言いたいことを言ってすっきりした様子のハイドさんとウィリアム様、困惑顔のヴェルモート隊長。きっとこれは友人である彼らの関係性を表しているのだろう。男性の友人関係もなかなか大変そうだ。


 そんな男の友情を感慨深げに見ていると、突然ハイドさんが空を見上げる。その視線の先には黄色い髪の精霊が浮いていた。確かあれはハイドさんの光の精霊だったはず。何かリリアンの事がわかったのかもしれないと思い、三人の近くに駆け寄る。



「シャイン、何かわかった?」



 ハイドさんの問いかけに、少し眉をひそめる精霊シャイン。思わず皆が悪い事が起きたのかと険しい顔つきになる。



「トールが伝えに来てくれたんだけど、リリアンは精霊との繋がりを遮断する袋に入れられているみたいなの。二年半前の戦の時と同じ力を感じたって」

「遮断……それって。シャイン、他にはなんて?」

「魔術師であろう相手が6人、今はそれくらいかしら」

「わかった、ありがとう。また何かあれば頼むよ」



 ハイドさんの言葉に頷くと、光の粉を散らしながらシャインは姿を消した。もっと情報はわからないものなのか、そう思っていると、ハイドさんと目があった。



「精霊からもっと情報を得られないかって思ってるでしょ?」

「え、いや……まあ」



 図星すぎて居た堪れず目をそらす。



「精霊は契約していない他者には干渉しない。手を貸すこともない。そして、精霊同士も関わりを持たないんだ。ティアはリリアンの精霊達を見ているからわからないだろうけど、リリアンの精霊のように精霊同士が仲良くするのは珍しいんだ」

「そうなんですか?」

「なんたって精霊は気に入った相手には愛情が深い分、他の精霊への嫉妬心も強い。だからさっきみたいに他者の精霊とコンタクトをとるのなんて、かなり難しいんだ」



 さすがはこの世界の根源と言うべきか。神のような次元である精霊が考えることは理解しがたい。

 精霊について教えてもらっていると、横からウィリアム様が話に入ってくる。



「それで結局どうなのだ?」

「あ、はい。リリアンは精霊との繋がりを遮断され、精霊の力を使えない状態にあるということです」

「そんな魔法があるのか?」

「二年半前の戦で精霊の力が感じられない水晶、つまり精霊の力が効かない物がありましたよね? たぶんそれです」

「……黒魔法か」



 ヴェルモート隊長の呟きにみんな沈黙する。

 二年半前の戦は、負の感情に反応し魔力の器から生まれる魔毒によって、身体能力が上がる代わりに自我を失う黒魔法使いに落ちた者達が世界を滅ぼそうとしたものだった。

 その際、世界を滅ぼす程の魔毒を550年溜めた水晶が彼らの強さだったのだが、その水晶に溜められた世界の理に反した魔毒の力は精霊を宿していなかった。あの戦を終わらせたのはリリアンが呼び出した精霊王が世界にある全ての魔毒を浄化したからだ。魔毒を浄化したことによって敵が黒魔法を使えなくなったことで勝利したのである。



「まだあの戦から二年半しか経っていないぞ」

「しかし、精霊の力が効かないのは黒魔法くらいです」

「そんな短期間で魔毒をためて黒魔法を使う者が現れることなどあるか? まさか……」

「研究していた……ということもありますよね」



 ウィリアム様とハイドさんの交わす言葉に私は絶句していた。あの戦の事は忘れない。いや、忘れられない。苦しい過去に耐えられず絶望のなか落ちていった者を斬らなければいけない事への虚しさ。あんな思いは二度としたくないと思うほどだったのに、それを自ら作ったというのか。



「もしそれが事実なら、許せません」

「ああ、許せることではないな」



 私の小さな呟きにウィリアム様が頷く。ナルエラ王国が何をしているのか。これはリリアンの件だけではなく、調べるべきことのようだ。



「でもその話からすれば姉さんに魔術は効くということですね?」

「ザック?」

「盗み聞きする形になってしまい申し訳ありません」

「いやそれは構わない。こんなところで話していた私達が悪いのだしな。それでザック、何が言いたい?」



 ウィリアム様の問いかけに一度躊躇うが、促される視線に耐えかねたようにザックが口を開く。



「いえ、その……詳しい事情を伝えるのは姉さんの不安を煽ると思いますし、何か仕掛けられていては困りますから長時間は無理ですけど、短い時間なら結界も張れますので相手に気付かれずにメッセージを送れると思うんです」

「メッセージ?」

「姉さんに必ず助けてもらえるっていう安心感を与えてあげたいんです」

「……なるほどな」



 そのザックの提案は姉への想いをよく表していた。精霊と遮断され孤独の中で戦っているリリアンにできること。一人ではない、それを伝えられるのなら私も大賛成だ。皆もザックの想いを感じとり、自然と顔を綻ばせる。



「風魔術と結界魔術を同時に使えるとは、さすがとしか言いようがないな」

「ありがとうございます」

「ならばレオ、お前が伝えろ」

「ウィ、ウィリアム様!? 私が……ですか?」

「よろしければ姉さんのためによろしくお願いします」



 ザックが狼狽えるヴェルモート隊長に頭を下げる。たしかに隊長が伝えた方が不安だろうリリアンにはいいかもしれない。これはリリアンのためなのだ。ヴェルモート隊長の心なんて気にしていられない。



「隊長、お願いします」

「お前まで。しかし、私が伝えて効果はあるでしょうか?」

「はぁ……本当にリリアンが可哀想になってきた。もう深く考えなくていいからレオが伝えなよ」

「……わかった」



 半分納得していない様子の隊長だが、ハイドさんに促される形で頷いた。本当に恋愛に関しては鈍いというレベルを越えていると思う。



「ではヴェルモートさん、風魔術は使えましたよね? 僕はヴェルモートさんが魔術を発動するタイミングで結界を張るので、短い言葉でメッセージを飛ばしてください」

「わかった。ではいいか?」

「え、もう言葉を決めたんですか!? あ、はい。大丈夫です」



 ザックが答えると、ヴェルモート隊長は目をつむり魔術を発動したようだった。ほんの一瞬の事だったため本当に伝えたのかと思ったが、ザックが頷いたので無事メッセージが飛んだのだろう。リリアンが少しでも安心できればいい、そう願いながら果てしなく広がる海へと視線を移す。


 それから何事もなく航海は進む。あっという間に日は過ぎて、私達はナルエラ王国に到着したのだった。



こちらの小説を投稿の際、誤って完結済みにしてしまったことをこの場をお借りして謝罪申し上げます。

誠に申し訳ありませんでした。


まだ小説は続きますので、お楽しみいただければ幸いです。

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