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隠せない動揺

レオナルド視点です。


少し長めになってしまいました。

 

 何をするにも落ち着かない。身体が軽いというよりも、地に足がついていないという方が正しい。今までウィリアム様の指示のもと、大きな組織に乗り込む時も戦に出る時も、己の命をかけていても感じなかった恐怖と不安が自分を襲う。

 ティアからもたらされたリリアン失踪の報告からこの状態。ウィリアム様にまで注意される程、俺は取り乱していた。自分らしくないと理解したのもウィリアム様の言葉だったほどである。


『彼女を助けに行かなくては』


 俺の中にあったのはその想いだけ。想いがそのまま行動となり、なりふり構わず執務室を飛び出そうとしてロベルトに手を掴まれた時、俺は一瞬本気でロベルトに殺意さえ覚えた。幼い頃からの友人に対して、あんな態度をとったことに一番驚いたのは自分自身かもしれない。この頃の俺は変だ。感情が思うように制御できない。それもこれも彼女、リリアンが関わることばかり。



 各隊への連絡や本部への申請、備品の用意及び確認など、出発に必要な準備をする際もなかなか落ち着くことができず、俺よりも心配しているだろうティアに注意される始末。ここまで落ち着けないなんて、俺はまだまだ未熟だと痛感させられる。なぜこんな精神状態に陥っているのかさえわからないのだ、いや、薄々感じているのかもしれない、自分の心の変化に。しかし、初めての感覚に正解がわからない。



 まずは落ち着け、冷静になれ。この想いが何なのかを知るのも、今の俺の状態を打破するには必要なことかもしれないが、この状況をどうするか、どうやってリリアンを救い国を守るかの方が最重要だ。

 そう思いながらも待ちきれずウィリアム様の執務室へと向かう。ウィリアム様は俺が来たことに驚く様子もなく、指示を出していた。さすがに俺が出るところではないと判断し、扉の横で待機する。その時間がとてつもなく長く感じた。



「レオ、お前には騎士の総隊長を務めてもらう」

「はっ!」



 俺を見つめるウィリアム様は決意を感じさせる厳し表情だった。いつもなら頼もしいと思えるその表情が、いやに恐ろしく思えた。思わず手に力がはいる。



「リリアンの事情を知るお前には作戦の全てを伝える」

「ということは他の者には全てを伝えないと?」

「あぁ。まだどこまで内部が侵食されているのかわからないからな」

「かしこまりました」



 ウィリアム様の言いたい事はわかった。結界を破りリリアンを誘拐した相手と精霊省管理長ニコール・エルキンソン伯爵を襲った相手が同じ又は繋がっているか、全く関係ないかはわからないが、王宮内部に敵がいるのは事実。それをあぶり出し一気に捕らえたいのだろう。



「敵が他国の者の場合、国家が動いているのか個人が動いているのかわからなければ手を出すのは難しい。それこそ外交問題にも発展しかねない。そこでだ。リリアンをすぐに救出せず、敵の動きを見る」

「!」



 絶句とはこういう時に使うのだろう。頭と心がついていかず、声を発する事ができない。反応のない俺に向けてウィリアム様は一度話すのを躊躇した様だが、そのまま作戦を話し続けた。上手く働かない頭を懸命に使い、なんとか作戦を聞き取るが、聞けば聞くほど心はついていけなかった。



「どういうことでしょうか?」

「理解できないお前ではないだろう」



 確かに理解はした。リリアンを囮として黒幕を見つけ出すのは、国同士の探り合いで敵をうやむやにされないためには最善の策かもしれない。ウィリアム様もリリアンがただの令嬢ではなく、戦も経験したことのある精霊使いだからこその作戦だろう。国内はロベルトやカール様に任せるのも納得はできる。しかし、リリアンがどういう目的で誘拐されたかはっきりしていない今、彼女に危険が及ぶのではないか。もし彼女に何かあったらどうする。必ず成功する作戦などはなく、今までもリスクを犯してきたというのに、そのリスクが彼女の命となると冷静ではいられない。




「しかし、それでは彼女が危険です!」

「リリアンは必ず助ける。そのためにお前も動くのだろう?」

「ですが!」

「私の判断に納得できないのなら……レオ、お前は外さなくてはいけない」



 そのウィリアム様の言葉に反発しそうになり、もう一度落ち着けと自分に言い聞かす。ウィリアム様は好きでこの判断をした訳ではない。リリアンの事を心配していても、王太子として国のために判断したのだ。そんなウィリアム様を責め、苦しめるのは間違っている。

 本当ならやりたくない。彼女に危険な事をさせたくない。それでも、人に任せるくらいなら自分自身で救い出す方が安心できる。これは国のためなのだ。俺の感情で動いていいことではない。



 俺はウィリアム様の作戦をのんだ。ただし、リリアンに危険が及ぶと判断した時は動くと前もって宣言してだが。

 その後、ウィリアム様がリリアンの家族であるティアとザックに作戦を伝える頃には冷静さを取り戻していた。硬い表情でウィリアム様がティア達を待っていた事で我に返ったとも言える。ウィリアム様がティアに好意を持っていることは知っている。色恋沙汰はよくわからないが、好きな女性に嫌われるような事をしなくてはいけないのは辛いだろうと容易に想像できた。それなのにウィリアム様に伝えさせるとは……本当に俺はどうしようもないな。


 それでも、ティアとザックが作戦を受け入れた事でウィリアム様はホッとされていた。俺もここまできたら覚悟を決め、作戦成功のために尽力せねば。必ずリリアンは救い出してみせる!






 リリアンの救出には、騎士から第十小隊と第十一小隊、魔術師はザックと光魔術が使えるセレーナを含め8人、精霊使いはハイドという少数で動く。少ないが精鋭揃い。他国に乗り込む事を考えた上で、あまり連れて行けば戦争のようになると配慮した結果だ。国内でも捕り物があるのであまり動かせないのもあるが。


 アルフォード伯爵の領地までは王宮内にある転移装置を使う。転移魔法は魔力をかなり消費する上、3つの魔術属性を練り込む高度な技なため使える者は少ない。しかし、広い国土を持つエレントル王国は、各拠点となる大きな街に転移装置を設置し、王宮と繋いでいるのだ。繋がっているとはいえ、許可なく転移することができないよう術式が施されていて、この転移装置は複数の移動を可能としている。



「ティア、全ての出発の準備は済んだか?」

「はい、魔術師やハイドさんも集合しています」

「では転移装置まで来るよう呼んできてくれ」

「はっ!」



 走ってはいけない廊下をかなりの速さで歩いていくティアを見送る。心配で心が潰れそうなはずなのに、しっかりと仕事をこなすティアを頼もしいと思う反面、少し心配に思った俺は正常運転に戻ってきたようだ。そう思ったのは俺だけではなかった。



「いつものレオに戻ったな」

「先程は申し訳ありませんでした」



 少し呆れが入った笑みを向けたウィリアム様に頭を下げる。隣ではザックが不思議そうな顔を向けていた。



「いや、いい。レオがあのような反応をするようになった事が嬉しいくらいだ」

「……それはどういう意味でしょうか?」

「自分でわからなければ意味がないだろう?」

「はぁ」



 それがわからないから困っているのだが。あーだめだ。そんな事を考えては戻ってきた冷静さがなくなってしまいそうだ。

 眉間にしわを寄せ悶々と考えているレオナルドをウィリアムとザックが苦笑いで見ていると、ザックが何かを見つけたように小さな声を上げた。



「どうした?」

「いえ、知り合いがいたのでつい……申し訳ありません」



 ザックの見た方向へ目線を向けると、そこには暗めの金髪に赤みがかった茶色の瞳の甘い顔立ちの美青年がいた。あれは確かーー



「あぁ、最近よく見かけるな。母上のところに出入りしているノエール商会の者だろう? 侍女達の間で人気があると無駄な報告をロベルトにされたな」

「はい、そうみたいです。最近、王都の本社に来たみたいですから」

「知り合いか?」

「はい。父と住んでいた町でお世話になっていました」



 ウィリアム様とザックの話に何気なく耳を傾ける。そうか、町で知り合っていたから親しげだったのか。何となく気持ちがすっきり軽くなったのだが、すぐさまザックにより叩き落とされた。



「姉さんのお見合い相手だったんです」

「「お見合い相手!?」」



 ウィリアム様と俺の声がハモる。彼女のお見合い相手、お見合い……結婚…………。だからあんなに親しげだったのか。あんな無防備で、満面の笑みを向けていたのか。何かが崩れ落ちる感覚が襲ってくる。こんなにもダメージを受けているのは何故だ。なんだか目眩さえしてきた気がする。強く目頭を抑え、今日何度も自分に言い聞かせている言葉を繰り返す。『落ち着け、落ち着け自分!』


 そんなレオナルドの変化に慌てたのはザックだった。



「だ、大丈夫ですか!? フェルナンさんはお見合い相手ですけど、お断りして今では良いお友達ですから! お・と・も・だ・ち!! ヴェルモートさん、聞こえてますか!?」

「友達? ……そ、そうか」

「そうです! 友達です!!」



 何とか気持ちを立て直す。そうか、断わって友達なのか。ザックの言葉を次第に理解すると、先ほどの落ちた気持ちが嘘のように回復していく。ネックレスの件など気になることはあるが、彼女の男ではないとわかっただけで、ここまで気持ちが落ち着くとは。うん、この状態なら冷静な判断ができて作戦の実行に支障はないだろう。胸の奥にくすぶる気持ちを無視し、彼女の救出作戦だけに集中していく。



「急ぎましょう。もう皆が来ているかもしれません」

「あ、あぁ。そうだな」

「は、はい」



 背筋を伸ばし、颯爽と歩く姿は騎士そのもの。その後を追うようにウィリアムとザックはついていった。



「あのへこみ方からの立ち直りよう……本当に自覚がないのか。あそこまでわかりやすいのに、どんだけ不器用なんだ。なぁ、ザック。君は試してみたんだろう?」

「試したというか……事実ではあるんですが。まぁ、ちょっとどんな反応をするかは気になりました」

「それで君はどう思う?」

「……姉さんは大変だなと思いました」

「あはははは……」



 これから大きな作戦に挑むというのに、レオナルドの心配をしてしまうのは作戦への自信からなのか、ただただいつもと違うレオナルドが心配なだけなのか。


少し前話のウィリアム視点で語られたところのレオナルド視点が入りました。

こんなに葛藤していたんですねー…まぁ、概ねウィリアムの想像通りの結果でしょう。


それにしてもレオナルド…恋愛に関してはどうしようもない男になっているような。

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