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呼び出しのワケ

主人公リリアン視点です

 

 私達の生きるこの世界は精霊王の気まぐれで作られた。


 長い月日をかけ大地や海をつくり、命を生み出したのだ。生命の父と言われ、神として人間に崇められているもう一つの理由は、知能が発達した人間に魔力を与えてくれたことだ。人間は魔力を作り出す器を持つようになった。大抵の人は日常生活に便利な魔石を使える程の魔力しかないが、稀に魔力を産み出す器量が大きい者も現れた。その魔力によって人間はより進化し、国をつくるまで発展したのだ。

 そして精霊王を友としたリシウス様が世界で初めて作られた国が、このエレントル王国である。




 歴史を感じさせる装飾品が並ぶ廊下を抜け、通された部屋には、煌びやかという訳ではないが、美しく細かな彫刻を施されたテーブルや椅子が並んでいた。会議室みたいなところだろうか。座って待っていよう、とヴェルモートさんが言ったので、ティアとザック、私の4人は座って待つことにした。ちなみに、セレーナはただ私達に会いに来ただけのようだ。


 扉の開く音がし、同時にヴェルモートさんとティアが立ち上がる。それを見て慌てて立ち上がると、入り口には2人の男性が微笑みながら立っていた。頭を下げようとすると、軽く手を上げ止められる。



 艶のある黒髪に、この世界では珍しい漆黒の瞳を持つ甘い顔の美男子はエレントル王国王太子ウィリアム様。


 その隣にいるサラサラな長い金髪を後ろで結い、露草色の神秘的な瞳を持つ方は第二王子のカール様だ。

 見た目が違うのはウィリアム様は王妃様に、カール様は国王様に似ているからで、美しい顔の造りはなんとなく似ている。



「突然王都へ呼び出してしまって悪かったね。元気そうでなによりだよ」

「とんでもございません。お気遣いありがとうございます」



 ザックと共にお二人に頭を下げると、カール様がニヤニヤとザックを見て笑っていた。カール様はザックの魔法学校に通っていた際の友人でもあり、もうすぐ20歳になるはずなので、いい大人と言えるのだが、ノリは学生時代のままのようだ。



「ザック、セレーナ嬢には会ったのかい?」

「なっ! カール、様……からかうのはやめて下さい」



 その反応がツボに入ったのか、クスクス笑うカール様を無視するように、ウィリアム様が本題に入った。



「2人を呼んだのは、他でもない、王都を囲む結界が歪んだからだ」

「結界が歪んだのですか!?」



 ザックが驚くのは当たり前だった。なぜなら、今張られている結界を構築したのは天才魔術師と呼ばれたロミオ・ランバートだからだ。彼の結界は素晴らしく、構築されてから100年程の間、歪み一つできたことがなかった。

 先程まで笑っていたカール様もいつの間にか真剣な表情で話に加わる。騎士団の管轄がウィリアム様、魔法関係はカール様の管轄で、結界も彼の管理下なのだ。



「何者かの手が加えられていると思うんだ。そうでもなければ、あれほどの結界を歪めることなどできない」

「修復はされたのですか?」

「仮でね。結界魔法の得意なザックにも見てもらおうと思って呼んだんだ。原因がわかるかもしれないだろう?」

「わかりました」



 ザックが王都へ呼ばれた理由はわかった。しかし、私はなぜ呼ばれたのだろうか。


 この世界にあるものには全て精霊が宿っている。それは精霊王のつくり出した世界であるからだが、精霊を見ることができる者は少ない。精霊は気まぐれで、気にいった人間にしか姿を見せない。逆に、気にいると加護契約を結び、ずっと守るように手助けをしてくれる。そのため、精霊使いはとても貴重な存在とされているのだ。愛情深い分、嫉妬深い精霊と複数契約するのは大変難しく、多くても3体ほどである。そんな精霊使いの中でも私は珍しく5体の精霊と加護契約をしているのだがーー



「あの、私は何故呼ばれたのでしょう。」



 話に割り込むことに恐縮しながら、小さく手を挙げる。すると、ウィリアム様が優しく微笑みかけてくれた。この方は常に柔らかな笑顔で優しいが、たまに何を考えているかわからない。いや、王族の考えていることなど、私がわかるわけないか。



「リリアンには結界付近の様子を見て来て欲しいのだ」



 なるほど……人の目にはわからないところを見て欲しいということかな。この世界で1番物知りなのは人間ではなく、精霊と言っていい。なぜなら、永い時を生き、姿が見えない事で、この世の生き物に気づかれずに見ることができるのだ。今回はその精霊の力を借りて、謎の究明をしたいということだろう。



「わかりました。すぐ向かいます」

「じゃあレオ、第十小隊が動けるようにしておいたから、よろしく頼むね」

「わかった」



 まさかヴェルモートさんの小隊と一緒か。まぁ、ウィリアム様がまだ第一王子と呼ばれていた頃、王子直下騎士だったヴェルモートさんの隊を信頼しているのはわかる。ティアもいるし、小隊のメンバーも知ってる人ばかりだけど、一緒にいる時間が長いと…心臓保つかな私。



「それじゃあよろしく頼むよ。今日は王宮で書類と格闘しているから、何かわかったらすぐに連絡してくれ」

「「はっ!」」



 ヴェルモートさんとティアが騎士の礼をとり、私達は頷き返した。それを見届け、ウィリアム様とカール様、ザックの3人が部屋を出て行く。

 そう言えばウィリアム様は、2年前に王太子になってから政務にも関わっているんだっけ。書類という単語に憎しみすら感じたのだけど……そこは気にしないことにしよう。



 久しぶりの王都での仕事である。まずはこの後、私がやらなくてはいけない調査に集中しなくては!



「よし、私達も行くぞ」

「はっ!」

「は、はい!」



 ヴェルモートさん達と一緒だということをすっかり忘れてました!

 ちゃんと仕事ができるか心配になってきたなぁ。


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