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守りたいもの

ティア視点です。

 

 静かな夜の街の中、家を目指して歩く。今日は昼間に結界が破られ侵入者を探索していたが、何も王都内に変化はなかった。まだ動き出していないのか、王都を混乱に陥れるのが目的ではないのか。

 先日の精霊省の管理長の件で、ある貴族が浮かび上がり、そちらに意識が向いていた頃に破られてしまった。騎士も人手が足りず、ほぼ泊り込みで働いている。みんなの疲労もピークにきているだろう。私も着替えを取りに来ただけで、すぐに本部へ戻ることになっている。ザックも手が離せないのではないか。家に帰って来ているのかわからない。


 家の前まで来ると、窓から光が漏れていた。今日はリリアンが休日だったはず。連絡できず、遅くなったことを謝らないと。きっとご飯を作って待っていてくれているだろう。



「ただいま」

「姉さん!!」



 部屋の奥から叫ぶように飛び出してきたのはザックだった。その必死な形相に何かあったと理解する。



「どうしたの? リリアンは?」

「僕も今帰って来たところなんだけど、姉さんがいないんだ。こんな時間にいないなんて……何かあったのかな?」

「まさか……ザック、探しに行くわよ!」

「うん!」



 焦る気持ちを押さえつけ、街のいたるところを手分けして探す。リリアンの行きそうなところをしらみつぶしに回る。ほとんどの店が閉店していて、聞ける人がいないことがなんとも歯がゆい。何かがリリアンに起こったということか……もしかして侵入者の目的はリリアン? 突然思いついた可能性に愕然とする。


 リリアンは精霊王を呼ぶ事のできる精霊使い。2年半前の戦で王族ではないリリアンが呼んだということが知られれば、必ず政治的に利用される。そうなることがわかっていたから、リリアンの自由を保証する代わりに、リリアンが精霊王を呼んだことは伏せ、王族が呼んだことになっていた。

 それを知っているのは国王、王太子、第二王子、フィルディン様、現場にいたヴェルモート隊長、ハイドさん、私、ザック、あとは中核を担う信頼できる大臣数名のみ。(信頼できない大臣には伝えていない)そのため、漏れる事はないと思っていた。それが間違えだったということか。


 いや、この考えも証拠がない。しかし、もし相手に知られているとすれば大問題だ。血の気が引いていく。震える手を強く握り、自分のやるべき事を冷静に考えろと言い聞かせ、前を向いた。もう大切な家族を失うような事はしない。見ているしかできない自分はもういないのだ。

 合流地点でザックにそのまま探すように伝え、騎士団本部へ向かう。信頼できる仲間の元へと走り続けた。





 本部の中を駆け抜ける。走るな、と注意する声を受け流し、ノックもせずにドアを開けた。中には驚いた顔の隊長とウィリアム様、フィルディン様がいた。呼ばなくても揃ってるなんて、ちょうどいいタイミング。注意しようと口を開ける隊長を横目にそんな場違いな事を思った。



「リリアンがいなくなりました」



 私の一言で場の空気が止まる。ガタッと椅子の倒れる音がした。倒したのは立ち上がった隊長で、その音でウィリアム様が我に返り、フィルディン様が椅子を戻すが、隊長は固まったままだ。



「ティア、説明を頼む」

「はい。先程家に戻ったところ、休日のはずのリリアンがいなかったのです。こんな時間にいない事は今までありません。私の考えですが、侵入者の動きがわからなかったのは、王都を狙った大々的なものではなく、リリアン個人を狙っていたからではないでしょうか」



 ウィリアム様が腕を組み静かに考えている横で、突然隊長が剣を取り、部屋を飛び出そうとする。それをとっさに腕を掴んで止めたのはフィルディン様だ。



「レオナルド、どうするつもり?」

「探しに行く。昼間、俺は一人で買い物をする彼女に会ったんだ。あの後、何かあったに違いない」

「闇雲に探してもだめだ」

「うるさい、離せ」



 殺気を放つ勢いで睨む隊長と困り顔のフィルディン様。そんな殺伐とした空気を破ったのはウィリアム様だった。



「なるほどな……リリアンの行き先は何となくわかった。もう彼女は王都にはいないだろう」

「いない? しかし、不審者が門を出たなどという報告は上がっていません」

「気づかれないように出る方法はある。しかし、国家の秘密情報を簡単に知られるとは……野鼠を全て刈り取らねばならないな」



 いつもの笑顔はどこにもなく、低い声で呟くウィリアム様を頼もしいと思ってしまった私は余程切羽詰まっていたのかもしれない。



「出発の用意を……私も行く」

「ウィリアム様が行かれる必要はないのでは?」

「いや、私が行った方が話が進むだろう。ロベルト、お前は国内に残りやってもらいたい事がある。カールと一緒に動いて欲しい」

「かしこまりました。こちらはお任せください」



 すぐに主の意思を汲み取るところは、さすが王太子の右腕なだけはある。ウィリアム様が何をしようとしているのかわからず、ただ状況を見守っていた私の方へとウィリアム様が近づいてくる。その真剣な漆黒の瞳から目が離せなかった。



「必ず君の家族は救い出すよ」



 ドクンと心臓が跳ねる。懸命に隠そうとしていた不安や恐怖が潮が引くように落ち着いていくようだった。何故か目頭が熱くなるのがわかり必死に抑える。まだリリアンが戻ってきた訳ではないのに、必ず助かると心の底から思えてきたのだ。



「ありがとう、ございます」



 優しく笑うウィリアム様に騎士としてではなく、リリアンの家族として頭を下げた。



「ということで、レオ。俺にとってはリリアンを救う事は最重要課題だ。冷静に判断をできないのなら置いていくぞ」



 隊長の方に振り返ったウィリアム様は、先ほど私にかけた柔らかな声とは違い、落ち着き払った声で話しかけた。王太子としてではなく、友人としてかけたその言葉にずっと黙っていた隊長は顔を上げる。その表情はいつもの隊長そのものだった。



「すまない、もう大丈夫だ。彼女を連れ戻すのは俺にとっても最重要事項だ」

「ならいい。では出発の準備をするぞ」



 静かに頷く隊長の背中から感じるやる気、いや冷気を私とフィルディン様はひしひしと感じるのだった。


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