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曾祖父の秘密

ザック視点です。

 

 いつも常に静かな塔の中は、突然のことに人々の飛び交う声や動きで騒がしくなった。



「破られた結界の修繕を急げ!」

「魔術の解読を!」

「侵入者の確認をしろ!」

「各省への連絡は済んだか!」



 荒れ狂う塔の中を見ながらも、術式の上に立ち、魔力を練りながら破られた箇所を探し出し、結界の修繕にあたる。王都を囲む大きな結界をもう一度貼り直すには大量の魔力を使う。曾祖父の時も、術式は曾祖父が作り出したものだが、魔力は5人分が注がれてやっと成功したそうだ。そのため、壊れたからといって、簡単に張り直せるものでもないのだ。せめて、穴に新たな結界を繋ぎ合わせるのが最善の応急処置といえよう。



「頼むぞ、ザック」

「わかってるよ、カール」



 少しずつ術式の魔力と融合している感覚になる。やはり一番感じるのはロミオ・ランバートの魔力。5人の中で、一番魔力量があったのだろう。だからなのか、新たな結界を繋ぐのにそこまで時間がかからなかった。

 多少の魔力消耗を体で感じながら結界の穴を塞いだ頃、関係者以外立ち入り禁止の塔に突然入って来たのは、王太子ウィリアム様だった。その表情は険しい。常に笑顔の王太子にしては珍しいが、この状況で笑っている方がおかしいかと余計な事を考えてしまった。まだまだ自分は元気なようだ。



「カール、状況は?」

「はい。ただ今、破られた結界の穴は塞ぎました。破られた結界からは魔力が完治され、以前と同じく魔術師によるものでしょう。術式は残されていません」

「とうとう破られてしまったか……」



 残念そうに言うウィリアム様の言葉に、周りの魔術師も落胆の色が隠せない。私達にとって、この結界は最高峰と言っていいものだった。それが壊されたとあれば、ショックで落ち込むのも無理はない。



「兄上、この結界を破るとなれば、並の魔術師ではないはずです」

「そうだな。危険が迫っているのはわかるが、目的がなかなかつかめない。騎士を向かわせたが、誰もいなかったそうだしな。私は一度戻るから引き続き、監視を頼むぞ」

「はい」



 残された私達は、魔術の内容など原因の調査に乗り出した。それにしても一度結界を歪めてから、それほど月日が経ったわけでもないのに、よく結界を破る事ができたなぁ。あの結界を破ろうと思っても、破る術式をつくるのには長い時間がかかるだろう。もしや、ずっと王都の結界を破ることを企んでいた者がいるというのか。


 ふっと手元にある曾祖父の本に目がいく。こんな時に何をと言われるかもしれないが、塔の隅に腰掛けページをめくり始める。元々、読書が好きなため本を読むのは速い方だ。何もなければ途中でやめればいい、そう思いながらページを進めていけば、読み進める手を止める事ができなくなっていた。少しずつ顔色が悪くなっていく僕を見つけ、カールが声をかけてくる。



「ザック、どうした? 顔色が悪いぞ。何か恐ろしい事でも書かれていたか?」

「カール……少しいいかい?」



 ゆっくりと立ち上がり、先ほどの個室へと向かう。終始無言で歩く僕を心配気に見つめながら、カールが後ろを歩くが、気にしてはいられなかった。伝えるにしても僕自身の整理ができていなかったからだ。

 個室に入ると、待ちきれなかったようにカールが話を急かした。



「どうした。何が書かれていた?」

「ロミオ・ランバート……曾祖父の出生の秘密だ」

「なに? 確かエレントル王国の平民出ではなかったか?」

「僕もそう思っていたけど、違った」



 本に書かれていたのは、曾祖父が研究していた魔術についてだけではなかったのだ。



「彼はエレントル王国ではなく、ナルエラ王国の出身だったんだ」

「ナルエラ王国だって? あそこは確か、ダイアン王国の下にある島国で、魔術師が多い国だったな」



 ナルエラ王国は島国と言っても、かなりの国土を持つ国。歴史はまだ浅いが、国民の7割は魔術を使える魔法大国であり、魔術師が優遇される国である。魔術を使えない3割程の国民は、肩身の狭い生活を強いられ、亡命してくる者も多いと聞く。



「曾祖父は魔術師絶対主義のナルエラ王国が嫌で亡命したらしい」

「しかし、ロミオ・ランバートはかなりの魔力量を持っていたはずだ。待遇もそれなりによかったのでは?」

「母親は魔力が低く、迫害されていたらしい。そのため家族で亡命し、両親は追っ手に殺されたと書かれている」

「なんて酷い……」



 差別はどこの国でもまだある。それが国全体で行われていれば、住みづらいのは当たり前だろう。憧れでもある曾祖父の壮絶な過去を知り、この本に書き込むということは、本当に誰にも話さず一人で抱えてきたのだろう。一度も会ったことのない彼を思うと心が痛む。


 そして僕は、いや姉も母も、ナルエラ王国の血も入っているということが発覚したのだ。なんとなく、純粋なエレントル王国国民ではない事が、心に引っかかる。僕自身に変化がある訳ではないが、なぜか悲しかった。



「ザック、お前はお前だ」

「!」

「お前は何も変わらない」

「……ありがとう」



 微笑みかけるカールを見て、少し心が落ち着く。僕の考えていることを汲み取ってくれたのか、なんだかんだ頼りになる友人だ。落ち着きを取り戻すと、冷静さも戻ってきた。



「だけど、僕達がひ孫である事は知られない方がいいかもしれない。特に姉さんは色々と問題が起こりそうだ」

「……そうだな。今まで通り、伏せておこう」

「それともう一つ、大事な事が書かれていた」



 いや、国としてはこちらの情報の方が大事だろう。カールも僕の真剣な表情を見て、真っ直ぐと見つめ返してくる。



「ナルエラ王国は昔から魔術の研究をしてきているが、結界の強化だけでなく、結界を破る術式の開発もしていたと書かれていた」

「なに!? では、もしや今回の件……」

「可能性はある。通行証のない魔術師は王都へ入れば魔力が使えなくなる。それは『門を通った者の魔力は奪わない』と術式に組み込まれているからだ。ということは、魔力を残したまま入るには結界を破るしかない」



 カールは腕を組み、小さく唸る。ただの憶測にすぎないが否定しきれない、そう言いたげだった。



「しかし、小さく破っただけでは入れても少数。国を脅かすとしても無理がある。目的は?」

「わからないけれど、まずは報告したほうがいい」

「そうだな、私達だけでは解決しそうもない。兄上に伝えよう」



 そう言うとカールは部屋を出て行った。騎士を使って調べているウィリアム様なら何か思いつくかもしれない。そう考えながら、まだ何かあるかもしれないと本を再び開いた。



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