閑話 いつもの食卓
ザック視点です。
「ただいまー!」
「おかえり、姉さん」
「おかえりなさい、すぐご飯だけど食べる?」
「食べる食べるー! あっ、ティアに使い勝手が良さそうな万年筆買ってきたの。部屋に置いておくね!」
「ほんと? ありがとう」
あまり家の外では見られない光景を、いつもと変わらないと思いながら見つめる。姉さんは、家の中では昔と変わらずハキハキ元気に話しているけれど、外ではトーンを落とし、存在を隠すように過ごしている。ティアも、騎士団の前では男性を思わせる堅い話し方に、あまり笑顔も見せないが、家では笑顔が多いし、話し方も女性的だ。
何故とは思わない。それが大人になって、世間に合わせるということだろうから。それで生きにくいと思うのならどうかと思うが、二人がそうしたいのなら何も言うつもりはない。家の中では自分でいられる、それで十分だ。
料理を並べるのを手伝いながら、誰がティアはこんなに料理が上手いと知っているだろうか。「ねぇ、ティアー!」と大きな声で部屋から出てくる姉さんを見て、誰がこんなに天真爛漫だと知っているだろうか、と思う。
本当の姿を知ってくれる誰かが、二人を幸せにしてくれれば。そう思いながらも、姉さんが想い、ティアを想っている人達のことを考える。
「自然の恵みに感謝して、いただきます」
「「いただきます」」
いつもと変わらない挨拶、いつもと変わらない食事風景。そう思っていたけれど、今の今まで僕は気付いていなかった。二人の女性の変化を。
「ティアの部屋の窓に置いてあったの新しい花よね?」
「ゴボッ……ゴホッ……」
「ちょ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫よ」
ティアの部屋に新しい花? それぞれの部屋になんて入らないから気づかなかった。
「あんな可愛らしい花なんて珍しいなぁって。どうしたの、あれ」
「え、いや……も、もらったの」
「もらった? 誰から?」
「そ、それわーー」
みるみる顔が赤くなるティアを見て、姉さんと顔を合わす。ほ〜、彼の方はついに動き出したか。この反応といい、僕達に見えないところに飾っていたことといい、悪くない反応だけれど、この先どうなるか。男側の気持ちもよくわかるが、僕はティアの味方。見守るしかないかな。さぁ、ティアのために話題でも変えますか。
「姉さんは今日どうだったの? フェルナンさんと王都散策楽しかった?」
「えぇ! 楽しかったわ!」
2年前に町に戻ってから、たまに心ここにあらず、というような時のあった姉さん。その理由もなんとなくわかっていたけど、自分で何とかしようとしていた姉さんに僕は触れなかった。それが王都に戻る事になってから、ぼーっとしている回数が増えた気がしていたけれど、今は何処か吹っ切れた表情をしている。
「何かいい事あったの?」
「きっかけをもらったと言えばいいのかな」
「きっかけ?」
「そっ!」
まぁ、姉さんが笑えているなら僕はそれでいい。あの人は姉さんを泣かせようとしている訳ではないと知っているから。あの人を責めるつもりはない。いや、はっきりしろと言いたくなる時もあるけどね。
「ザックは? セレーナとは会ったの?」
「今日、彼女はお母さんの買い物に付き合って会えない日だったんだ」
「あら、久しぶりの休日なのに残念ね?」
「まっ、王宮で毎日顔を見られるだけで十分だよ」
「「ごちそうさまです」」
二人が同時に頭を下げる。なんだかそれが可笑しくて、三人で笑いあった。それぞれ抱える想いは違うし、何を思っているかわからないけれど、安心できる場所がある、それでいいと思えるのが家族なのかもしれない。
僕はただ、愛する人、父や二人、友人、みんなが笑っていてくれたらそれで十分だし、父との約束のように、大切な人を守れる男でいられればそれでいい。
笑いあっている姉さんの首元で何かが光って揺れているのが目に入る。
「姉さん、その首元のは何?」
「あ、これ? フェルナンからもらったの。餞別だってー。可愛いでしょ?」
「……それ、ちょっと貸してくれない? 明日には返すから」
「え、いいけど……どうしたの?」
「まぁいいから」
不思議そうな顔でネックレスを外し僕に渡してくる。僕の手の上には青く光る花が転がっていた。
ザックは何でも知っている〜。
という感じで姉さん二人をいつも見守るザックでした。




