本当の君へアドバイス
リリアン視点です。
「フェルナン、ちょ、離してー!」
「ああ、悪い」
すぐに離れたフェルナンをもう一度見る。高価そうな立派な服に身を包み、暗めの金髪と赤みがかった茶色の瞳、物語に出てくる王子様のような顔立ちの彼。
「なんか見違えた……貴族みたいね」
「だろ? 俺もなかなかいけると思ってるんだ」
どう、似合う? そう言いたげにクルリと回り、笑顔を向ける彼につられて、笑いかける。
「リリアンもちょっと見ない間に綺麗になった」
「もう、からかわないで!」
「からかってないよ、本心さ」
「……」
いきなりの先制パンチに返す言葉もない。こういうことをさらっと言える彼は職業病だろうか。
「でも、フェルナンに王都の、ましてや王宮敷地内で会うなんて思わなかった」
「俺、今月から王都の本店に異動になったんだ。まぁ、言うならば昇進ってやつかな?」
「すごーい!」
そう、彼が勤めているのは高価なものから安価なものまで、品揃え豊富で高い売り上げを誇る、国内人気ナンバー1のノエール商会なのである。ちなみに、私も化粧品などお世話になっております。
「今日はちょっと挨拶のために王宮に来たって訳さ」
「もしかして、昇進した理由って……フェルナンが女性ウケするから?」
「そんな言い方するなよ。確かに女性の顧客は多いけど、売り上げの評価だ」
とは言うけれど、この整った容姿と巧みな話術で、町の支店にいた時も女性客が多いと聞いていたのだ。フェルナンは売りつける人ではないけど、自宅まで来てくれるというノエール商会のサービスを使い、たくさん家にきて欲しいと考える女性は多そうだ。
「まぁ、町のみんなと別れるのは寂しかったけど、色んな品物を見るチャンスでもあるからな」
「本当に仕事大好きね」
「まぁな」
こうやって自分の気持ちに真っ直ぐなフェルナンを羨ましいとよく思っていた。なんだか父や町のみんなに会いたくなってきたなぁ。
「それにしても、王都でリリアンに会えるなんて嬉しいなぁ」
「私もフェルナンに会えるなんて驚いたわ」
「今日はこの後も仕事があるんだけど、休みに会わないか?」
「えぇ、もちろん!」
こうしてフェルナンと次の休みに会う約束をしたのである。
****
「いってきまーす!」
「フェルナンさんによろしくね!」
ザックに見送られ、待ち合わせ場所に向かう。王都の中を男性と二人で歩くなんて初めてかもしれない。なんだか変に緊張してきた。
待ち合わせ場所にはすでにフェルナンが立っていた。前回とは違い白シャツにズボンというラフな服装で立つ彼だが、やはりその容姿のためか目立つ。なんだか周りの目が気になり近づけないでいると、彼の方が気づき近づいてきた。
「待たせてごめんね」
「大丈夫、待ってないよ。さぁ、行こう。リリアンの好きそうな店を見つけたんだ!」
さりげなくエスコートしてくれるフェルナンに従い、ついていく。彼が連れて行ってくれる店は、私の隠していた好奇心を駆り立てるような店ばかりだった。そういえば、幼い頃は森を駆け回り、初めて行った町では毎回のようにティアとはぐれ怒られる程、好奇心の赴くままに動いていたのに。今ではそんな事をしなくなった。いや、気になっても抑えていた。だって、王宮の中にそんな人はいなかったから。
「リリアン、これ見て。すごい綺麗だろう?」
物思いにふけっていた私の前に、銀細工で美しく花を型取り、中央に青の宝石が埋め込まれたネックレスが差し出された。
「細工が細くて綺麗だし、高い宝石ではないけれど……ほら、リリアンの瞳と同じ空色だ。」
「わぁ、綺麗! こんなの初めて見たわ!」
久しぶりにはしゃいでいる気がする。あぁ、きっと彼の目にとまりたい、理想の女性になりたいって思って抑えていたんだわ。貴族みたいにお淑やかな女性じゃないのに、そうなろうとしてた。私の性格を隠していたのかもしれない。
「他にも見てきていい?」
「もちろんだとも」
溢れてくる好奇心に身を任せ、思う存分見て回る。今までに抑えていたものが爆発するように、興味をひくものが目に飛び込んでくる。なんて楽しいんだろう! こんなに何も考えず楽しく過ごしたのはいつ振りかな。
その後も大好きなクレープ屋さんに小物屋さん、カフェ、色んな所を回った。楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕方になっていた。興奮を落ち着けるかのように小さな広場の噴水に二人で腰掛け、沈んでゆく太陽を見つめる。
「本当に楽しかったわ! 久し振りに買い物もできたし、ありがとう、フェルナン」
「俺も楽しかったよ。またリリアンと買い物ができて」
「そうね、相変わらず荷物持ちにさせてごめんなさい」
「それは俺の仕事のひとつさ」
「もう!」
目が合うと、どちらからともなく笑いが起きる。懐かしいこの感じに心が温かくなる。ふっと笑いをおさめ、フェルナンが私を見た。
「君の忘れられない人とは会えた?」
その真剣な眼差しに心配の色が見え、流してはいけないと思った。
「うん、会えた」
「だよね、そんなに綺麗になったんだ。そうだろうと思ったよ」
「うん、頑張ったもの。でも駄目かな、私じゃやっぱりつりあわない」
空を見上げると、太陽が沈みかけ茜色の空が広がっている。彼の瞳と同じ色……そう考えてしまう程、私は彼に染まってしまっている。
「そんなに頑張ったなら、伝えておいで」
私につられるように上を見上げるフェルナンの声が空へと消えていく。
「2年前に君は気づいたはずさ。伝えずに忘れられる程の想いじゃない事を。君はいつも色素の薄い髪色を持つ人物を目で追いかけていたよね。その時思ったんだ、君には忘れられない人、いや、忘れたくない人がいるって」
「フェルナン……」
再び私を見つめた彼の目は、優しい目だった。ずっと変わらない眼差しに、何故か泣きそうになる。
「だから俺は、それ程想う相手がいると知りながら、君に想いを伝えた。この想いを終わらせるためにね。そして、友達になってほしいと願い出たんだ。本当は、振った相手と友達になるなんて嫌だろうと思ったけれど、君は『ありがとう』と言って受け入れてくれたじゃないか。それが俺は嬉しかったんだ」
フェルナンは2年前に町に戻ってから、結婚適齢期だった私を心配して紹介されたお見合い相手だった。1歳上の彼は、チャラそうに見えるが、仕事も熱心だし、私に優しく、みんなに愛される素晴らしい男性だった。何度も会って、遊んで、彼なら良いのではとも思った。けれど、必ずチラつく存在を忘れることができなくて、こんな気持ちのままでは受け入れられなくて、プロポーズを断ったのだ。それでも友達としていてくれる彼には感謝しかない。
「君の想う相手は、そんなことで気まずくなった君と距離をとる人なのかい?」
「……違うわ」
「なら、そのまま飲み込まず伝えた方がいい。二度と同じ後悔をしないように」
そう言うと、ポケットから小さな箱を取り出し、私に差し出す。彼のしたい事がよくわからないまま受け取った箱の中には……
「これ、最初の店にあったネックレス?」
「そう。これガーベラの花をモチーフにしているんだって。ガーベラには《希望》《常に前進》って意味があるんだ。だから応援の餞別として、リリアンにあげようと思ってさ」
「そんな、もらえないよ!」
「いいのいいの。勇気を出すお守りとして貰ってやって」
有無を言わさず箱からネックレスを取り出し、私の首に付けてくれるフェルナンに何も言えなくなった。フェルナンはちゃんと友達として私と接しってくれている。このネックレスも前へ進めという彼からのメッセージなのだ。
「ありがとう、フェルナン」
「うん、似合ってるよ。瞳と同じ色の宝石がついてるなんて、リリアンのために作られたみたいだな」
満足気に頷いているフェルナンを見ながら、そっとネックレスに触れる。私は前へ進みたい。このままウジウジしているのなんて、私らしくないんじゃない? 思いついたらやるのが私。好奇心の赴くままに動くのが私。誰かにしがみつくのは前回王都にいた時にやめようと決めたじゃない。受け身でいるのはやめたじゃない。
ふわっと身体が軽くなるのがわかった。いや、心が軽くなった。これは諦めじゃない、私自身の想いへのけじめ。
「私ね、ずっと迷ってた。どうやったらこの想いを忘れられるかって。こんな想いなくなってしまえば簡単なのにって、いつも思ってたの。そんなの2年離れててもできなかったことなのに。きっと伝えたら側にはいられない、心地よい彼との距離間があくと思ってて、怖がってた。でも、このままだとずっと…彼に大切な人ができても、忘れられないままになるよね」
「リリアンは心の強い子だと俺は思ってる。逃げずに立ち向かう方が君らしくていいんじゃない」
優しく諭すフェルナンに強く頷き返す。なんだか霞んで先の見えなかった世界から抜け出せた、そんな気分だ。
「きっかけをありがとう」
「どういたしまして。まっ、どーーしても貰い手がいなかったら俺のとこに来いよ!」
「応援してたくせに、なんで失敗するような言い方になるのよ!」
私の言葉に二人で噴き出し、笑い声が広場に響く。今日は本当にいい日だった、そんな思いでずっと笑い合う私達を見ていた人物がいるなんて、私は知る由もない。




