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2年ぶりの再会

こちらの小説に興味を持って頂きありがとうございます。

あらすじにも記載しましたが、この小説は『神がつくりし世界で』に登場する人達のその後を書いておりますが、前作を読まれなくても理解できるように書いております。

前作を読んでくださった方には、知ってるよと思う説明があるかと思いますが、読んでくださった方にも楽しんでいただけるよう頑張って書きますので、よろしくお願いします!


 


 高い石造りの白い外壁、両脇には美しい色とりどりの花が散りばめられ、芸術品のような王宮が右手にそびえる。何も変わっていない風景に、再び来たのだと実感することができた。



「2年ぶりの王宮だけど、何も変わってないわ」

「姉さん、早く行かないと」



 詰め所にいる騎士に身分証明書を提示しながら、こちらを振り返るのは2歳年下の弟。



「魔術師のザックさんですね。ご協力ありがとうございました」



 お疲れ様です、と返す笑顔は男性である騎士でも固まってしまう様な破壊力を持つ。茶色の髪に空色の瞳、母親似の目鼻立ちが整った顔は美男子という言葉が当てはまるだろう。昔は少女と間違えられる程の彼が、成長と共に男の色気を身につけた事により、魅力が一段と上がってしまった。まぁ、それだけではないんでしょうけど。軽く不貞腐れながら私も後に続く。



「精霊使いのリリアンさんですね、ご協力ありがとうございます」

「お疲れ様です」



 ニコリと微笑む……が、ザックのような反応はない。何故なら父親に似た私の容姿は平凡そのもの。ザックとは姉弟かと疑われる程似ていないのだ。瞳の色が同じというくらいしか共通点などない。自慢できるもの?それは母親と同じ藤色の長い髪ぐらい。弟と並ぶとそれも霞んでしまうけど。あっ、ちなみに名前はリリアンと申します。



 ブツブツ文句を言いながら王宮までの道を進むと、王宮の入り口から声がかかった。顔を上げ、はっと息を飲む。絵画のような非日常の光景を作り出している美しい3人。


 ニコリと優しく微笑んだのは、紅色の艶のある長い髪をなびかせ、凛と美しい顔に吸い込まれそうな金色の瞳をもつ美女。2年前よりも女性らしさに磨きがかかった女神のような彼女の腰には剣がささっている。私達の姉、ティア。いや、詳しく言えば本当の姉ではないけれど、家族と同じ人。


 ザックの元に駆け寄ったカールがかかった金髪に、緑色の垂れ目の可憐な女性は王宮魔術師であり、アルフォード伯爵令嬢セレーナ・アルフォード。私の友人であり、ザックの恋人だ。



 そして、太陽に反射し輝く銀髪に茜色の瞳、整った美しい顔。鍛え上げた引き締まった身体から色気をバンバン醸し出す男性、エレントル王国騎士団第十小隊隊長レオナルド・ヴェルモート。彼もヴェルモート侯爵家という由緒正しい貴族の次男である。



 私達を見つけて三者三様の反応を見せてくれたが、彼は何も変わらず不機嫌そうな顔のままだ。でも、怒っているわけじゃなく、感情の出し方が下手なだけだとわかるから不快感などない。


 王宮で働く者は、常に不機嫌そうな彼を遠巻きに頬を染めて見ているだけ、騎士は王国で5本の指に入る実力を持つ彼の訓練に泣きそうになっているだけだ。彼の優しさを知るのは、彼の数少ない友人や部下くらいだろう。私はその中には当てはまらない。いや、恋人とかそんな恐れ多い立場でもない。ただ、たまたま彼が優しい言葉をかけてくれただけ。貴重な体験をしたにすぎない。


 最初は嫌な奴とさえ思っていたのに、いつの間にか、そんな彼に恋心を抱いてしまった。抱いていい相手じゃないのに。会うたびに『好き』が溢れていく。好きになっちゃいけないのに。側にいると気になって仕方なかった。


 2年前に王都を出る際、この気持ちに整理をつけて忘れようと決めた。もう会うことはないと自分に言い聞かせ、忘れるまで会わないと決めていたのに。王太子ウィリアム様からの呼び出しにより、再び彼は私の前にいる。



「久しぶりだな。無事着いてよかった」



 低い声が身体に響いてくる。あぁもう……そうやって滅多に言わない言葉をかけてくるから勘違いするんだって教えてあげたい。絶対何も考えずに言っているんだろうけど。



「お久しぶりです、ヴェルモートさん。お元気そうでよかったです」

「あぁ」



 はい、会話終了しました。彼は気を使って会話を広げる訳じゃない。でも、これがクールでかっこいいと人気があった。たしかに似合うんだけど、気の知れた人との会話を聞いていると、距離を感じて割とへこみます。



「隊長、リリアンを独り占めしないで頂けますか」



 彼を睨みつけて不貞腐れぎみに割り込んできたのはティアだ。彼女は色々な過去を経て、私達家族と共に過ごすようになった。もう家族の一員で、2年ぶりに会えた私達と話したくてたまらないのだろう。過去のせいで私達以外とは堅苦しい言葉で会話していた彼女が、今ではこんな態度もとれるのかと嬉しくなる。



「独り占めなどしていないだろ。お前はどうして家族の事になるとそうなる」



 ため息を軽く吐きつつ、場所を空ける彼がこんな態度なのは、ティアが直系の部下だからだ。


 部下であるはずのティアは、その言葉を軽く無視しながら私を抱きしめる。見ない間にそんな態度がとれる距離感になったのね。壁を作っていたあの頃よりはいいのだろうけど、なんだか複雑だ。



「無事に着いてよかったわ、リリアン」

「ふふ、心配ないわ。私達の戦闘力なら安全に王都まで来れるわよ」

「それもそうね。でも、心配なものは心配だもの」



 ギュっと抱きしめるティアの体温が移ってきて、心まで温かくなる。大人の女性に成長していても、中身は変わっていないことにほっとする。2年なんて、あっという間に縮まってしまう距離だ。

 それを噛みしめるように抱き返していると、後ろからザックが話しかけてきた。



「そろそろ行かないと。待たせたら大変だよ」

「そうですわね。リリアン、後でたくさんお話ししましょ」

「そうだね、って……仲が縮まってよかったわね」

「「え!?」」



 驚いたのは私よ! 振り返ったら、まさかザックとセレーナが肩が触れ合う程の距離で立っているなんて思わないじゃない! 伯爵令嬢であるセレーナに、そこまで近づけるのは恋人の特権だけど、姉さんの気持ち考えなさいよ! ……いいなぁ、なんて思っちゃうじゃない。あぁ、だめだめ。私はそんな関係を望んじゃだめ。


 王都を旅立つ時には恋人同士まで関係を縮められなかったのに、手紙のやり取りで恋人になった2人。姉さんとしては、セレーナは凄くいい子だし、大切な友達だから喜ばしい事なんだけど。久しぶりのヴェルモートさんにときめきそうになるのを必死に堪えてる今は辛い光景だ。人の幸せを祝えないなんて、私最悪だな。



「おい、大丈夫か?」

「へ?」



 思ったよりも大きな声がかかり、驚いて顔をあげると、すぐに茜色の瞳と目が合う。目が合うというか、私の視界にヴェルモートさんしか映っていない。いや、好きすぎて彼しか見えない! とかじゃなくて、近すぎませんか!?



「きゃああ!」



 ワンテンポ遅れて状況を理解し、思わず大きな声と共にのけぞる。顔に熱が集まるのがわかる。ど、ど、どうしよう……叫んでしまった。恥ずかしい。


 しかしそんな私の反応にも彼は冷静に対応する。



「あぁ、すまない。突然元気がなくなったように見えたんだが」



 そう言いながら、何事もなかったように身を引く。これは私が意識しすぎなだけなのかな。今でも心臓の音がうるさいくらいに聞こえるのに、彼の反応に少し寂しさを覚え、次第にその騒ぎがおさまっていく。



「すまなかった。女性にしていい行動ではなかったな。だが、大丈夫か?」

「あ、はい。大丈夫です。ありがとうございます」



 精一杯の笑顔を返すと、ほっとしたように軽く顔を緩めたのがわかった。微笑みにまでいかなくても、雰囲気が柔らかくなっただけで破壊力抜群だ。その美しい容姿と相まって、なんとも神秘的な存在にさえ思えてくる。

 それに私を女性として扱ってくれている。心配までしてくれている。これで優越感を感じるな、なんて無理じゃないか。ましてや好意を抱いている相手なのだ。



「よし、では行くぞ。ウィリアム様がお待ちだ」

「はい」



 颯爽と歩く後ろ姿は騎士そのもの。その頼もしい姿を追いながら思う。



 こんな状態で、私はちゃんと彼への想いを忘れられるのだろうか。



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