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最強の相手現る

リリアン視点です。

 綺麗……それが私の感じたことだった。

 ストロベリーブロンドを靡かせて大好きな人の元へと駆け寄る満面の笑みの女性と銀髪を風に揺らし走る彼女を心配気に見る男性。本当に美しい一枚絵を見ているかのよう光景だった。



「フローリア様、この様なところに何故いらっしゃったのですか?」



 いつもの不機嫌そうな顔でもなく、言葉少なめな態度でもない。初めて見るヴェルモートさんがいる。

 貴族令嬢なんかじゃない。フローリア様……ダイアン王国王女だったんだ、とどこか冷静な私がいた。夜会では緊張であまり見る事ができなかったけれど、王女様だと言われたら、その気品溢れる雰囲気にも納得だった。それて、こんな時間に訪れてもお咎められず、騎士姿を見た事がないのも理解できる。



「もちろん、レオナルド様にお会いするためですわ」

「……私にですか」



 頬を染める王女様と困り顔のヴェルモートさん。あぁ、何となく感じてた事だけど、フローリア様はヴェルモートさんが好きなんだ。

 どうしよう、なんだか私納得してる?だって、お似合いじゃない。美男美女で侯爵家と王女様、国同士の為にもなって言うことなし。私の入る隙間などない。



「あちらの方が案内してくださったのです」



 王女の言葉でみんなの視線が私に向かう。もちろんヴェルモートさんの目線もだ。でも目線を合わせることはできなかった。いや、したくなかった。王女様に促されて目線が合うなんて…なんか嫌。女の小さな意地、そう思われても仕方がないけど嫌なのだ。それも負けを認めている証拠なのかもね。頭を深く下げ、そのまま来た方向へと向きを変える。だって、あそこにいたくない。見たくない。


 早く……


 早く…………


 早く離れたい


 だんだん速足になるのがわかる。訓練場が見えなくなる建物の角を曲がり、次の建物との間に滑り込む。途端に足の力が抜け、その場にしゃがみこんだ。



「私には、敵わない……くっ……う……ふぇ」



 次々と涙がこぼれる。我慢しようと思えば思うほど溢れてくる。それでもこんなところで泣いちゃだめだという私もいて、声を必死に堪えるけれど、そのせいで暴れ狂う感情が制御できず、少しずつ理性が決壊していく。


 好きだった。本当に好きだった。それが今になってよく理解できる。

 ヴェルモートさんがフローリア様の事をどう思っているのかなんてわからない。好意を抱いているかもわからない。それでも、私の抱える彼への劣等感を埋めるものを全て持っている彼女に敵うはずないと思った。あんなのを見て、それでも私は諦めない、なんて思える自信も強い心も持ってなんかいない。


 彼のために可愛くなりたい、仕事ができるところを認められたい。そう思って自分磨きを始めたけれど、遅かったかもしれない。しっかり見てもらう間も無く、私と比べられないほど輝く女性が彼の近くに現れてしまった。



 突然、私に近づくように走る靴音が聞こえてきた。今の姿を見られたくない、そう思って建物間の奥へおぼつかない足取りで入っていく。しかし、あまり進むこともできず見つかった。



「リリアン!」



 酷い顔を見られたくなくて下を向いていた私は、声に導かれるように顔を上げた。ホッと安心した気持ちと、我ながら呆れてしまうが残念がる気持ちが混ざり合う中、その視線の先にいたのは。



「……ティア」



 心配そうに美しい顔を崩し、私の目の前に片膝を付く騎士。私の大切な家族、ティア。



「リリアン、大丈夫?」



 気遣い気に私の頭にそっと触れたティアの表情で、私がヴェルモートさんに好意を抱いていることを知っていたのだと理解できた。あんなに知らない素振りでいたのは、私が話を持ち出さないからだったのかも知れない。



「ティア……私、ちゃんと諦めるつもりだったよ」

「うん」

「私が釣り合わないこともわかってる。だけど、せめて自分が頑張ってからって思ったの」

「うん」



 ティアはただただ私の頭を優しく撫でながら話を聞いてくれた。私が何か言って欲しいわけじゃないことを察してくれていたようだった。



「好きだったの。彼を想うと幸せだった。辛いけど幸せだった」

「うん」

「自分を磨けば少しは簡単に諦められるかと思ったのに、違ったんだね……」

「我慢しなくていい。私が側にいるよ、リリアン」



 そのティアの言葉を合図にするかのように、私は声を出して泣いた。手や足が痺れる程泣いた。人が通る気配がするけれど、ティアが包むように私を隠してくれてるから、気にせず泣いた。泣いている間は何も考えられなくて、それでも苦しいものを吐き出す事ができた。



 泣き止む頃には、何だかスッキリしていてティアに笑いかけられたけど、目の腫れは酷いものになっていた。化粧も崩れて目も当てられない。



「目を冷やしてから、ハイドさんに届けて、今日は帰らせてもらおうか」

「こんな顔じゃだめだよね。頼んでみる。ティア、ごめんね。仕事抜けてきたんだよね?」

「気にしないで。さっき、取れてなかった休みを今日の午後からもぎ取ってきたから、一緒に帰ろう」

「あははははー」



 どんな顔でヴェルモートさんから休みをもぎ取ってきたのか想像できるから、苦笑いしかできない。公私混合な気もするが、心配してくれた事に変わりはないから、正直嬉しい。



「最近は書類仕事を私にばかり回してくるんだから、少しは苦労すればいいのよ」



 ティアの日頃の恨みも合わさっているのね。そういう話を聞くと、彼に少し人間味を感じて親近感が湧いてくる。こんな些細な事で嬉しく思うなんて、まだまだ忘れるには先が遠いなぁ。



「さぁ、行きましょう」

「うん!」



 伸ばされた手を掴み、ティアが立たせてくれる。さりげなく私の服の汚れを気にするティアを見ていると。



「なんか、ティアが彼氏なら幸せになれそうなのに」

「それは光栄なことだね」



 突然男性になりきって私の腰に手を回すティアと目が合い、どちらからともなく笑い出す。

 本当にそうだったらと思ってしまった私は、心の中でウィリアム様に謝ったのだった。



騎士服のティアは、美しい顔立ちと優雅な立ち振る舞いで、かなりの貴公子ぶりです。

リリアンが気づく前から、ティアの隠れファンは多いでしょうねー!(男女問わず…)

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