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夜会①

レオナルド視点です。



 

 真っ赤な絨毯がひかれた廊下の奥にある二枚の重厚感溢れる扉を開ける。そこに広がる世界は、天井近くまである大きな窓に光り輝くシャンデリア、思考を凝らした様々な料理が飾られるかのように並べられ、脇では演奏者達が今か今かと始まるのを待っている。しかし、この空間で一番目に入るものは色とりどりのドレスで着飾った女性達と、その女性を自慢気に披露したり、物色するかのように見ている男性達だろう。



 本当にこの空間は嫌いだ。貴族同士の見栄の張り合い、または出会いの場としか言い様のないこの空間。一歩踏み込めば、すぐに巻き込まれてしまう。昔から夜会は嫌いで、見つからないようにと思うのだが、すぐに見つかるのだ。

 挨拶など面倒くさいのだが、今日は父の代理、ヴェルモート侯爵家の者として出席している。そのため来るものを拒むことも出来ない。


 次々と挨拶に来る人を軽くやり過ごし、夜会の始まりを待つ。何気なく娘を進めてくる者が年々増え、挨拶だけでかなり心労が溜まる。だから出席したくないのだ。別に結婚したくないわけではないが、今のところ必要性を感じない。本当に余計なお世話である。だが嫌々ながらも出席したのには理由がある。普段の夜会ならば国境を守る侯爵家は欠席を許してもらえることもあるが、今回は普段の夜会とは違う。ダイアン王国第一王女フローリア・ダイアン様を歓迎する夜会なのだ。



 アルフォード伯爵領の港に到着されたフローリア様は、一週間程かけて馬車で進み、昨日、王都へ入られた。ちょうど城下の巡回をしていたので姿を拝見することはなかったが、噂では天使の様な美しさだとか。他国の王女様の噂を流した奴はどいつだと問い詰めたくなったが、人間とはそんなものかと諦めた。悪い噂ではないから不愉快には思われないだろう。

 そんなことを考えていると、本日の主役が入場する合図が鳴り響いた。話をしていた者達も、一斉に扉へと視線を移す。



 扉が開くと同時に音楽が鳴り、拍手が湧き起こる。そんな中から現れたのは、光が反射し輝くストロベリーブロンドの髪を複雑に結い上げ、透き通る白い肌に薄緑色の大きな瞳と柔らかな微笑みを浮かべる桃色の唇の美しい顔立ち、瞳の色と同じ淡い緑色のドレスを纏った、正しく天使の様なフローリア様とエスコートするウィリアム様だった。至る所からため息が漏れる。二人の姿は一枚の絵のように美しかったのだ。


 確かに天使のようだという噂は嘘でもなさそうだな。周りの男達の熱い眼差しがいい証拠だ。これは身辺警護の計画を変更すべきか。あとで出席しているだろう団長を探して相談するか。一人計画を練っていると、国王様夫婦も入場され、皆がこうべを垂れる。そして、国王様が夜会を始める言葉を告げた。



「フローリア様、遠いところから我がエレントル王国へお越しいただき誠にありがとうございます。今宵は是非楽しんでもらいたい。エレントル王国のおもてなしをさせてもらいますよ」



 そうして国王様が合図を送ると、高い位置にいる王族を照らす照明以外の光が弱くなる。周りにいる者の表情は見える明るさだが、突然のことに騒然とする周囲を見渡していると、幾つもの淡い光の玉が上空を飛び回り始めた。皆がその光の玉を追うように顔を上げ、その幻想的な光景に見入っていると、ホール中央に光の玉が集まりだす。それは正しく自分の目の前だった。



 次の瞬間、弾ける光の中から現れたのは、青のワンポイントを入れた白地の礼服を纏うハイドだった。彼の姿は長い青髪と良く合い、彼を包む光と合わさって不思議な雰囲気を醸し出す。

 魔術師は光を作り出すには魔道具を要する。しかし、光の精霊と契約した精霊使いは、光を自由自在に操る事が出来るのだ。そんな珍しい光景が目の前で繰り広げられているのである。感動しない方がおかしい。しかし、リリアンも共に余興の練習をしていたはずだ。どこにいるのかと辺りを探していると、ハイドと目が合った。すると、ニヤリと悪戯を企むような笑顔を向けてくる。……こいつ、何を考えている。


 疑いの目で見ていると、ハイドがある一箇所に光を再び集めだした。どんどん膨らみ大きくなる光の塊が、花が咲くように辺りに広がる。その中心にいたのは、肩のあいた真っ白なドレスを纏うリリアンだった。


 リリアンが手を上げると色とりどりの花びらが風に乗るように上空を舞う。珍しくおろしている長い藤色の髪も風と共になびき、神秘的な存在にさえ思える。結界の歪みの調査の際に精霊王の力を使っていた時にも感じた、神聖な儀式のような姿に誰もが息を呑んだ。


 ーー美しい


 ただそれだけだった。ふっとリリアンと目が合う。一瞬驚くような眼差しから、澄んだ青空を連想させる瞳がフワリと崩れる。その微笑んだリリアンから目を離すことができなかった。いつもと違い化粧を施した顔は、王女やティアのように完成された美しい顔とは違うのに、彼女達よりも美しいとさえ思えた。



 先に目線を外したのはリリアンだった。踊るかのように手を窓のほうへと向けると、花々もそれに合わせて窓の外へと抜けていく。皆その動きに合わせて窓へと視線を移すと、窓の外にある噴水が通常ではありえないような水の動きをしていた。その造形に小さく歓声があがる。

 噴水から水が高々と噴き上がると、その直後、空一面に様々な花火が打ち上がった。


 精霊に愛された国


 そう印象付ける為だけでは勿体無い程の素晴らしい演出に、最後の花火が夜空へ消えた瞬間、大喝采がホールに響き渡る。国王様を見れば、とても満足気な様子で、フローリア様も感動のあまり目を輝かせて拍手を送っていた。



「彼女は何者かな? 是非挨拶したいな」

「おいおい、抜け駆けするなよ」



 真後ろから聞こえてくる男達の声が耳につく。夜会でよくある会話なのに何故か腹が立った。お前達に話しかけさせてたまるか、と自分でもよくわからない感情に襲われ、反射的に後ろを振り返った。



「話しかけるのなら覚悟したほうがいい。彼女には最強の番犬がたくさんついているからな」

「レ、レオナルド・ヴェルモート様!?」

「わ、わかりました。し、失礼します!」



 別に睨みつけているつもりはなかったのだが、言葉を強めて脅しすぎたか。二人の男性は逃げるように去っていった。まぁ、ティアやザックは本当に番犬と言えるだろうし、間違えではない。

 ふっと背後に人の気配を感じると、肩に誰かの手が置かれる。



「なんだハイド」

「さっきの顔は怖すぎだよ」



 呆れを含む声がかかり、後方へ振り返る。こいつの表情など見なくてもわかるが、実際に振り返って見てみれば……やはりニヤリ顏だった。本当にお前は何を企んでいる。



「余計なお世話だ」

「レオって、本当に自分のことは不器用だよね」



 どういう意味だ。そう問いただしたかったが、言うが早いか、ハイドはその場去っていった。そのまま人に囲まれて困っているリリアンをスマートに連れ出し、ホールから出て行く。その二人の後ろ姿をただいつまでも見つめてしまったのは何故だろうか。


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