女子会
リリアン視点です。
大きな窓から入る太陽の光、甘い匂い、飾られるように並ぶお菓子、カウンターやテーブルに飾られた花。懐かしい賑わいの中に足を踏み入れる。
ここも2年振りね。以前よりも有名になった店の中を眺めていると、懐かしい声がかけられた。
「リリアン!? 戻ってきたのね!」
「お久しぶりです、ミラさん」
カウンターから顔を出し、満面の笑みを向け、今にもこちらに駆け出してきそうな女性はミラさん。王都で精霊使いになるまでお世話になったカフェの女主人である。
「ミラ、走るな」
「わぁ! ダンさん!」
奥の厨房から出てきたのは、男らしい顔に熊のような大きな体を持つミラさんの夫ダンさん。基本的に無口で、少し見た目が怖いのに、女性に人気な可愛らしいお菓子を作るお菓子職人である。そんなダンさんの声を到着早々聞けるなんて……そっちに驚いたわ。
「ダンさん、お久しぶりです。繁盛していて何よりですね!」
「戻ってきたんだな。……おい、ミラ。気をつけろ」
「わかってるわよ」
さっきからどうしたんだろうか。そういえば、滅多に客の前に来ないダンさんが厨房から出て来るなんて珍しい。
「……どうかしたの?」
「気にしないで。ちょっとダンが心配しすぎなだけよ」
そう言ってカウンターから出てきたミラさんを見て驚いた。だって、これって……
「子どもができたの!?」
「ふふふ、そうなの」
大きなお腹を大事そうに撫でて出てくるミラさん。ダンさんを見ると、照れたように頬をかいて目をそらす。
「うわあぁ! おめでとう!」
「ありがとう。予定ではあと3ヶ月くらいなの」
そう話すミラさんの顔は、とても優しくて、すでに母親の顔をしていた。私にとって、王都での母のような存在だったミラさん。そんなミラさんが本当の母親になるのか。なんだか心がじわりと温かくなってくる。あぁ、感動してるんだ。だって嬉しいじゃないか。恩人である夫婦に待望の赤ちゃんができたなんて。
「触っていい?」
「もちろんよ」
少し固くて大きいお腹にそっと手をあてる。なんだか不思議な気持ちだ。ここに新しい命がある。2年半前、世界を壊滅させようとする者から守った戦。あの時に失った多くの命と引き換えに、新しい命が誕生する未来ができた。参加していた私にとって、多くの命を奪った事は変えられない事実だけれど、少し救われた気持ちになった。
「元気な子が産まれるといいね」
「えぇ。ただ無事に産まれてくれるだけで十分だわ」
「そうだね」
改めて、この王都が何者かに狙われているのなら守らなければと思わせられる。家族を奪われる事の辛さを知っているから、ミラさん達にはそんな想いをして欲しくない。
「それで、なんで王都に?」
「ちょっと用事で」
「そう。今日は?」
「久しぶりにセレーナとお茶会」
「あら、そうなの? なら、いつもの席にどうぞ」
そうして王都にいた頃セレーナとのお茶会に使っていた角の席に案内してくれた。セレーナとは毎月のようにお茶会をしてたっけ。ずっと来ていなかったのに覚えてくれていたことがなんだか嬉しい。
少しして待ち人のセレーナが迷うことなくテーブルまでやって来た。
「お待たせしてごめんなさい。なんだか懐かしいわね」
「大丈夫よ。よくここでお茶会していたもんね」
一つ年下のセレーナとは、お菓子の話や貴族社会の話、噂話、恋の話……色々してた。あの時ははしゃぎ過ぎて怒られたりもしていたけれど、今は違う。お互い様々な事を経験して落ち着きも出てきた。セレーナなんて可憐な少女だったのが、今では立派な淑女だ。金色の艶のあるカールがかった髪に浅緑色の瞳、化粧が施された目鼻立ちの整った顔は美しさに磨きがかかり、可憐というよりは美しいという表現がよく合う。
「結局、王都に戻って来てから中々ゆっくり話せなかったよね」
「仕方ないですわ。色々と問題も起こってますし、王宮はダイアン王国のフローリア様を迎える準備でバタバタしてますから」
そう、数日後にダイアン王国から王女様一行が友好関係向上の目的でやって来るということで、その準備が急ピッチで行われている。ティアは王宮の警護などの変更により、忙しそうにしている。なんか「第十小隊は脳筋ばかりで使えない奴ばかりだ」とか愚痴ってたっけ。ザックは結界の件でかかりきりだし、私は精霊使いだから暇かと思えば違った。
なんでも精霊王の件で有名になったから、精霊の力で夜会の際に余興をしてほしいと依頼された。何故と思ったけれど、貴重な存在の精霊使いはエレントル王国に多いんだとか。だからよりエレントル王国=精霊のイメージをつけるためらしい。精霊の力をそっちに使うのかと疑問にも思うが、国の発展や国同士の駆け引きに口出しもできないし。まぁ、均衡を保って平和に生きるためと割り切るしかないか。
というわけで、ハイドさんと余興の練習中である。
「そういえばセレーナの領地の港から来るんだよね?」
「えぇ。ですから領地のみんなも大変そうです。お父様も慌てて戻りましたわ」
なかなかみんな振り回されているようだ。しかし今日は王女様の話をしに来たわけじゃない。相談をするためにセレーナを呼んだのだ。
「それでリリアン。わたくしに相談とは?」
「忙しいのにごめんね。私、恋愛の事で相談できる女友達セレーナしかいなくて……」
「まぁ! 気にしないで。相談相手に選んでもらえて光栄ですわ」
柔らかな微笑みを浮かべるセレーナ……それくらい私も綺麗だったら自信持てるのに。って、ネガティヴな考え方は止めたんだった。私の良いところは前向きなところ! そこを伸ばすって決めたんだから。
「実は、好きな人を諦めるために自分磨きをしてて……」
「ヴェルモート様を諦めるんですか?」
「え、気づいてたの!?」
好きな人なんて教えてないのに、バレてる。ハイドさんにもバレてた。ということは、かなりの人にバレてる!? うわ、どうしよう。私ってわかりやすいのかな。みんなの目が気になって明日から王宮で働けないよぉ。
「あぁ、大丈夫ですわ。わかりやすいとかじゃなく、友人として見てればわかる程度ですから。安心してください」
「そ、そっか……よかった」
明らかにホッとする私を見て笑っているセレーナに抗議の目線を送る。本当に心配したんだから笑い事じゃないわ!
「でも諦めて本当にいいんですか?」
「うん、さすがに釣り合わないくらいはわかるから。地位も実力も……容姿も」
言葉の最後の方が小さくなっていく。それにしても、私ってかなり容姿の差を気にしているみたいだ。でもそうだろう。あんな整った色気のある美男子の横に立ったら比べられていい笑い者だ。笑われているのを彼に知られるのも嫌だし。
「そんなこと……ないとは言い切れませんね。貴族社会は段位や権力が婚約者を決める上で大きな影響を与えますし。でも、容姿に関してはリリアンは可愛らしいですわ!」
セレーナ優しいなぁ。フォローまでしてくれて。でも、それは友人としての目線だからだよ。一般では私は平凡、それは十分わかってる。
「ありがとう。でも、やっぱり彼と比べたらねぇ……どちらにしても彼は侯爵家だし、騎士団でも隊長職についてる。容姿だけの問題じゃなく、私が好きになっていい相手じゃないから諦める。それはかなり前から決めていたこと。だけど、まだ好きなままだから、こんなに頑張っても無理だったってなったら諦めきれると思うだ! それで自分磨き中。内面は自分でなんとか頑張るしかないけど、見た目を少しでも良くするにはどうしたらいいかと思って相談しに来たわけ」
私って町では食事処で働いたり、農作業を手伝ったりしてばかりだったから、常に髪は一本で結んでいるし、化粧もほとんどしていない。規則正しい生活のお陰か、肌とかには自信があるからほぼそのままだ。いや、化粧品が高いっていうのもあるけれど。でも王宮で働く人は、貴族令嬢だったり、結婚相手を見つけるために働いていたりする人ばかりだから、みんな綺麗に化粧してるんだよね。しなきゃと思ってもやり方わからないし。ちなみにティアは汗をかくからと軽くする程度で行っているが、元が違いすぎるので参考にならない。
「そう……決めたのなら何も言いません。それに女磨きはリリアンにとっていい事しか残りませんしね。やって無駄なことはないでしょう。それで、見た目ですわね……化粧品ですとノエール商会が品揃え豊富ですわ」
「ノエール商会は知ってる。国内で人気が1番高い店だよね。庶民の物から貴族しか買えないような高価な物まで取り揃えてるって聞いた」
「えぇ。何でも揃う素敵なお店です。家にも来てもらえるので便利なんですよ。あっ、あとはその美しい藤色の長い髪も下ろしてみると印象も変わると思いますわ! うふふ、なんだか考えていると楽しくなってきました!!」
そこからは何故かミラさんも合流し、私を放置するように2人で私の改造計画を練りながら盛り上がっていた。やはり女性は美容と恋愛の話には目がないようだ。もちろん、ダンさんから注意が飛んできたのは言うまでもない。




