チドリと言う、イヤな女!
アカハラと楽しげに話しているチドリを見ていると、若干以上にイラッとくる。
別にチドリが悪いわけじゃないんだけど、何となくイヤなことを言ってしまう。その度に自己嫌悪に悩むわけだが、チドリは気にしていない感じだ。
なんか自分が小さくなった気分になる。身長は小さいんだけど、そうではなくて人間的に。
いつもチドリはやさしく笑う。
そんな風に微笑みかけられたら、まるで僕が小さな子供みたいに思えてしまう。
チドリとアカハラのたわいない会話をBGMに宿題を写しきる。
「終わったー。さすがの達成感。」
「嘘つけ。写してるだけじゃねぇか。」
「そう思いながらニラミをきかせているアカハラのプレッシャーに耐えながら進めていく写し作業の如何にハードなことか。」
「今日は委員長としゃべっていただけだがな。」
「すいません、嘘ついてました。」
と、素直に謝る僕は良い奴。
「えっ、ツグミ君。嘘つきなんですか?」
「違うよっ!」
思わず大人げなく否定する。
「じゃぁ、つまり。プレッシャーなんて感じてなくて、『チョレー、アカハラ、まじチョレー。』と言うことですね。」
「えっ、マジで!?俺はお前の…、えぇぇ。なんか、いいように利用されてたのかよ。なんていうか…、傷つくな。」
アカハラが頭をかきながら、目をそらしていう。
「あぁ、いや。それは、その…。違くて…。」
「アカハラさん、かわいそう…。」
チドリが、少し潤ませた目で畳みかける。やっぱり、コイツ。イヤな女だ。
「まぁ、いいや。ちょっと、トイレ行ってくる。」
鼻でため息をついてアカハラが立ち上がる。
「いや、ホントに…。」
言い訳しようとする僕の頭をアカハラは鷲掴みにして揺さぶる。
「今に始まったことじゃないだろうが、今更。まぁ、今日の宿題はちゃんとやってもらうけどさ。」
「あっ、うん…。分かった。」
頭を押さえられているので、肩をすぼめてしまう。
「じゃぁ、ちょっと行ってくる。」
「…。女の子の前でデリカシーのない奴め。」
「いや、別に気にしてませんよ。ごゆっくり。」
屈託なくチドリが笑う。
アカハラが席を立つと、代わりにチドリが椅子に座った。
「ねぇ?ツグミ君。」
「なに?」
「こんな事、聞きにくいんだけど…。」
チドリはすこし照れくさそうに、何だかモジモジしている。
その仕草は、何だか媚びを売ってるみたいに感じて僕はイラッとする。そうか、僕はチドリのこういう所が好きになれないんだ。
「チドリ、正直僕には聞くことはないんだけど?」
「でも、ビジターとしてちゃんと聞いておくべきだと思うの。ツグミ君。」
「なにさ?」
「アカハラ君の事…、好きなの?」
不意を突かれたせいか、思わず叫んだ。
一瞬教室が静まりかえったが、僕の素っ頓狂な声のおかげでケンカではないと思われたのか、みんなすぐにそれまでしていた会話に戻ってくれた。
「何をっ!何を突然、言い出すんだよ?」
机にのりだして慌てて否定する。すぐに顔がぶつかる寸前までチドリが顔を近づけてくる。逃げようとする前に肩を持たれてしまう。思わず身体が固まって動けなくなる。目の前には眼光鋭いチドリ。
「チドリ…、近いって!」
「あら、私はかまいませんよ?」
眼光が鋭いまま、チドリは僕から目を離さない。
まるで重力に惹かれる彗星のように、若しくはおびえる猫のように僕はチドリから目がそらせない。
「ほら、さっき意地悪言ったの誤るから…。」
「気にしてませんよ?好きな男子が別の女子と仲良くしてたら不機嫌にもなりますよ。」
「何言ってるんだよ。僕は…。ひっ!」
突然、胸を鷲掴みにされた。
反射的に両手で胸を庇いながら後ろに下がってしまう。
それは電源が入った自動機械のような、まさに反射。
「同じ女の子じゃないですか。」
そう言ってケラケラとチドリは笑った。