レシピ2 ケーキ 前編
「あ~、眠い。ロン遅い……」
リンはソファに座って足をぶらぶらさせながら、ロンの帰りを待っていた。
しばらくすると、木のドアが開いた。
リンはソファから飛び上がると、ドアを勢いよく内側へ開けた。
すると、そこに立っていたのはロンではなく、さっきクッキーを買っていった女の子だった。
チョコレート色の長い髪にピンク色のスカート。
どう考えてもあの子だった。
「あれ? 何か、忘れ物?」
すると、女の子は首を横に振った。
「お母さんの、誕生日ケーキを買いに来ました」
「ケーキ!?」
リンは思わず大声を出した。
リンはケーキを作ったことがないのだ。
「ケーキ……時間掛かるかもしれないけど、いい? って、お母さんの誕生日いつなの?」
リンがそう尋ねると、女の子はにっこり笑って、「今日だよ」と言った。
リンはため息をついた。
「あの、今日はさすがに無理……」
そのとき、激しくドアが開いた。
「客連れてきた……あ、れ?」
そこに立っていたのはロンだった。
リンはロンにまくし立てるように言った。
「あの、今日誕生日の人に今日ケーキ作るとか、無理だよね!?」
「え……っと、まず、その子なんで来てるの?」
ロンが後ろにいる子供たちを見ながら言った。
2人はチョコレートのような髪の色をしていた。
女の子とよく似ている。
2人は女の子と同じピンク色のスカートをはいていた。
女の子と同じ白いブラウスに茶色のカーディガンを着ているのを見ると、姉妹のようだ。
すると、女の子が叫んだ。
「あ、カリン! セリア!」
「ルリお姉ちゃんだーっ!」
カリンとセリアはルリに抱きついた。
やっぱり姉妹だった。
「あのさ、ロン。この子達の注文って……」
「ごめん、バースデーケーキだって」
ロンは両手を合わせた。
リンはまたため息をついた。
「あのー、バースデーケーキ、昨日言ってくれれば……」
「だって昨日は、開いてなかったもん。私たち、リンちゃんのケーキがいいの」
「リンちゃん?」
リンは首をかしげた。
自分の名前をこの子達に教えた覚えはない。
「えっと、名前違った? お兄ちゃんの方が、リン?」
「え、私がリンだけど……」
リンはもう一度よく考えた。
そして、店の名前が〝リンのお菓子屋さん〟だったことを思い出した。
「ロン、看板つけたっけ?」
「あ、つけたつけた」
リンは三人に向き直った。
「私、ケーキ作るね!」
3人は飛び上がって喜んだ。
でも、リンはどんなケーキを作るかも考えていなかった。
「えっと、どんなケーキがいいの?」
「チョコ!」
3人は声をそろえてそう言った。
リンは店にチョコレートがあったか考えた。
「あと、なんか入れたいものは?」
「イチゴぉ!」
3人はまた声をそろえて言った。
リンは机に置いてあったメモに、【チョコ イチゴ】と書いた。
そして、リンはケーキの絵を描いた。
「こういうの?」
リンが書いたケーキは、三段になっていて、一番上にはたっぷりイチゴがのっていた。
それにチョコのプレートが囲まれていて、【ハッピーバースデー】と書いてある。
二段目と三段目はチョコレート味のクリームで、一段目だけ生クリームがのっていた。
「うん! おいしそう!」
ルリは瞳を輝かせてそう言った。
また髪が揺れる。
その隙間から少し覗いているチョコレート……ではなく、ルリの後ろにセリアが隠れていた。
恥ずかしがりのようだ。
「セリア~、私の後ろに隠れないでよ~」
ルリが髪をなびかせながらセリアの方を振り向いた。
すると、セリアはリンに見られると思ったのか、素早くしゃがみこんだ。
その様子を、リンは微笑ましく思いながら眺めていた。
「って、こんなことしてる暇はないんだった。ロン、クリーム!」
リンは急に立ち上がって、暇そうにしているロンに声をかけた。
すると、ロンは振り返って、「クリームを作れってこと?」と聞いてきた。
リンはいつものように腰に手を当てて、「そうに決まってるじゃない、まったく」と少し怒ったような口調で言った。
そんなリンを、ロンは笑いながら見ていた。
それに気づいたリンは怒ろうとしたが、自分の置かれている状況を考えて、無駄なことはしないで置こうと思い、口をふさいだ。
リンがこれ以上ストレスを溜めると、面倒なことになると知っているロンは、素直に立ち上がり、リンからボウルを受け取った。
リンは怒りながらも、もうケーキを作る準備をしていたのだ。
「リン、好きなことだけは素早いね」
ロンがチョコレートクリームを混ぜながらつぶやいた。
リンのストレスは溜まったが、リンは聞き流すことにした。
ロンがクリームを作っている間に、リンはスポンジを焼いていた。
ケーキは作ったことはないが、大体のことは分かる。
分からないことは放っておいて、無視するのがリンだ。
材料の量はあまり気にしない。
それでも美味しく出来るというのが、リンの得意技だった。
「ロン、手が止まってるよ。さっさと作って。待ってるんだから」
リンは3人の方を見ながら言った。
3人は楽しそうに店の中で静かにしていた。
セリアはリンとロンが見ているのに気が付いて、慌ててルリの後ろに隠れた。
その行動が可愛らしくて、2人は笑った。
ロンがクリームをしばらく混ぜていると、だんだんふわふわしてきた。
「リン、これくらいでいい?」
ロンが聞くと、リンはクリームに指を付けて、舐めた。
「あー、混ぜすぎたか……」
リンはそうつぶやくと牛乳を加えた。
ロンは驚きながら、「何で入れたの?」と聞いたが、リンは「いいのいいの」と言って相手にしなかった。
ロンは混ぜようとしたが、リンにダメだと言われた。
そして、リンはロンからボウルを取り上げてゆっくりと少しだけ混ぜた。
そしてクリームをキッチンに置いた。
ロンはお菓子作りに詳しくないので、リンに任せることにした。
「あっ、スポンジが焦げる! ロン、えっと、イチゴ!」
リンがロンに指図する。
ロンはキッチンに置かれたイチゴの山を持ち上げ、リンに渡そうとした。
しかし、リンは受け取らず、キッチンにスポンジを置いた。
スポンジケーキはあまり焦がしてはいけないのだが、今回は少し焦げてしまった。
それを気にしているのか、リンは何度もスポンジケーキを見ていた。
「リン、これどうするの?」
ロンが聞くと、リンはスポンジケーキを置いてイチゴを受け取った。
そして、さっきロンが作ったクリームの入ったボウルを持って、スポンジケーキに塗り始めた。
ロンが作ったのはチョコレートクリームだったので、生クリームを作る用のボウルをロンに渡した。
「また混ぜるのか……」
ロンは文句を言いながら混ぜ始めた。
リンはさっきのスポンジケーキより一回り小さい型を出して、スポンジの材料を型に流し込んだ。
二段目のケーキだ。
リンはオーブンに型を入れると、焼き始めた。
そしてまたスポンジケーキにチョコレートクリームを塗りだした。
ロンはさっきより勢いを弱めてクリームを混ぜた。
リンはオーブンを覗き込みながら、チョコレートクリームを塗る。
「リン、もういい?」
ロンがクリームを見せながら言った。
リンはじっとクリームを見つめると、「いいんじゃない?」とつぶやいた。
その瞬間、オーブンから煙が出てきた。
「あ゛っ、忘れてた! やばいやばい」
リンは慌てながらオーブンの扉を開いた。
そこには、真っ黒になったスポンジケーキがあった。
「あ~、やっちゃった……。やり直しだぁぁ……」
リンはそうつぶやきながら真っ黒なケーキを型から取り出した。
そして、記事を流し込むともう一度オーブンで焼き始めた。
ロンはその様子を見ながら、クリームを混ぜていた。
「って、ロン! もう混ぜなくていい……えぇっ!?」
リンはロンが持っているボウルを見ながら叫んだ。
今回もロンは混ぜすぎてしまったのだ。
リンはため息をつきながら牛乳を入れた。
そして、さっきのようにゆっくりと少し混ぜると、キッチンに置いた。
「もう触らないでね!」
リンはロンに念を押すようにして言うと、オーブンの中を覗き込んだ。
少しすると、ルリがこう言いだした。
「つまんなーい」
その言葉を聞くと、カリンも「ヒマー」と言い出した。
リンはまたため息をつくと、ロンに言った。
「三人を外に連れ出してくれない? 暇だってさ」
ロンは三人を外へ連れ出した。
ロンたちが見えなくなったところで、リンはまたオーブンの前に張り付いた。
少しするとリンはオーブンの扉を開け、ケーキを取り出した。
そして、もう一回り小さい型に生地を流し込んで、オーブンに入れた。
「あー、同じことばっかやってるのつまんないかも……」
リンは独り言を言いながら、焼きあがったケーキにチョコレートクリームを塗り始めた。
あまりにも長くなりそうなので、前編と後編に分けます。




