レシピ1 クッキー
「ロンはさ、なんで私にお店を開くこと、薦めたの?」
リンは二つ結びの髪の毛を触りながら言った。
リンとロンは荷物運びを終えて、やっと一息付いたところだった。
「美味しかったから」
ロンはソファに座ると、分厚い本を読み出した。
リンはため息をついてから、キッチンへ向かった。
店に出す為のお菓子を作るのだ。
「ねぇロン、どんなお菓子だったらいいかな?」
リンはエプロンを着けながら言った。
ロンは本を読みながら、「何でも美味しかったらいいんじゃない?」と返事をした。
〔ロンは、クッキーが好きだったよね……〕
リンはクッキーの生地を作る材料を取り出した。
ロンが一番気に入っていたからだ。
リンは心の中でそう思いながら、砂糖とマーガリンを混ぜた。
それをクッキングペーパーにのせてオーブンで焼く。
手際良く進めていくリンは、プロのようだった。
しばらくすると、オーブンから香ばしい香りがしてきた。
リンはオーブンを開けてクッキーを取り出した。
すると、クッキーはきつね色に焼けていた。
「わーっ、大成功! やったっ! でも、ひねりがないよね……」
きつね色のクッキーを眺めながらリンはそうつぶやいた。
リンは考えて考えて、あることを思い付いた。
「願いの叶うお菓子屋さんってどう!?」
リンはロンの座っているソファに向かって叫んだ。
すると、ロンは本を閉じて、こう言った。
「リンにそんなこと、できるの?」
ロンの言ったことはもっともだった。
リンはそんなことしたこともなかった。
でも、リンは突然変なことを思いついて、何も考えずに実行する子だった。
今日も、そうなってしまった。
「さっ、ロン! あんたならすごい人と知り合いだったりするでしょ! 聞いてきて!」
そう言いながら、リンはロンに手を合わせた。
ロンはため息をつきながら、「そんなこと知ってる人なんていないよ」と言った。
リンは不満そうにキッチンに戻ると、トッピングの材料を引っ張り出して眺めた。
「ココアは定番すぎるし、唐辛子……なんて無理。ドライフルーツはないしなぁ」
リンはぶつぶつつぶやきながら、棚から次々と出てくるトッピングを投げ捨てた。
リンがそうしている間、ロンもリンのために色々と考えていた。
〔願いの叶うお菓子はさすがに無理……。リンも高望みだな〕
「願いが叶うお菓子は無理でも、幸せになれるお菓子は作れるよね。よし、とびっきりスペシャルなお菓子作っちゃおーう!」
リンは拳を突き上げた。
その行動に、ロンが笑う。
リンはむくれながら言った。
「ロンはどんなクッキーが好きだっけ?」
リンがそう聞くと、ロンは窓を眺めながら、「なんでも」と答えた。
リンは手を口にあてた。
〔一人一人、好みは違うよね? 同じばっかりじゃ……〕
「ぅあぁぁぁっ!!」
リンは飛び上がった。
商品を思いついたのだ。
「ろろろっ、ロン! セルフサービスだよ! セルフトッピング!」
リンはキッチンから飛び出した。
ロンは驚きながら、リンの言葉を聞く。
「セルフ? 自分でトッピングするってこと?」
「そう! そしたら、プレーンクッキー作っておいとけばいいんだよ!」
リンは、プレーンクッキーを大量に作って、トッピングの材料を置いておき、客にトッピングして持って帰って貰うのだ。
「それでよくない?」
リンは瞳を輝かせながら言った。
ロンは勢いに押されて、「うん」と、返事をした。
「じゃ、さっそく準備だよ! ロン手伝って~」
リンはそう言いながらマーガリンや卵を取り出した。
ロンは立ち上がってキッチンへ向かった。
「ロン、これ混ぜて!」
リンはロンにボウルを差し出した。
見ると、そこには溶かされたマーガリンと卵黄と砂糖が入っていた。
リンの手元にもボウルがある。
「どれだけ作るつもり?」
ロンは泡立て器で混ぜながら聞いてみた。
すると、リンはロンの質問には答えず、叫び声を上げた。
「ロン、エプロンつけてないっ! 手も洗ってないでしょ!」
「細かいって。泡立て器なんだから、手は使わないし大丈夫……」
ロンが言いかけているうちに、リンはクローゼットから青いエプロンを取り出してきて、ロンに渡した。
「これ着て、手、洗って!」
「はいはい」
ロンは言われるがままに、エプロンをつけて手を洗い始めた。
リンはその間に両手で生地を混ぜていた。
「リン、それこぼれるんじゃない?」
ロンは手を洗いながらそう言ったが、リンは聞かなかった。
そして、次の瞬間、ボウルが落ちてしまった。
「あ~、ほら、言ったじゃん」
ロンは手を拭いて、かろうじて中身がこぼれなかったボウルを拾い上げた。
「ごめんごめん」
リンは笑いながらボウルを受け取った。
そして、少し混ぜると、またクッキングペーパーにのせてオーブンで焼き始めた。
「ロン、宣伝してきて」
リンはロンが混ぜていたボウルを取り上げて、ロンの背中を押した。
ロンは一瞬よろけてから、走り出した。
「宣伝くらい、言われなくてもするよー」
そう残して、ロンはどこかへ行ってしまった。
「いってらっしゃーい」
リンはロンに向かって叫んだ。
しばらくすると、ロンが帰ってきた。
「明日オープンでいいよね?」
「うん。いいけど……もう寝ようよ。てか、ロン、旅っていつ行くの?」
リンは押し入れから布団を出してきた。
ロンはそれを手伝いながら、「明後日くらいじゃないかな」と言った。
リンは布団に入るとすぐに寝てしまったが、ロンはなぜか寝れなかった。
次の日、ドアを叩く音で二人は飛び起きた。
「なに? 誰?」
リンが目をこすりながらドアを開けると、人間のような姿をした女の子が立っていた。
チョコレートのような色のカールした髪は、その子の膝まで伸びていた。
その子はピンク色のスカートを揺らした。
「あの、クッキー、買いに来たんですけど、まだ開いてませんでした?」
鈴が鳴るような声で女の子は言った。
リンはロンを睨んでから、女の子に向かって言った。
「えっと、開いてないんだけど……せっかく来てくれたんだし、入っといて」
女の子はにこっと笑ってから、店に入った。
女の子は店全体を見回すと、「すごーい!」と、はしゃぎ声を上げた。
「入れちゃっていいの?」
ロンが聞いてきたが、リンは「ロンが時間伝えてなかったからでしょ」と言って、レジに向かった。
レジと言っても、特に何かあるわけではなかった。
注文を聞くだけだ。
レジはキッチンのところにある。
レジでは玄関のところが見えて、振り向くとキッチンになっているのだ。
「えっと、クッキーだよね。これに、自分でトッピングしてくれる?」
リンはそう言いながら、クッキーをキッチンの方から取り出してきて、トッピングの材料を皿に入れた。
女の子はクッキーをしばらく見つめてから、クルミをのせた。
そして、チョコレートソースをかけると、「できた!」と叫んだ。
リンはにこっと笑いながら、女の子からクッキーを受け取って、女の子に聞いた。
「今食べる?」
すると、女の子は首を横に振って、答えた。
「お母さんに、プレゼントするの」
リンは顔をしかめた。
ラッピングの袋はここにはない。
「ロン、買って来てくれないかな?」
リンは手を合わせてロンにお願いした。
ロンは仕方なく、という風に、外に出て行った。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんはどこ行ったの?」
女の子が聞いてきた。
リンは笑顔で答えた。
「お出かけだよ」
「ふぅん」
女の子は納得したかのように、うなずいた。
リンはそれ以上深く追求されないで済んだので、ほっとした。
「プレゼントの袋、ないの?」
女の子がリンに聞いてきた。
リンは正直に行った方が良いと思い、「お兄ちゃんが今、買いに行ってるんだよ」と言った。
女の子はまた「ふぅん」と言って、ソファに座った。
女の子が勢いよく座ったので、木で出来た床がギシギシと音を立てた。
「あの、壊れちゃうから、ゆっくり座ってくれるかな」
リンが恐る恐るそう言うと、「ごめんなさい」と女の子は反省したようだった。
しばらく二人で話していると、ロンが帰ってきた。
「あ、お帰り」
ロンはリンの普通な言い方に驚いた。
遅れたから、また何か言われると思っていたのだ。
「あ、ただいま……。これ、女の子っぽかったから、買ってきたんだけど……」
そう言って、ラッピングの袋をリンに差し出すと、ロンはソファに座って、ため息をついた。
「疲れた……」
「疲れた!? 買っただけで? ロン、あんた大丈夫?」
リンがとても驚いた表情でロンを見下ろした。
女の子はポカンとしていた。
「あー、大丈夫じゃないかも」
リンはロンの言葉は無視して、女の子に袋をあげた。
「これにクッキー入れて、お母さんに渡してね。買ってくれてありがとう」
すると、女の子はリンに、小瓶を差し出した。
リンが、「これなに?」と聞くと、女の子は照れくさそうに言った。
「お金の代わり……。バニラの匂いがするお水なの」
そう言われて、リンは飛び上がるほど驚いた。
「これ、バニラエッセンス!? な、なんで持ってるの? こんな高価なもの……」
リンの問いかけに、女の子は顔を赤くして、「えへへ」と笑った。
そして、木のドアを開けて、「さようなら」と言い残して帰って行ってしまった。
「ロン……もしかして、あの子しか宣伝してない?」
女の子が帰って1時間ほど経ったとき、リンが口を開いた。
ロンは「あ」と声を漏らした。
「やっぱり。どおりで客が少ないと思った。他のお菓子作るから、宣伝してきて!」
リンは腰に手をあてて叫んだ。
「ごめんごめん」
ロンはそう言いながら、また外に出て行った。
ロンが見えなくなったところでドアを閉めて、リンは考え出した。
「さーて、次はどんなお菓子にしようかなー」




