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幸運な爺さん

掲載日:2007/09/06


……災いは、本当に転じて、福となるのでしょうか?


 この世に幸運な人生を送ったヤツがいる。



 昔の話である。

 まだ中国が唐と呼ばれていた時代のこと。


 ある爺さんが馬を持っていた。

 その馬は、利口で足も速かったため、爺さんはこの馬を他人に貸して、そのお金で生活をしていた。


 ところが事件は起きた。


 爺さんの馬が、ある日突然逃げたのである。

 近所の楊おばさんや、親戚の張さん一家も、爺さんを心配して彼の家を訪れた。

 しかし、爺さんは顔色も変えず

「悔やんどらん」

 一言のみ吐いたのだ。

 楊おばさんも張さんも、呆然とした顔をしつつ、少しホッとして帰っていった。



 ところが事件はふたたび起きた。


 いなくなった馬が帰ってきたのだ。

 しかも、ただ帰ってきたのではない。馬を何十匹も引き連れて帰ってきたのだ。

 やはり、近所の楊おばさんや、親戚の張さんが、お祝いに駆けつけたが

「嬉しくなんぞ無い」

 爺さんは、そう呟いた。



 そして、二度あることは三度ある。



 事件が起こったのは、それから数年経った日のことだ。


 爺さんは無償で得た何十匹もの馬で、そこそこに裕福な暮らしを送っていた。

 大好きな孫も成人し、誰が見ても「幸せ爺さん」だった。

 しかし、事故は孫に起こった。

 孫が落馬し、腕の骨を折ったのである。

 またも楊おばさん、張さんが駆けつけ、心配そうに爺さんの顔を覗き込んだ。

 しかし…いや、もちろんと言った方が、しっくり来そうである。爺さんは一言

「悔やんどらん」

 楊おばさんも、張さんも、いつものようにため息をつき、いつものように帰っていった。



 孫が落馬してから一ヶ月後、爺さんの国は戦争に巻き込まれ、それが激化していった。

 当然のように、若い者たちは総動員で戦争に送られた。

 四つの国を巻き込んだ戦争である故、生き残った者は、ほんのわずかだったそうである。

 しかし、爺さんの孫はというと、骨を折っていたため、非戦闘員として隊から除外され、幸運なことに命拾いしたのである。

 またまたまやしても、楊おばさんと張さんは爺さんの家に駆けつけた。

 そして、やはり爺さんも

「嬉しくない」

 の一点張りだった。


 このように、いかなる事があっても、爺さんのように冷静に対処することで、幸運を引き寄せられるという言い伝えが、中国では広がっているそうである。



 しかし、この話には裏があった。


 一見、頑固で冷静な爺さんだが、客が帰ったとたん、滂沱なる涙を流し、奇声とも言える喜びの声を上げていたのである。

 その様子を間近で見ていたのが、楊おばさんと張さんであった。


 ……馬がいなくなった時。

 おばさんは、必死で馬を探し出した。見つけた場所は、隣国だったのである。

 しかし、馬は既に売馬とされていて、持ち主からは「他の馬も一緒に買わなければ売らない」と、ことごよく弱みに付け入られた。

 しぶしぶ、おばさんは張さんと割り勘で馬を飼ったのである。

 その数三十二匹!


 ……孫が骨を折った時。

 張さんは政府の役所に勤めていて、戦争が起こることを見据えていた。

 孫が死んだら、爺さんがどれだけ悲しむだろうと思い、楊おばさんと共に「落馬大作戦」を実行したのである。

 罠のひもを張ってみたり、落とし穴を作ったりと奮起した結果、どうにか孫を怪我させる事に成功した。

 そして、国は戦争に突入していったのである。



 私はつくづく思う。

 この爺さんは、なんと幸せであろうかと。

 馬を得たことでもなく、孫が生き延びたことでもない。

 何より、心優しき友を持っていることである。

 これは友が良いだけに限らない。

 素晴らしい友を引き寄せる、爺さんにも魅力があるのではないか、と。

 そう思うのだ。

(『塞翁が馬』の由来となった物語による。)

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