漫画の読み過ぎだよ凜子ちゃん!
4時間目が終わり、今日も楽しいランチタイム。
凜子ちゃんは相変わらず昼休憩になるや否やカバンから菓子パンとお茶を取り出してもしゃもしゃと不機嫌そうに食べだす。成長の余地はあると思うのだが、この食生活じゃ大きくなるものもならないよ。
「うし、飯食おうぜ」
俺は凜子ちゃんをおかずにご飯を食べるので、凜子ちゃん同様に席を動くつもりはないのだが、凜子ちゃんと違って孤独なグルメを満喫しているわけではない。この時間になると佃君が椅子を持ってきて俺の机にお弁当を乗せる。
とはいえ、俺と佃君が大親友になったというわけではない。初日の会話がきっかけで佃君とはそこそこ仲が良くなったが、多人数の男子グループの誘いを断ってわざわざ俺の方へやってくるのには理由がある。
「それでね、カニパンが破裂してさ~」
俺の机のすぐ側で女子グループに混じって食事をしている佃君の恋のお相手、おっとり系でいい人そうと評判の長瀬さんが原因だ。
何の事はない、こいつは俺と一緒に飯が食いたいのではなく彼女の近くで飯を食うことで一緒に飯を食っている気分を味わいたいだけなのだ。食事中もずっと長瀬さんのお弁当をじろじろ見ては、
『長瀬さんのお弁当……手作りなのかな、食べたいな……』
と、恋する乙男思考になっている。
『可哀想にね、あんたが友達だと思ってるその男は、ただ好きな子の近くで食事したいからあんたを利用してるだけなのに、浮かれちゃって親友だなんだと……あんたには孤独がお似合いよ』
菓子パンを頬張りながらこちらを眺め、脳内で俺をぼっちにしている凜子ちゃん。
妄想の心の声を聞いている凜子ちゃんですらきちんと察してしまうほど、佃君はわかりやすいのだ。
詳しく調べるのは面倒なのでやらないが、クラスの半分くらいは気づいているのではないだろうか?
『でも本当に可哀想なのは佃君よ。アンタの好きな長瀬さんは昨日もおっさんにお金貰ってひいひい言ってるのよ、アンタの事なんてミジンコ程も思っていないわ。本性も知らずに一途に恋して本当に可哀想、馬鹿でエロい男子は嫌いだけど、こればかりは同情するわ』
本当の本当に可哀想な凜子ちゃんの頭の中では、長瀬さんは援交少女らしい。漫画の読み過ぎだよ、いくらいい人そうな人間が信じられないからって勝手にビッチにするなんて。
そんなわけがないだろ、と長瀬さんの心を覗こうとするが、急に怖くなる。
本当に長瀬さんが援交少女、もしくは腹黒かったり、イメージとかけ離れた人間だったらどうしよう。最近凜子ちゃんに毒されている気がする。
……よし、妥協して佃君への印象を覗こう。俺の予想では本人も佃君の気持ちに薄々気づいている。でも多分佃君嫌われてるだろうなあ、単純だし、性格的に合いそうにない。
『いつになったらつっくん告白してくれるのかなあ……小学校の頃はあんなに積極的だったのに、今ではこんなヘタレになっちゃって。私から告白するべきなのかなあ……でもやっぱりつっくんの方から告白して欲しいなあ……』
「ざけんじゃねえ!」
「……!?」
「わっ」
「ど、どうした斎藤」
怒りで机をガンと叩き、近くにいた凜子ちゃんと佃君と長瀬さんを驚かせてしまう。
ふざけんじゃねえ! 両想いじゃねえか!
「佃」
「おう、どうしたよ」
「お前頑張れよ」
「何をだよ?」
こっちは心が読めるのに凜子ちゃんに嫌われる一方だというのに、これが幼馴染として数年間積み重ねてきた好感度の違いというものなのか。俺と凜子ちゃんが後数年早く出会っていれば、今頃超ラブラブカップルに違いない。
いい事を思いついた。佃君と長瀬さんをくっつけよう。
友人の恋のために奮闘する俺を見れば、凜子ちゃんも俺への認識を改めるに違いないし、長瀬さんが佃君の事を本当に好きだと理解できれば、自分の聞いていた幻聴との違いに悩んで自分の能力に疑問を持つかもしれない。佃君が俺を利用するように、俺も佃君を利用させてもらおう。