予測可能回避不可能凜子ちゃん!
授業中、春のうららかな陽気に誘われたのか少しあくびをしながら窓の外を寂しげに眺める、すごく絵になる凜子ちゃん。
きっと今凜子ちゃんの頭の中は、センチメンタルでロマンティックに違いない。
学校が終わったら、家に帰って素敵なポエムを書き連ねようとしているに違いない。
『学校終わったらゲーセン行こう……』
センチもロマンもかけらもねえ!
ゲーセン? 駄目だよ凜子ちゃん、学校帰りにゲーセンなんて不良のすることだよ。
大体心の声が聞こえてくる設定の凜子ちゃんがゲーセン行ったらただでさえ五月蝿い店内がそれはそれは大変なことになっちゃうよ。
凜子ちゃんが人の道を踏み外さないためにも、ここは俺が誘導するしかない!
「なあ佃」
「おうどうしたよ斎藤」
「放課後ゲーセン行くような女ってどう思う?」
「別にいいんじゃねえの?」
「俺は不良っぽくて嫌だなあ」
休憩時間に佃君と会話をしながらさりげなく凜子ちゃんを牽制する。
『よし、ゲーセン行こう!』
あれぇ?
そんなわけで放課後になって学校を出て、近場のゲーセンに向かって歩く凜子ちゃん……を後ろからこっそりと見守る俺。完全にストーカーだ。言い訳させてもらうと、身体が勝手に凜子ちゃんの後をつけちゃうんだよ、多分前世はストーカーだったんだ。
それにしても凜子ちゃんとゲーセンっていまいち結びつかない。どんなゲームをやるんだろうか、UFOキャッチャー? 音ゲー? まさかのパチンコ?
ゲームセンターに入った凜子ちゃんは脇目もふらずにつかつかと奥の方へ向かい、とある筺体に座る。
……格闘ゲーム。これまた謎のチョイスだ。
あれかな、凜子ちゃん心が読めるから格闘ゲームうまいと思ってるのかな?
その幻想を打ち砕いてあげるよ凜子ちゃん……と不敵に笑った俺は、凜子ちゃんの向かいの筺体に座りコインを入れる。
凜子ちゃんに勝負を挑んだ俺はキャラクターを適当に選ぶ。さあ楽しもうか凜子ちゃん。本物の能力者の力を見せてあげるよ。
試合開始と共にすぐに凜子ちゃんの脳内を探る。
『ハイスラから入ってバックため撃ち……ダイアグラム不利だけどまあ投げ技の見切りは練習したし時間経過でバフるから何とか行けるか……?』
??? 意味がわからないよ凜子ちゃん?
俺が心を読んで、理解不能な単語とか236とか謎の数字とかに困惑しているうちに凜子ちゃんが色々仕掛けてくる。ジャンプしまくってそれをかわそうとすると、
『あ、こいつ初心者だ。いるいる、対空技の恐ろしさも知らずとりあえずジャンプばっかしとけばいいとか考えてる奴。はっきり言って格闘ゲームの才能ないから痛い目見せて引退させるべきかもしれないけど、少し遊んでやりますか。精々善戦できた! と浮かれあがって貢ぐことね』
そんな不敵な凜子ちゃんの心の声が聞こえてくる。何様だよ凜子ちゃん!
言葉通り露骨に動きが鈍る凜子ちゃんのキャラ。この瞬間を待っていたんだ! と大技をかけようとするが、全然コマンドがうまく入らない。
『あーもうたいぎいからさっさ終わらせようっと』
舐めプにも飽きたようで容赦なく俺のキャラを潰しにかかる凜子ちゃん。
終わってみれば凜子ちゃんの体力を1割も削れないままゲームオーバーになっていた。
「……♪」
『ふー、久々に格闘ゲームしたけど、心の声は聞こえてこないし初心者狩りは楽しいし、いいストレス解消になったわ』
満足げな顔でゲームセンターを出て去って行く凜子ちゃん。凜子ちゃんのストレス解消に役立ったようで何よりだよ。
……俺の言った通りでしょ? 心が読めても、格闘ゲームはうまくならないんだよ。タイムラグとかあるしね!