二人組作ろう凜子ちゃん!
高校生になって2週間も経てば、クラスの仲良しグループというのは形成される。
俺は超絶リア充というわけではないが、中学の知り合いとかとはそれなりによろしくやっているし高校で出来た友人もいる。クラスのポジションも真ん中くらいだろう。
「……」
でも凜子ちゃんは当然のようにぼっちだ。自分から女子に接することはなく、話しかけられても勝手に妄想の心の声を聞いて見下して冷たい返答をしていれば当然である。このままじゃあクラスメイトの中での凜子ちゃんの評価がどんどん下がって、凜子ちゃんの被害妄想が被害妄想でなくなるかもしれない。
「それじゃあ日本のODAの是非について、二人組を作って話し合え」
この日の倫理の授業、担当教師がそう言うとクラスメイトが立ち上がって各々二人組を作りはじめる。
この日の授業は男子も女子も偶数いるので凜子ちゃんが余る事はないはずなのだが、
「え……あ……」
余った女子と組むつもりだったのか皆がペアを作り終わるまで棒立ちしていた凜子ちゃんの前では、女子が三人組を作って和気藹々とお喋りしていた。凜子ちゃん余っちゃった。
凜子ちゃんには悪いけど、正直自業自得だよ。こういう時だけ都合よく事が運ぶと思ったら大間違いだよ。一体誰が凜子ちゃんみたいな被害妄想で他人に絶望して、他人を見下してるような協調性のない女の子に優しくしてくれるんだい? そんな聖人君子、
「わり、どっかと三人組作っといて」
「おいおいまじかよ」
俺くらいなもんだよ。当初組む予定だった佃君の元を離れると、自分の机で三人組の女子を睨んで顔が酷いことになっている凜子ちゃんの机に自分の机をくっつける。
「……え?」
「余っちゃってさあ、お願い、組んでよ。別に遊んでていいからさ」
「……はあ」
こうして日本のODAの是非に関するディベートが始まったわけだが、凜子ちゃんはずっと三人組を作った女子を睨んでいる。
『くっ……先生は二人組作れって言ったのに、どうしてルール守らないのよ。おかげでこんな聖人気取りの陰で動物虐待してるような男と一緒になる羽目になるしホンマ最悪……』
この間の動物虐待の設定がまだ残っているのは悲しいが、凜子ちゃんの頭に比べれば悲しくもなんともない、と耐えながら凜子ちゃんの心を覗き続ける。
『笑ってる……心の中であいつらいい気味だって私を笑ってる……ふん、あんな奴等とペアなんて組まなくて正解だったわ』
出ましたお得意の被害妄想。女子にあまり良く思われていないのは正解だろうけど、多分笑われてはないと思うなあ。笑われる程興味持たれてないと思う。
このままじゃ凜子ちゃん逆恨みしてクラスメイトに迷惑をかけてどんどん孤立しちゃう、とりあえずここは俺のトークで凜子ちゃんを宥めることにしよう。
「ODAと言えば、厨日の尾田もそろそろ引退だよね」
「は?」
フレンドリーに話しかけて見たが、凜子ちゃんは俺を意味がわからんといった表情で見てくる。
しまった、女の子に野球の話なんかしても大抵伝わらない。完全に滑ってしまい、恥ずかしくてそれ以上喋ることができない。
『え、何? こいつ私に何の話をしたの? 駐日? 軍隊の話? でも今って日本の政府開発援助の話よね? 軍隊って何か関係あるの? 意味がわからない、こいつ本当に意味が解らない』
根が真面目なようで俺の言葉の意味を理解しようと、結局ディベートが終わるまでそんな感じに混乱する凜子ちゃん。まともに会話する事は出来なかったが、凜子ちゃんのヘイトをこちらに向ける事が出来ただけでもよしとしよう。