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被害妄想だよ凜子ちゃん!  作者: 中高下零郎
被害妄想だよ凜子ちゃん!
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じゃんけんぽんだよ凜子ちゃん!

 心が読めてもロクなことにはならない。

 漫画の世界でも心が読める能力を持つキャラは苦しんでいるし、俺だって本当に凜子ちゃんのように周りの心の声が勝手に聞こえてきたら精神を病んでしまうに違いない。そういう意味では、凜子ちゃんはすごく強い人だ。


 だから俺は心を読む能力を今までロクなことに使ってこなかった。

 幸いにも俺の能力は、『何について、現在どう考えているか』を読み取る能力が主流なので、

 例え相手がどんな悪人だったとしても、


「かー、お前じゃんけんつええなあ」


 じゃんけんの手を読むくらいなら、そいつの悪い心は流れてこない。

『じゃんけんで負けたらジュース奢りな!』と俺にじゃんけんを挑んできて負けてジュースを奢る羽目になり、リベンジマッチだと数日ずっと挑んできては負け続ける佃君が悪人だと言いたいわけではないが。というかどう考えたって悪人なのは俺だ。

 ともかく俺が能力を使う時は、じゃんけんとかの心理戦でズルをして勝って利益を得ようだなんて、セコいことをする時くらいなもんだった。

 俺が心を読んでいるとも知らずにリベンジだとか言いながら毎回じゃんけんを挑んできては負け続ける佃君には罪悪感を覚えてしまうが、俺ももう息をするかのようにじゃんけんをする際は自然に心を読んで自然に勝ってしまうのだ。佃君単純だから、勝負の直前で出す手を変えようと考えたりしないし。明日は頑張って負けるようにしよう。



「……」


 気づけば凜子ちゃんが俺達の様子を退屈そうに眺めていた。

 そういえば凜子ちゃん、じゃんけんの時はどうなっているんだろうか。

 心の声が勝手に聞こえてくるなら、当然じゃんけんの手だって聞こえてくるはずだが、凜子ちゃんのそれは幻聴なのだから、心を読んだつもりでじゃんけんしても意味がない。

 すごく気になるが、突然特に仲良くない男がじゃんけんしようなんて話しかけてきたら凜子ちゃんじゃなくても怪しむだろう。学校生活やってればそのうち凜子ちゃんがじゃんけんする時くらいあるだろうし、その時に心を覗かせて貰おうと待ちの構えで臨む。




「じゃあじゃんけんで負けた2人がゴミ捨てな」


 とか考えていたら放課後、今日の教室の掃除当番の中には俺も凜子ちゃんも含まれていて、ゴミ捨てを決めるためにじゃんけんをするという願ってもない展開に。

 さてさて凜子ちゃんはじゃんけんする時どうなっているのかなと、心を覗く。


『えーと、あいつがチョキであいつがグーで、いや、じゃなくてパーで……ああ駄目だわ、やっぱり一度に手の内が聞こえてきても混乱してよくわからない、数少ないこの能力の利点のはずなのに……』


 他人のじゃんけんの手は聞こえてくるけど、並列処理できないからじゃんけんで勝てなくてもしょうがない、という設定で今まで通してきたようだ。

 本物である俺は凜子ちゃんの心を読みながら凜子ちゃんのじゃんけんの手も読んで、他の掃除当番のじゃんけんの手だって余裕で読めちゃう。あ、何出してもあいこだこれ。



 いつものように心を読んでじゃんけんに勝とうとした俺であったが、ゴミ捨てが2人という事を思いだす。俺と凜子ちゃんで一緒にゴミ捨て! いいじゃないか、これで行こう。



「あーいこでしょ! またかよ、何回連続であいこだよ……」


 俺と凜子ちゃんだけが負けるまで無理矢理あいこにし続けた結果、



「ゴミなら俺が一人で持っていくから、佐藤さんは帰っていいよ」

「……いいです、私もやります」

『ふん、こんな奴に恩を着せたらどうなるかわかったもんじゃないわ』



 見事に凜子ちゃんとのゴミ捨てデート権を獲得。

 二人でゴミ袋を持って教室を出て、ゴミ捨て場に持っていく。会話は全くないけれど幸せです。



 多人数でじゃんけんをする時の凜子ちゃんの脳内はわかったけれど、二人でじゃんけんをする時はどうなるのだろう。並列処理ができないなんて言い訳も無理だろうし。やっぱ気になる。


「ところでり……佐藤さん、じゃんけんしない?」

「? 何でですか?」

「俺、1対1のじゃんけんすごく強いんだよね。同じクラスの佃君にも連勝しているし、何となく自分の連勝記録を伸ばしたくて」


 多少無茶苦茶な理由ではあったが、


「まあ、いいですけど」

『心の声が筒抜けとも知らずに馬鹿な男ね。じゃんけんでしか自尊心を満たせない男にはお灸を据えてやらないとね』


 凜子ちゃんは心の中で厨二病っぽいキャラになって俺をこきおろしながら、その勝負に乗るのだった。ノリノリですね。



 さあ、俺と凜子ちゃんの心理戦だ。凜子ちゃんは俺の心を読んだつもりになって、それに勝つ手を出そうとする。俺は凜子ちゃんの心を読んで、それに勝つ手を出そうとする。


『男らしくグーで勝負だなんてガキね。望み通りパーを出してやるわ!』


 うんわかった、じゃあチョキだすよ。


「「じゃーんけーん、ぽん!」」



「よっしゃ、俺の勝ち」

「なっ……」


 心理戦でもなんでもない、所詮凜子ちゃんは偽物だし。

 さてさて負けた凜子ちゃんは自分にどう言い訳をするんだろうか。


『じゃんけんをする直前でチョキを出すっていう心の声が聞こえてきたけど、反応しきれなかった……タイムラグがあるし、心の声が読めても万能じゃないわね。それにしても直前で出す手を変えるなんて、女々しい男ね』


 嘘をつくな嘘を。確かにタイムラグがあるから俺もたまに負けることはあるけど、凜子ちゃんずっと俺がグー出すと思ってたじゃないか。勝手に女々しい男扱いされるし、男は辛いよ。



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