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被害妄想だよ凜子ちゃん!  作者: 中高下零郎
被害妄想だよ凜子ちゃん!
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たっぷり泳ごう凜子ちゃん!

「それじゃ、暇な日とか遊びに誘ってね。私は大体は暇だから」

「俺も大体は暇だよ。毎日デートって訳には流石に行かないだろうけど、凜子ちゃんも行きたいところとかあったら誘ってよ」

「ええ、わかったわ」


 終業式。学生にとっては嬉しい夏休みだが、付き合い始めた俺達にとっては、学校で会えなくなるので少し残念だ。ともあれ科学の進歩でいつでも携帯電話でメール等のやり取りができるのだ、現代に産まれて本当に良かった。



『たまたまテレビつけたらやってたからアニメ見てたんだけど、すごく面白いわよ。信也も見るべき』

『へえ、凜子ちゃんが面白いって言うなら面白いんだろうね。わかった、見るよ』


 夏休みが始まって早数日、家にいながらメール、たまに電話で凜子ちゃんとお喋りする。夏休みの宿題という辛い現実から目を背けている俺には至福の時間だ。

 けど、やっぱりたまには凜子ちゃんと逢っていちゃいちゃしたい。

 そう、夏らしいことをするべきなのだ。夏と言えば、勿論水着!

 プールなり海なりで凜子ちゃんといちゃいちゃしたい!



 しかし物事には、やっぱり順序というものがある。

 付き合い始めてすぐに彼女の水着を見るというのは、なかなか難しいのではないだろうか。

 更に言えば凜子ちゃんは、自分のスタイルにややコンプレックスを持っている。

 俺の心を読む能力も、電話やメールじゃ使えない。いきなりプールや海なんて、凜子ちゃんが嫌がる可能性は大いにあるのだ。

 それでも、男として、漢として、


『もしもし、私だけど』

『凜子ちゃん、どこかで泳がない? プールでも、海でも』


 誘う以外に選択肢はないのだ。メールだなんて男らしくないことはしない。電話で直接俺の熱いハートを伝えるのみよ。


『……いいわよ。プールにしましょう。色々と準備があるから、3日後でいいかしら?』

『わかった。準備?』

『女の子には色々あるのよ、察しなさい。それじゃね』


 無事に凜子ちゃんにデートの約束を取り付けることができた。頼んでみるもんだ。

 電話だと心が読めないから、俺もただの女心のわからない鈍感男になってしまう。今まで心を読んで察しのいい人間をやってきた身からすると、逆にそれが心地よい。

 凜子ちゃんも色々準備をするらしいから、俺も準備をすることにしよう。

 清潔感のある新しい海パンに、スネ毛等の処理。浮き輪も買っておこう。



 3日後、市民プールの前で凜子ちゃんと待ち合わせして、合流した俺達はプールに入って更衣室へ。

 剃ったはいいがすぐに生えてきて逆にきもいことになってる脚を見たら、凜子ちゃん笑ってくれるかなあと思いつつ海パン一丁姿で凜子ちゃんが更衣室から出てくるのを待っていると、


「……おまたせ」


 水色のワンピースタイプの水着に身を包んだ凜子ちゃんが恥ずかしそうにやってくる。

 ……可愛い! まさに夏って感じですごくいい。


「凄く似合ってるよ」

「そう? うへへ……」

『うんうん、心の中でも私に釘付けね』


 水着を褒めるととても嬉しそうに顔を赤くしなら照れ照れするも、辺りを見回して、


『……はぁ』


 しょんぼ凜子ちゃんになってしまう。どうやら自分のスタイルを気にしているようだ。

 海ではなくプールを選んだのは、子供の客も多いから自分のスタイルを気にしなくて済むだろうという考えのようだが、結局凜子ちゃんは大人の女性を見てはがっか凜子ちゃんになってしまう。


「大丈夫だよ凜子ちゃん。平均値平均値」

「何でそこだけ察しがいいのよ……」

「でも実際高校一年生って凜子ちゃんくらいが普通じゃないの? アニメとか漫画だと平均してDくらいありそうだけど、現実なら凜子ちゃんみたいなBでしょ。大体Bで貧乳とかAAとかAAAの人に謝るべきだと思うよ」

「……そうね。ごめんなさい、AAとかAAAの人」

『ところで何でこいつ見ただけでバストサイズ当ててるのかしら……』


 AAとかAAAの人を煽るような会話で凜子ちゃんを慰める。

 凜子ちゃんのバストサイズがわかるのは勿論心を読んだから、見ただけでわかるほどソムリエではないです。


「さて、それじゃ泳ぎましょうか。この高校プールの授業ないみたいだしね」

「そうだね。凜子ちゃん泳ぎは得意なの?」

「下手でも上手でもないわ。そっちは?」

「俺も無難かなあ」

「ま、そんなもんよね。大体市民プールは泳ぐんじゃなくて浸かるもんだし」


 凜子ちゃんと一緒に流れるプールに浸かってゆったりと身を任せる。


「はー、水が気持ちいいわね」

『海もいつか行きたいわね』

「やっぱり夏はプールだね」


 俺の買ってきた浮き輪で気持ちよさそうに流れる凜子ちゃん。海も行きたいらしいから、また誘うことにしよう。その後もウォータースライダーで遊んだり、波のプールで遊んだりとプールを満喫。

 女の子とプールに行ったのは初めてだが、実際行ってみてわかったことがある。

 女の子より男の子の方が恥ずかしい。なんせこっちは海パン一枚で、しかも女の子と違って一部が隆起してしまえば隠しきれないのだ。


「? また屈伸運動?」

「え? ああ、ちょっとお腹痛くてね、トイレ行ってくるよ」

「ええ」

『本当にお腹が痛そうね。お昼に食べたかき氷でお腹を壊したのかしら』


 純粋に俺を心配してくれる凜子ちゃんには申し訳ない話だが、俺はさっきその辺を歩いてたグラマラスなお姉さんを見て前屈みになってしまい情けなくも鎮まるまでトイレに隠れたという訳だ。浮気ではない、男だもん、仕方がないよ。サトリ能力を持つだけに頑張って悟りを開いて荒ぶる獣を鎮めて凜子ちゃんの元へ戻ると、


「佐藤さん一人でプール来たの? さっびしー」

「……一人じゃないわ。彼氏と来てるの」

「え? 佐藤さんに彼氏? おもしろーい」


 凜子ちゃんが同年代の女子2名に絡まれていた。

 瞬時に3人の心を読み取る。どうやら2人は凜子ちゃんの中学時代の同級生で、凜子ちゃんの性格が気に食わないからと軽いいじめを行っていたようだ。凜子ちゃんの心は強い憎しみと恐怖に支配されていた。口では中学時代はいじめにも耐えれたと強がっていても、やはり色々とトラウマなのだろう。


「お待たせ、凜子ちゃん。友達?」

「……え?」

「……遅いわよ。さ、もっかいウォータースライダーに行きましょ」


 彼氏がいることを証明するため凜子ちゃんの元へと駆け寄る。

 本当に彼氏がいるとは思っていなかったらしく唖然とする女子二名。君達の中での凜子ちゃんは中学時代の、性悪女で止まっているのかもしれないけれど、今の凜子ちゃんは結構柔らかくなってるんだよ。今の凜子ちゃんなら俺でなくても、そのうち誰かと付き合っただろう。実際一度告白されているし。

 凜子ちゃんは俺の手を掴むと、逃げるようにウォータースライダーへ向かっていく。


『今の私は一人じゃない、どうしようもなかった昔の自分はおさらば。だから私をいじめたあいつらの事なんて綺麗さっぱり水に流して忘れよう』


 そうさ、凜子ちゃんはこれからいくらでもやり直せる。できることなら、俺と一緒にやり直して欲しいと将来に願いを込めながら、凜子ちゃんとプールを満喫するのだった。



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