映画を見ようよ凜子ちゃん!
『ふふふ、彼が私を愛してくれる。バステトも私を友達だと思ってくれる。私も二人とも大好きよ』
友達と彼氏が出来て授業中も幸せそうな凜子ちゃん。
正直凜子ちゃんの中での俺の凜子ちゃんへのゾッコン度がとんでもないことになっている気がするが、前の時みたいに凜子ちゃんが異常な程俺を神格化しているよりかはずっとマシだろうし、心に余裕があるからそのうち落ち着いてくれるはずだ。
『うんうん、無事に二人が付き合ってくれて何よりです』
恋のキューピッドである猫神さんも満足そうだ。人の恋愛ばかり気にしてないで、自分も恋愛したら? ござる男とかどう? でも彼、猫神さんが好きなんじゃなくて小さい女の子が百合百合してるのが好きなだけっぽいからなぁ……
ともあれもうすぐ夏休み。猫神さんの事は置いておいて、いかにして凜子ちゃんと夏を楽しむかを考えよう。映画に海に……凜子ちゃんは人が多いところは好きじゃないから、そこらへんも考慮しないといけない。
とりあえず適当にクラスメイトの心を読んで、夏の予定の参考にしよう。
『夏と言えばやっぱり野球!』
佃君はやっぱり野球か。野球は人多いしなあ、心の声無しでもかなりうるさいってのに。
でも、凜子ちゃん運動神経とかはいいから、バッティングセンターとかならいいかもしれない。
『今年の夏は女と遊ぶのとは別に、一日何回シコれるかに挑戦してみるか……』
遠藤君の心を読んで後悔する。どうしてこんな奴に凜子ちゃんを謝らせたのだろうか。
『うーむ、あの二人を見ていると創作意欲が湧いてきたでござる。夏は間に合わないとして、猫神×佐藤、いや、佐藤×猫神で冬に参加するでござるかな……?』
『うーん、彼女がコミケでコスプレしたいって言ってるけど、彼氏としては他の男にコスプレ姿を見せるのは止めさせた方がいいのかなぁ……?』
オタク組はコミケか。凜子ちゃんもそれなりにアニメとかゲームとかは嗜んでるようだけど、オタクって程でもないみたいだし、これもないかな。俺もオタクってレベルじゃないし。
「ねえ、夏休みさ、映画見に行かない?」
「え。勿論いいけど。何見るの?」
夏休みの予定に悩んでいると、次の休憩時間に凜子ちゃんの方からそんな提案をしだす。
映画なんて、心が読める設定の凜子ちゃんからすれば妄想でネタバレされて大変だと思うのだが。
「クイーン・ルーって映画。知らない?」
「ああ、あの盲導犬のお姫様が貿易したりする小説だっけ? 原作知らないけど、泣けるらしいね」
「そうそう。見に行きましょうよ」
「うん、わかった。でも夏休みが始まったら人が多くなるし、いっそのこと今から行こうよ。もう上映はスタートしてるよね?」
「……そうね。確かに、私あんまり人が多いの好きじゃないし。流石信也ね、私の事をわかってるなんて」
うんうん、と満足げに唸る凜子ちゃん。こうして付き合って初めてのデートは映画館に決まった。
「それじゃあまた明日ね、バステト」
「はい、デート楽しんできてください」
猫神さんに見送られ、放課後二人並んで学校からは少し遠い映画館へ。
「私達、お似合いのカップルに見えるかしらね」
「うん、すごく見えると思うよ」
「そうね、あそこの女子高生も……女子高生も……」
『私を……ブサイクだって笑ってるわ。そうね、確かに彼は素敵な人間だけど、彼は私を好きでいてくれたけど、周りからすれば私はただの性悪女でしかないのよね』
その最中女子高生二人組とすれ違い、凜子ちゃんがいきなり被害妄想を発動させる。
凜子ちゃん普通に可愛いのに。まあ確かに俺も好きな人補正をかけすぎているかもしれないけど、スタイルが特別悪いわけじゃないし、顔も整ってる方だし、目つきの悪さは人によるし。少なくともクラスの女子の中じゃトップ10くらいには入ってるよ。
念のために女子高生の心を覗くが、俺達の事なんてまったくもって意識してなかった。凜子ちゃんが思っている程、周りの人間は凜子ちゃんに興味ないんだよって言うのは、逆に酷な話かな。
『まあいいわ。彼が私を好きでいてくれるんだから、女子高生にブサイクだって言われたくらい気にしない。大体私の方が可愛いわよ』
彼氏が出来たことで被害妄想からのポジティブシンキングを身に着けた凜子ちゃん。良い方向には向かっているような気がするが、結局周りを相対的に貶すようになってしまっているので、やっぱり心の声自体をどうにかしなければいけないのだろう。
しばらくして映画館についた俺達。
「奢らなくていいわよ。これくらい自分で出すわ』
『彼ったら奢る気まんまんだけど、私は出来た彼女だから高校生の彼氏にそんなことさせないわ』
ごめん、端からチケット代を奢るつもりなんて無かったよと、出来た彼女アピールをしながらチケット代を支払う凜子ちゃんを眺める。夏休み前の平日の夕方は、思った通りそこまで人がいない。これなら凜子ちゃんの悪癖が映画視聴の途中で炸裂することもないだろう。
ジュースとポップコーンを買ってシアターへ。
「信也は原作読んでないんだっけ?」
「うん、凜子ちゃんは知ってるの」
「ええ、でもやっぱりこういう動物系は、映像で見てなんぼでしょ。あ、始まったわ。原作を知らない分、空っぽの状態で映画を楽しむ事ね」
映画が始まり、目を輝かせながらスクリーンを見始める凜子ちゃん。
うんうん、凜子ちゃんときちんとした恋人になれてよかったよ、今凜子ちゃんすごく幸せなんだろうなと心を読んだ結果、
『終盤でルーが撃たれるシーンとか、どう再現するのかしら。できれば見たくないわね、映画って原作とは別の展開になることもあるらしいし、出来れば鬱展開無しでお願いしたいわ』
凜子ちゃんにネタバレをされてしまい、映画の楽しみが半減してしまう。いかんなあ、凜子ちゃんに出会ってから、心を読む頻度がかなり増えてるよ。そのうち本当に凜子ちゃんみたいな性格に俺がなって、凜子ちゃんに嫌われちゃったらどうしようと、スクリーン上の犬に釘付けになっている凜子ちゃんを見て悩むのだった。




