改めてよろしく凜子ちゃん!
『はぁ……結果のわかってる恋ほど辛いものはないわ……』
俺への好意を意識してくれたはいいが、持ち前の被害妄想っぷりを発揮して消極的になっており、仮に俺が告白しても何かと理由をでっちあげて冗談だと受け止めてしまいそうな凜子ちゃん。これはこれで可愛らしくていいけれど、夏休みまでにはしっかりと結ばれたいところだ。
「凜子ちゃんのお弁当美味しそうですね。自分で作ったんですか?」
「ええ、最近ハマってね」
『気のせいかしら、彼が私の方をチラチラ見ているような気がするわ。ひょっとして……』
昼食時、凜子ちゃんの机でお昼ご飯を食べる二人を微笑ましく見ていると、凜子ちゃんが俺の視線に気づいたようで少し頬を赤らめる。そうそう、ひょっとしなくても俺は凜子ちゃんの事が、
『そうか、バステトの事が好きなんだわ。そうよね、バステト、可愛いものね。ああ、彼が脳内でバステトと楽しそうにデートしているわ。折角友達ができたのに恋のライバルなんて、運命は何て残酷なの!? いや、ライバルというかもう負けてるのよね……』
どうしてそんな発想になるんだよ!? あーあ、もう凜子ちゃんの中で俺が猫神さんを好きな設定になっちゃった。凜子ちゃんの事だから良いことがあればさっぱりそんな設定も忘れちゃうのだろうけど。というか凜子ちゃん、ちょっと悲劇のヒロインっぽい自分に酔ってるよね。
『大丈夫、バステトは彼の事ミジンコ程も思ってないみたいだし、チャンスはあるわ! そうよ、彼に私を好きになってもらえばいいんだわ! 彼の行動は心を読めばまるわかりなんだから、偶然を装って出会ったり、そのまま一緒に遊んだりすれば、彼だって私に振り向いてくれる!』
と思いきや急に前向きになった凜子ちゃん。恋する乙女は何をするかわからない。凜子ちゃんのやろうとしていたことはまさに以前俺がやっていた行為なのだが、凜子ちゃんは俺と違って本当に心を読むことができない。なので、
「今日はゲームセンターでも行って遊ぶか……」
「……!」
『早速チャンスが来たようね。格闘ゲームの腕を見せてあげるわ!』
こんな風に凜子ちゃんをうまく誘導してやる必要がある。何かデジャヴュな展開だ。
放課後になり学校を出てゲームセンターへ向かうと、少し遅れて凜子ちゃんがついてくる。
別に普通にお喋りする仲なんだから、一緒に歩くくらいの勇気は持って欲しいなと立ち止まって振り返り、
「あれ、佐藤さん。佐藤さんこっちの帰り道だっけ?」
「え? あ、いや」
「どこか寄るの? 俺はゲームセンターなんだけど」
「私、も、ゲームセンターで遊ぼうと思って」
「そうなんだ。それじゃあ一緒に行こうよ」
「え、ええ」
『完璧な尾行だったはずなのにあっさりばれるなんて……まあいいわ。彼も偶然会ったことで私を少し意識してるみたいだし。大体私は彼のストーカーじゃないんだから、堂々と一緒に歩けばいいのよ、うん』
凜子ちゃんと並んでゲームセンターへ歩く。ストーカーは決まってそう言うんだよ、自分はストーカーじゃないって。俺も自分はストーカーじゃないと言い聞かせようとしていた時期があったよ。
「佐藤さんは普段ゲームセンターでどんなゲームやるの?」
「そうね、主にか……」
『待って、格ゲー得意な女子って引かれない? 女の子らしさを存分にアピールしないと、彼はときめいてくれないわ』
「か?」
「解答天使とか」
「ああ、クイズゲームね。俺もたまにやるけど、クイズ苦手なんだよね。一緒にやろうよ」
「ええ、任せておきなさい」
『くっ……彼、私の事をクイズ苦手だと思ってるわ。屈辱ね、でも大丈夫。ここで知的な面をアピールすれば、彼がギャップ萌えしてくれるはず!』
俺は別に凜子ちゃんに女の子らしさなんて求めてはないし、クイズ苦手だと馬鹿にしてもないんだけどなあ。ともあれ最初にプレイするゲームは決まったようで、ゲームセンターに入った俺達はクイズゲームの筺体へ。
「あれ、斎藤に……佐藤さんじゃん」
「二人もゲームセンターでデート?」
そこには佃君と長瀬さんという先客が。
「いや、たまたま出会ったから一緒に来ただけだよ」
「そ、そうよ! 別に恋人とかじゃないから!」
『き、きたわ、天は私に味方してるわ。デートだと言われて彼がかなり私の事を意識してるわ、恋のキューピッドやっておいて本当によかった!』
二人に恋人だと思われて浮かれる凜子ちゃん。凜子ちゃんのためにも、まんざらでもなさそうな顔をして筺体にコインを入れる。長椅子に二人で座るが、カップル用なのかどうしても体が密着してしまう。
「ご、ごめん」
「べ、別に構わないわよ」
『ふふふ、女の子の身体に触れて動揺してるわ、可愛いところもあるのね。よし、もう少し冒険してみましょう』
更に体を密着させてくる凜子ちゃんであったが、逆に言えば凜子ちゃんが俺に触れているということであり、
『ま、待って、すごい恥ずかしいわこれ。私が持たない、こんな精神状態でまともにクイズなんてできないわ』
「や、やっぱり少し離れましょう」
「うん」
凜子ちゃんの方が恥ずかしさに耐えられず、くっついていた身体を離してしまう。残念。
「この答えはDよ。ほら正解でしょ?」
「うわあ本当だ、佐藤さんすごいね」
『ふふふ、彼が私の事を頭いいって思ってるわ。日頃から真面目に勉強しておいた甲斐があったわね』
凜子ちゃんの心を読んで、凜子ちゃんが正解できそうな問題は俺がわからないフリをして凜子ちゃんに答えさせる。普通のカップルだったら男がいいところ見せようとするものだが、完全に立場が逆転だ。
「クイズゲーム楽しかったね。それじゃあ俺は、格闘ゲームでもやってみるかな?」
「格闘ゲーム? 私も……」
『危ない危ない、格闘ゲームがうまいことは彼には秘密にしなきゃ」
「私も前から興味はあったんだけど、格闘ゲームって何だか敷居が高くて結局やったことないのよね。よかったら、教えてくれない?」
「俺もそこまで上手じゃないけど、いいよ」
クイズゲームを終えた俺達は格闘ゲームのコーナーへ。本当は格闘ゲームがうまいのに、格闘ゲームプレイしたことないですアピール。凜子ちゃんの家に行った時に格ゲーやろうと提案された気がしたが、あれは無かったことにされたようだ。
釈迦に説法、自分より遥かに上手な凜子ちゃんにコマンド等を一通り教えた後は、
「それじゃあ、一度俺と勝負してみようよ」
「ええ、わかったわ」
『大丈夫、今の私はド素人、今の私はド素人……』
自分は素人だと暗示をかけている凜子ちゃんと、三度目の勝負。
果たして勝負の結果は……?
「佐藤さんすごいね、格闘ゲームのセンスあるよ」
「そ、そうかしら……でも、格闘ゲームうまい女の子って、ちょっとアレじゃない?」
『うう、彼に華を持たせていい気分にさせようと思ったのに……』
ゲームセンターを出て、それぞれの家への分かれ道まで二人並んで歩く。
身体がレバー捌きを覚えていたようで、結局本気を出してしまった凜子ちゃんに俺は勝てなかった。
本気を出してしまって落ち込む凜子ちゃんであったが、
「いやいや、格闘ゲームうまい女の子って、カッコいいと思うな。筺体越しだったから見えなかったけど、多分さっきの佐藤さん輝いてたと思う」
「そ、そうかしら」
『格闘ゲームやっててよかった!』
すぐに元気を取り戻す。実際格闘ゲームをプレイしている間の凜子ちゃんの心の声は戦う女って感じでカッコいい。
「それじゃあまた明日ね」
「ええ、また明日」
『今日一日で結構彼は私の事を意識してくれたわ。この調子なら……!』
分かれ道まで来たところで凜子ちゃんと別れる。今日一日で結構凜子ちゃんは俺が凜子ちゃんを意識しているという設定にしてくれた。この調子なら……
「あれ、佐藤さんも買い物?」
「ええ、明日のお弁当の材料を買おうと思ってね」
「俺は親におつかい頼まれたんだけどさ、買い物上手じゃないからどの野菜が質がいいのとかわかんないよ」
「だったら手伝ってあげるわ」
『ふふ、これで家庭的な面をアピールよ!』
その後も放課後に買い物に行って偶然を装った凜子ちゃんと出会ったり、
「うわ、全部佐藤さんと点数一緒だ。物凄い偶然だね」
「ええ。……間違ってるとこも一緒だわ」
「何だか運命感じるよね」
「……!」
『テスト結果が一緒なんて、これは本当に運命! 彼も私を運命の人だと思い始めてるわ」
テストの時には凜子ちゃんの思考を完璧に読んで答えを全て凜子ちゃんと同じにし、
全く一緒になったテスト結果をネタに凜子ちゃんに運命を感じているという設定にしたり。
ただしカンニングの疑惑を教師にかけられました。実際カンニングだしね。
こうした俺の努力の結果、夏休みを前にして、
『やったわ、ついに彼が私の魅力にメロメロになって、私をストーキングするようになったわ。彼の心の声も、私でいっぱい。……ちょっと気持ち悪いわね』
凜子ちゃんの中で俺は凜子ちゃんに惚れてストーキングする男という設定になったのです。
これはこれで色々とまずい気がするけど、とりあえずこれなら告白が通じるだろう。
テスト返却も終わり、残すは終業式だけとなったある日の放課後、いつものようにじゃんけんを操作して凜子ちゃんと一緒にゴミ出しへ。
「ねえ、アンタ、私に何か言う事があるんじゃない?」
「へ?」
『結構意気地なしねえ。しょうがないわね、私の方から言ってあげるわ』
ゴミを出して教室に戻る途中、凜子ちゃんは俺の前に立ちはだかると、
「アンタ、私の事好きでしょ」
勘違いした男子が女子に言って引かれる台詞を俺に放つ。本村君に凜子ちゃんがこんな台詞吐かなくて本当によかったよ。
「……ばれた?」
「まあ、私もアンタの事は少し気になってたし、いいわよ、付き合ってあげても」
そして謎の上から目線ではあるが、俺が正式にしてもいない告白を了承する。
「……ありがとう。改めてよろしくね、佐藤さん」
「下の名前で呼んでもいいわよ。私もアンタの事を、信也って呼ぶわ」
「わかった。それじゃあよろしくね、凜子ちゃん」
『えへへ、友達もできたし、彼氏もできた。数少ない周りにいるいい人に愛されるなんて、私今すごく幸せだわ』
いつかの時と同じく、けれどいつかの時とは全然違う、きちんとした恋人関係になった俺達はお互いを抱きしめる。こうして俺と凜子ちゃんは、夏休みを前にして恋人となったのだ。
もうちいとだけ続くんじゃ




