友達作ろう凜子ちゃん!
「……」
『私はこいつの事をどう思ってるのかしら。この前の雨の日も、自然にトランプとかして遊べたし。他人の心は読めても、自分の心はよくわからないわ』
もうすぐ6月も終わり。7月になって、テストがあって、あっという間に夏休み。
隣の席の凜子ちゃんは、たまに俺の事をチラチラと見てくる。いつのまにか立場が逆転だ。
恋愛に興味を持ち、ケータイ小説を読んで敏感になり、ぶつかった人に一目惚れするも三股をかけていたことを知って消化不良の凜子ちゃんは身近にいる俺を意識しているようだ。
しかし凜子ちゃんの中では俺は八方美人で優しい人間なだけで、別に凜子ちゃんに恋愛感情を持っていない設定。馬鹿だなあ、優しいってだけでここまで凜子ちゃんのために行動するわけないじゃないか。
凜子ちゃん自身優しくされて少し心が揺らいでいるが、根が人間不信なので自分の気持ちすらよくわかっていない……といったところか。凜子ちゃんが俺の事を意識してくれるのは嬉しいが、今は下手に刺激するべきではないだろう、一旦恋愛から離れよう。
『気が付けばもう6月も終わりね。一度友達作りに失敗したら後はそのまま、私の高校生活はずっと灰色なのでしょうね。ま、友達なんていらないけど。強いて言えば、動物が友達よ。……あの女子、友達いない私を脳内で笑っているわ。嫌な女ね』
教室で和気藹々と四方山話に花を咲かせる女子達を睨みつける凜子ちゃん。強がってはいるが、凜子ちゃんだって本当は友達が欲しいのだろうし、俺も凜子ちゃんに友達は必要だと思う。凜子ちゃんを受け入れてくれる友達がいれば、凜子ちゃんの人間不信も軽減されるはず。だからそっち方面でお手伝いをしたい。アテがない訳ではない。実はこのクラスに1人、凜子ちゃんと友達になりたいと思っている女子がいるのだ。
『はー……もう高校生になって3か月経つけど、いまいちクラスに馴染めないなあ……友達は出来たけど、なんだか距離感感じるし。やっぱり私の内向的な性格がいけないんだろうなあ……佐藤さん、いつも独りだし、私と同じ人間なのかな。思い切って話しかけてみようかな。でも怖いしなぁ……』
最初に席替えをした時に出てきた、背が低くて目も悪く内向的な性格の猫神さんだ。
凜子ちゃんと違って真性ぼっちというわけではないが、女子グループに混ざっているだけ、という印象。
同じくぼっちな凜子ちゃんにシンパシーを感じているようだし、良い子っぽいし、是非とも凜子ちゃんと仲良くして頂きたいものだが、ご存じの通り凜子ちゃんは大の女嫌い。だからと言って男好きというわけでもないが。
「……佐藤さん、いい加減友達とか作ったら?」
「……あ?」
というわけで今回も俺が一肌脱ぎましょう。まずはお節介キャラを活用して思いきり凜子ちゃんを挑発。
流石に直球を投げ過ぎたようで、凜子ちゃんもぶちギレ銀剛だ。
「いや、佐藤さんってその、いつもお弁当とか一人で食べてるしさ」
「アンタもじゃない」
「そ、それは……俺はほら、ご飯は静かに楽しみたいタイプで」
「私もなの」
しまった、凜子ちゃんに正論を吐かれてしまった。最初は佃君が長瀬さん目当てにやってきたが、基本的に俺もぼっち飯だった。
「いやでもほら、やっぱさ、話せる友達とか、いた方が学校生活も楽しくなると思わない?」
「お節介ね。アンタも私と似たようなもんじゃないの?」
「えっ」
『八方美人は嫌われるのよ。アンタは気づいてないみたいだけど、私と会話してばかりでほとんど男子と会話してない。何だか熱が冷めたわ、この気持ちはシンパシーだったのかしら。私は孤独を好むだけ、こいつは孤独を恐れるがあまり孤独になる、悲しい違いね』
どうやら俺は凜子ちゃんにぼっち仲間だと思われていたらしい。凜子ちゃんは自分の気持ちをぼっちな俺に対する同情心だと思い始める。凜子ちゃんの俺への気持ちはそんなものではないと思うのだが……
「なあ佃、俺達友達だよな?」
「え? ああ、そうだな」
「なあ遠藤、俺達友達だよな?」
「何だ? いきなり。今は女は紹介できねーぞ」
凜子ちゃんにぼっち認定されてしまい、急に怖くなって周りの人間に俺達友達だよな? と聞く俺。
「見苦しいわね」
『見苦しいわね。そいつら面倒くさくて適当に答えてるだけよ、アンタはぼっちなの。一緒にぼっちライフを楽しみましょう? すぐに快感になるわ。さあ、声を高らかに宣言しなさい。友達なんていらないって』
そんな俺を一蹴して、友達なんていらないと強がる凜子ちゃん。俺はいつもより強く念を込めて凜子ちゃんの心を覗く。凜子ちゃんの考えていることよりもっと深い、深層心理というやつだ。
『寂しい……でも、友達なんて私には無理。相手の心が読めるなんて、私も相手も傷つくだけ。だから中学時代だって、相手を傷つける前に、自分が傷つく前に、私は友達の輪から離れたし、これからだって作るつもりはない。隣の男も、いつか私のせいで傷つくか、私を傷つける。私は傷つくのが慣れているからいいけど……この男からも、そろそろ私は離れるべきなのでしょうね。ぼっち同士慣れあっても、良い事はない。例え嫌われてでも、きっとその方がお互いのため』
なんて優しいんだ、凜子ちゃんは。けど、折角俺の事を意識してくれたのに、俺から離れようとしているのはいただけない。何とかして凜子ちゃんに、友達を作らせないといけない。
「とにかく、教室に味方を作るって意味でも、友達は作った方がいいと思うな」
「……そう。ところでアンタは、私の友達?」
「へ?」
「何でもないわ。で、言うからには、私に友達紹介してくれるんでしょ?」
『友達じゃないって思ってるからこそ、お節介焼くんですものね』
言われてみれば、俺が凜子ちゃんの友達になればいい話なのかもしれない。周りからみればそのくらい俺と凜子ちゃんは仲がいいと見られているだろうし。けど、実際問題男女の友情って成り立たないと思うし、俺はやっぱり友達じゃあ満足できない。現状俺と凜子ちゃんの関係って、何なんだろうなあ。男の俺にはよくわからないや。
「猫神さんなんて、どうかな?」
ともあれ凜子ちゃんに猫神さんを小声で薦めてみる。
名字に猫が入っているし、性格も内向的ではあるが優しいし、凜子ちゃんにはぴったりな人間だとは思うのだが、
「……あの女、ストーカーよ」
勝手に妄想で設定をつけたがる凜子ちゃんは、よりにもよって猫神さんをストーカー扱いするのだった。




