ポジティブすぎだよ凜子ちゃん!
今日の凜子ちゃんは文学少女。集中できれば授業を聞かなくてもいいというスタンスのようで、一番後ろの端っこという場所を活かして本を読んでいる。
『佐藤の奴本読んでるな……まあ面倒な生徒らしいから放っておくか』
しかし案外内職というのはばれるものだ。教師に放置される凜子ちゃん可哀想。
ところで何の本を読んでいるのだろうかといつものように心を覗くと、
『はぁ……私もこんな運命的な出会いできないかしら……』
疲れ切ったOLのような心の声が聞こえてくる。凜子ちゃんまだ若いのに。チラッと本のタイトルを見ると、最近話題のケータイ小説のようだ。運命的な出会いか……そう、まさに心を読む能力を持つ俺と、心を読む能力を持つと思い込んでいる凜子ちゃん。これを運命的な出会いと言わずして何と言う。
しばらくして本を読み終えたらしい凜子ちゃんがパタンと本を閉じて、チラッとこっちを見てくる。
『……違うな』
違わないよ凜子ちゃん! どうしてそこでクールに否定するのさ!? 俺達は運命の赤い糸で結ばれているんだよ! 席だって隣だし、よく出会うでしょ? まあ、ストーキングの賜物だけどさ。
『……もし私に本当に好きな人ができたとしても、その人は私の能力を受け入れてくれるかしら。それとも能力を隠したまま生きていけばいいのかしら?』
告白されてから恋愛を意識するようになったらしい凜子ちゃん。うんうん、凜子ちゃんは偽物だけど、その気持ちわかるよ。俺も同じような理由で今まで恋とかできなかったんだ、凜子ちゃんみたいなドストライクゾーンの子に出会わなかったのもあるけどね。でも、仮に凜子ちゃんの被害妄想が治って俺と結ばれるような展開になったとして、俺は凜子ちゃんに自分の能力を告白することだろう。気持ち悪がられるかもしれない、結ばれないかもしれない。けど、隠したまま結ばれても、多分後ろめたさから俺が滅入っちゃうよ。結局は俺の能力を受け入れてくれるような人でないと駄目なんだよ。そういう意味では、偽物とは言え心を読む能力を持っている凜子ちゃんなら、俺を受け入れてくれるんじゃないかって。凜子ちゃんに執着する理由の1つでもある。
ともあれ次の授業は音楽室で音楽鑑賞。凜子ちゃんはカバンからまた別の小説を取り出す。読む気まんまんだ。ま、俺も音楽の授業は寝てばかりだしお互い様か、気が合うね俺達と無理矢理運命をこじつけながら凜子ちゃんの後に続いて教室を出る。
そのまま音楽室に向かって歩いていたのだが、
「わっ」
「きゃっ」
曲がり角で凜子ちゃんが男の人とぶつかってしまった。全く凜子ちゃんが怪我でもしたらどうするつもりなんだよ。
「ごめん、大丈夫?」
「は、はい」
「ごめんね、急いでるから」
凜子ちゃんに申し訳なさそうな顔をして、男はそのまま去って行く。
大丈夫かなあ、強がってるだけで実はかなり痛いのかもしれないと凜子ちゃんの心を覗く。
『素敵……』
……は?
『さっきの人、なんて名前なのかしら。運命の人に違いないわ』
音楽の授業、持ってきた小説には目もくれず乙女思考になっている凜子ちゃんを見ながら頭を抱える。
ついさっき読んだ小説に影響されてぶつかった人に惚れるなんて、いくら凜子ちゃんがアホでも有り得ないと思っていたのに。こんなことなら俺がわざとぶつかっておけばよかったかもしれない。
『顔もカッコよかったし、心も澄んでいた。あの人なら私を受け入れてくれるに違いないわ』
確かに顔は男の俺から見てもカッコよかったかもしれないが、凜子ちゃんいつもは被害妄想の癖にこういう時はアホみたいにポジティブシンキングしちゃうんだね。都合が良すぎるよ。
でもまあ、俺も凜子ちゃんを見た時は運命の人だと思ったし、凜子ちゃんにとっては彼が運命の人だと思えるような人間だったのかもしれない。とりあえずは、さっきの男について情報収集をするとしよう。
『何て名前なのかしら、どこのクラスなのかしら、気になるわ……』
気になっている割には自分から動かない凜子ちゃんの代わりに俺が調べてきました。
隣のクラスの本村君です。サッカー部所属の、爽やか系男子で同じクラスの女子の人気は高いそうです。
心を読んだ結果、悪い人ではありませんでしたが、問題が1つ。彼女持ちです。
遠藤君と違って真摯っぽい人ですから凜子ちゃんが仮に告白した所で二股をかけるような真似はしないでしょう、そういう意味では凛子ちゃんをとられる心配が無くて安心。
しかし問題はむしろ、凜子ちゃんの方にある。
『ぶつかった時にあの人、私のことをいいなって思ってくれたし、これはもう告白するべきなのかしら』
勝手に向こうも自分の事を好きだと思い始めている凜子ちゃん。一応本村君の凜子ちゃんへの印象を読もうとしたが、ものの見事に印象に残っていなかった。向こうが自分の事を好きだと勘違いして暴走した人間には、悲惨な末路が待っている。最悪凜子ちゃんがストーカーになったりして本村君に迷惑をかけでもしたら、敵が増えることは間違いないだろう。
「……佐藤さん、もしかして好きな人でもできた?」
「……へ? え、いや、その」
「何だかそんな感じがしたからさ。違ったならごめん」
悩んだ末、お昼休憩に凜子ちゃんにぼそっと恋愛の話題を持ちかける。
俺を運命の人とは思ってくれないようだが、現状凜子ちゃんが学校で一番信頼しているのは俺だろう。
「実は……そう、なの。その、協力、してくれない?」
「いいよ」
「ありがとう」
凜子ちゃんは顔を赤らめながら、恋のキューピッドとしての実績も持つ俺に自身の恋愛相談をすることに。ごめんね凜子ちゃん、全力で凜子ちゃんの恋愛を邪魔するよ。見込みがないのに勘違いしているからとか関係ない、例え見込みがあったとしても俺は全力で邪魔するよ、だって凜子ちゃんの事好きだもん。




