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被害妄想だよ凜子ちゃん!  作者: 中高下零郎
被害妄想だよ凜子ちゃん!
21/46

にゃんにゃんにゃんにゃん凜子にゃん!

『何で私は猫に逃げられるのかしら……猫は遊んで欲しいにゃあって言ってるのに、照れ屋さんなのかな』


 今日の朝、登校中に猫を見つけて触ろうとするも逃げられてしまったらしく、普段は授業を真面目に聞いている凜子ちゃんも不満げにノートに猫? の落書きを書いている。猫? と表現しているのは、どう見ても猫に見えないからだ。猫の心がわからない凜子ちゃんに猫は描けないらしい。

 まあ、実際その辺を歩いている野良猫とか、飼い主くらいにしかなつかないソトネコに触ろうとしたって難しい話。多分凜子ちゃんがっつきすぎなんだよ、猫も凜子ちゃんから漂うどことなく危ないオーラを感じ取って逃げちゃうんだよ。


『家で猫は飼えないし、どうにかしてその辺の猫を餌付けして地域猫として飼えないかな……? でも、猫を外で飼うのってよくないよね、交通量多いし、余所に迷惑かけたら駄目だし』


 その辺はきちんと考えているようだ、動物好きなだけはある。

 でも自分は動物に好かれていると思っている凜子ちゃんが、実際そうでもないと理解してしまったら精神衛生上よくない。動物が絡んでいる時の凜子ちゃんはとても可愛いし、何とかして凜子ちゃんに動物と触れ合わせたい。



「なんかさー、近くに猫カフェできたらしいよ」



「!!!!!」

『猫カフェ! 猫カフェっていうとあの!』


 しかし俺が頑張る必要は今回は無かったようだ。休憩時間、クラスメイトの女子の会話を聞いて凜子ちゃんの態度が豹変。多分凜子ちゃんは動物の中でも猫が一番好きなのだろう、ペットショップに行った時も俺にハムスターの解説をしながらチラチラと猫を見ていたし。猫カフェなら凜子ちゃんだって猫と触れ合えるはずだ、よかったね凜子ちゃん。



「まじで、猫ハンバーグとか猫オムレツとか? でも猫ってあんまり美味しそうじゃないよね」



「……」

『おええ……吐きそう……』



 そんな感じで頭が猫でいっぱいの凜子ちゃんであったが、続く会話で一気にテンションダウン。調理される猫とかグロテスクな想像をしては負の連鎖がとまらない。空気読めやアホ女子!




「……♪」

『ああ、今まで猫に触ったりできなかったけど、やっと触れるんだわ! もふもふしてるのかな、気持ちいいのかな』


 ともあれ放課後、ルンルン気分で学校を出て行く凜子ちゃん。様子を見に行こうと、気が付けばストーカー行為を平然とするようになった俺も凜子ちゃんの後を追う。今まで猫に触ったことがなかったのか、意外だ。凜子ちゃんなら猫も自分と遊びたいんだと勝手に妄想して無理矢理猫を捕まえたりしているものかと思っていた。

 20分ほど歩くとお目当てのお店に到着。猫料理店でも、ネコミミメイドカフェでもなく、きちんとした猫カフェだ。店内に入る凜子ちゃんを見届けたら帰るかと思っていたが、


「……」

『……無理、恥ずかしくて入れない。道化じゃないの、学校でも嫌われてる女子が安寧を求めてこんなところに来てはしゃぐとか。誰かに見られでもしたらきっと笑われるわ』


 ここにきて凜子ちゃんが恥ずかしくて入れないと弱音を吐く。普段凜子ちゃんがしている痛々しい被害妄想に比べたら、ぼっちな女の子が猫カフェ入るのなんて恥ずかしいの恥の字にも届かないと思うのだが、女の子には色々プライドがあるらしい。結局この日は猫カフェに入ることなく帰ってしまった。



「……」

『猫カフェ行きたい、でも恥ずかしい、うう……』


 翌日、授業にも身が入らず、かと言って他人の心の声が聞こえてくるわけでもない程に、頭の中は猫カフェのことでいっぱいのようだ。念のためこの日も学校を出る凜子ちゃんを追跡したが、やはり猫カフェの前まで行くも結局中に入らずに帰ってしまった。ずっとこんな感じが続くのだろうか、頭が猫で支配されているうちは凜子ちゃんの妄想も軽めにはなっているから案外このままが一番本人のためなのかもしれないが、流石に凜子ちゃんが可愛そうだ、ここは俺がなんとかするとしよう。

 更に翌日、今回は凜子ちゃんよりも先に学校を出て、猫カフェの前で立ち止まる。

 アンニュイな表情にしてしばらく固まっていると今日も前で悩むつもりだったのか凜子ちゃんがやってくる。


「……げっ」

『ヤバイ、クラスメイトに見られた。大丈夫、私の帰路に猫カフェがあっただけ、私はこのまま素通りして帰るつもりって言えば何の問題もない』


 俺を見つけるなり動揺する凜子ちゃん。余程猫カフェに行きたいという想いを悟られたくないらしい。


「やあ佐藤さん。猫カフェが出来たっていうから一度くらい行ってみようかなって思ったんだけど、流石に男一人で入るのはちょっとね」

「そ、そう。まあ、確かに男一人で入るのはキモいわね」

「だよね。残念だけど諦めるかな、せめて誰かと一緒なら気兼ねなく入れるんだけどね」

「ま、待って」


 凜子ちゃんに挨拶してその場を去ろうとすると凜子ちゃんが俺を引きとめる。


『一緒に猫カフェ入ったらまるで恋人みたいだけど、恥ずかしさは確かに軽減されそうね……ペットショップで会ってるから、動物好きって事はもうバレてるんだし』

「その、だったら一緒に入ってもいいわよ。まあ、アンタには少し恩もあるし。勘違いしないでよ、私も少し興味があるだけなんだから」


 無事に俺の挑発に乗って恋人のフリをしてくれることに。わかってますよ、本当は少しじゃなくてとても興味があるんだよね。



「いらっしゃいませ、お二人様ですね」


 店内に入って俺が受付をしている隙に早速凜子ちゃんは店内で放し飼いにされている猫に駆け寄ると、


「ほおおおおおお!」

『やった! 猫を抱けた!』


 ひょいと猫を抱き上げて勝利の雄叫び? をあげる。しばらく恍惚の表情になっていた凜子ちゃんであったが、


「……まあ、こんな感じに浮かれてたら気持ち悪いからやめた方がいいわよ」

「そう? 可愛かったけど」

「……!?」

『か、可愛い? 私が……? いや、違った、猫か。うん、彼もなかなかの猫好きのようね、聞こえてくる心の声も猫まみれだわ。こういう声ばかり聞こえてたら楽なのにね』


 俺と一緒に来ていることを思い出し、顔を赤らめて恥ずかしそうに言い訳をする。ついつい思った事を口にしてしまったが、凜子ちゃんは勝手に俺が猫を可愛いと思ったことにしてしまった。凜子ちゃん自分に自信がないからなあ。


「お客さんは、大人の女性のグループが多いわね……くしゅん」

『ああ、猫もふもふして可愛い、皆遊んでにゃあって言ってるわ』

「OLさんとかかな、癒しを求めて来ているんだろうね」


 俺と会話しながらも頭の中は猫まっしぐら。ここの猫は流石に教育されているからか、人間に警戒心も持たず、遊んでくれたりご飯をくれたりする存在と認識しているようだ。心を読んでも野良猫のような恐怖心などは感じない。


「野良猫はすぐ逃げちゃうし、家で猫飼ってる知り合いとかもいないしで、猫って触ったことなかったんだよね。触りごこちいいね」

「ふうん、そうなの……くしゅん」

『里親になって欲しいにゃあって言ってるわ……早く一人暮らしして猫を飼いたいわね。よし、それまではここで猫と遊ぶことにしよう、こんなに楽しい場所なんですもの、一人でも入れるわ』


 幸せそうな凜子ちゃん。一人でも入れるようになったようだし、今後定期的に足を運ぶことだろう。猫と触れ合うことで凜子ちゃんの病気はかなり改善されるはずだ。

 興奮しているのか、顔も赤く腫れ、感動しているのか少し目元を潤ませている凜子ちゃん。……ん?


「あの、佐藤さん」

「何? ……くしゅん、ずず」

「その、大変言いにくいんだけど」

「何よ」




「猫アレルギーなんじゃ……」


 この店に入ってからというものの、くしゃみもしてるし、顔や目も少し腫れている。


「え……あ……確かに、言われてみればそうね……ぐずっ」

『そんな、嘘でしょ。猫アレルギーなんて』


 辛い現実を受け入れることができないのか、アレルギーではなく悲しくて目元を滲ませる凜子ちゃん。


「とにかくもう出よう。あまりここにいると、もっと症状が悪化するよ」

「……そうね」


 なんて神様は意地悪なんだ、猫が凜子ちゃんを嫌うどころか、凜子ちゃんの身体が猫を嫌っているなんて。人の心を読んで現実を知り心を病むのと同じ、凜子ちゃんは猫と触れ合うことで、現実を知ってしまった。凜子ちゃんは一生猫に逃げられながらも、希望を持ち続けるのが一番だったんだ。



「それじゃ、またね。念のため病院とか行った方がいいと思う」

「……ええ、さようなら」

『折角猫と遊べると思ったのに、神様は残酷だわ』


 かなりショックを受けている凜子ちゃんと別れる。俺のせいだ。俺のせいで、凜子ちゃんが知らなくてもいい事実に気づいてしまった。動物の中でもとりわけ凜子ちゃんの心の拠り所だった猫に、凜子ちゃんはもう依存することができない。



 翌日。昨日のことを引きずっているのか、終始暗い凜子ちゃん。

 俺もなんて声をかければいいのかわからず、心を覗くといつにも増して被害妄想が酷い。

 放課後、多分猫カフェには行かないのだろうけれど心配になった俺は凜子ちゃんの後をつける。


「……あ」


 凜子ちゃんの前に一匹の三毛猫。首輪もつけていないし野良猫だろう。

 凜子ちゃんは猫に近づくが、当然ながら猫は逃げ出してしまう。凜子ちゃん更に落ち込むのだろうと自分のしてしまったことを激しく後悔するが、


『そうか、そういうことだったのね。今まで猫が私から逃げてたのは、私が猫アレルギーの症状を出さないようにするためだったのね』


 凜子ちゃんが野良猫が逃げる理由をでっちあげる。少しおかしな展開になった気がする。


『ありがとう皆。私は猫には触れないけど、それでも猫は好きよ』


 一人で納得して、少し晴れやかになる凜子ちゃん。これでいい……のか?





「……♪」

『はー、今朝のコンビニのゴミ箱を漁ろうとする白猫、写真撮っといてよかったわ』


 翌日、携帯電話で撮ったと思われる猫の画像を見てうっとりする凜子ちゃん。

 猫の楽しみ方は触るだけじゃないし、猫だけが動物だけじゃない。結果オーライ?


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