隣の席だよ凜子ちゃん!
凜子ちゃんを矯正させると意気込んだものの、どうすればいいのだろうか。
直接凜子ちゃんに『君は本当は心の声なんて聞こえてないよ、本当に心の読める俺が証拠だよ』とでも言えば問題は解決するかもしれないけれど、そんなことをしたら俺が気味悪がられるのは目に見えているよなあ。
俺だって他人に自分には心の声が読める能力があるよ、なんて言いたくはないし。
まあ何をするにも、凜子ちゃんと仲良くなる必要があるだろう。
「それじゃあ、早速だけど席替えのくじ引きをするぞ」
自己紹介の次のLHR、担任の教師がそう言ってくじを用意する。
席替えか。勿論凜子ちゃんの隣の席になりたい。
気合を入れてくじを引き、俺に続いて凜子ちゃんもくじを引く。
俺の番号は……げ、一番前だ。凜子ちゃんの番号は何かなと心を覗くと、
『やった、一番左下だわ。周囲に人が少ないと聞こえてくる声も少ないし、内職はできるしラッキーね』
相変わらず目つきは悪いが少し安心しているようで口元が緩んでいる。ギャップ萌え……している場合じゃない、隣の席どころか滅茶苦茶離れているじゃないか。
しかし、これくらいで諦める程俺は素直な人間じゃない。
いつもより気合を入れて、1人ずつ、クラスメイト全員の引いたくじを読み取ろうとする。
3番……違う……17番……こいつでもない……誰だ、彼女の隣の席は……
『お、一番後ろだ。ラッキー』
さっきまで俺と野球談議をしていた佃君じゃないか。初期状態でも彼女の隣だというのに席替えでも彼女の隣になろうだなんて、お父さん許しません。
「なあなあ佃君、席替わってくんね?」
「佃でいいよ佃で。お前の席どこだよ」
「あそこなんだけど」
「一番前じゃねーか、俺だって一番前は嫌だよ」
佃君と交渉をしようとするが失敗に終わる。そりゃそうだ、目が悪いとかじゃなけりゃ、好き好んで一番前に座ろうとする奴なんかいないよな……
いやまだだ、まだ諦めない。彼の心を丸裸にしても、凜子ちゃんの隣は勝ち取ってみせる。
「ながっちどこの席ー?」
「23だから……あそこの席だね」
「……!」
丁度その時近くの女子二名の会話が聞こえてきたかと思うと、佃君がビクンと震える。
一体どうしたのだろうかと彼の心を読むと、
『長瀬さん23番か……隣の席になりてえなあ……幼馴染で昔はよく遊んでくれたのに、彼女を女として意識する頃には既に人気者になって遠い存在へ……今年こそは、今年こそは!』
おやおや、佃君はどうやら長瀬さんという子が好きなようだ。悪い事を知ってしまったな。
しかしこの情報は有効に活用しよう。残念ながら俺の席は長瀬さんの隣ではないが、長瀬さんの隣の席であり、なおかつ俺と場所を交換してくれそうな人がいるかもしれないと、今度は長瀬さんの隣の席の人の心を読む。
『はー、後の席になっちゃった……私目は悪いし背は小さいから前の席じゃないと授業受けるの大変なのに……でも高校生にもなって、席替え終わった後に目が悪いから一番前と替えてくださいって言うの、何だかずうずうしいよね……うう……どうしよう、高校って留年とかあるんだよね、授業が受けれずに留年したらどうしよう……』
いたいた、うってつけの子が。
「ねえねえ、よかったら俺と席交換しない? 俺一番前なんだけど」
「へ? か、構いませんけど、なんで」
「いや、君目が悪そうだし小っちゃいからさ、後ろの席だと苦労するんじゃないかって思ってさ」
「あ、ありがとうございます、その通りなんですよ、ほとんど初対面だし頼みづらくて、斎藤……さんでしたっけ、気が利くんですね」
「いえいえ」
無事に長瀬さんの隣の席を勝ち取った俺は再び佃君に交渉を持ちかける。
「なあ佃、席替わろうぜ」
「何度も言わせんなよ、一番前の席なんて」
「俺の席あそこなんだけど」
「おう、いいぜ」
長瀬さんの隣の席を示すくじを見せた瞬間、すぐに俺のくじを奪い取って自分のくじを渡してくる佃君。
「あ、佃君隣なんだ。最近全然話さなかったよね、これからよろしくね」
「お、おう、よろしくな」
こうして佃君は長瀬さんの隣の席になれて、
「よろしくね、佐藤さん」
「……よろしく」
『な、何でよりにもよって隣がこの男なの、いきなり根暗女は隅っこがお似合いだなとか思ってるし最悪……』
俺は凜子ちゃんの隣の席になることができた。すごい彼女の中で俺が陰湿な人間になってるけど、隣の席というアドバンテージを活かして挽回できるはずだ。
それにしても疲れた。心の声聞くのって結構疲れるんだよね、自然に聞こえてくる彼女には同情するよ……いや、妄想だからなあ、うーん。




