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被害妄想だよ凜子ちゃん!  作者: 中高下零郎
被害妄想だよ凜子ちゃん!
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雪解けしたね凜子ちゃん!

 凜子ちゃんをどうにかして説得して遠藤君に謝らせよう大作戦、始動。

 現在凜子ちゃんは俺に対してそこそこ好意的なので、俺の諌言にも耳を傾けてくれるかもしれない。

 だから凜子ちゃんをどうにかして遠藤君に謝らせる。大丈夫、凜子ちゃん根はいい人だって信じているから、自分のした事の悪さくらい認識してくれるはずだ。そして遠藤君と仲直り。こちらも遠藤君はきちんと謝れば許してくれる人だって信じている、モテる男は性格もなんだかんだいっていいはずだから。




「佐藤さん、遠藤君がやたらと佐藤さんのこと嫌ってるみたいだけど、何かあったの?」


 お昼休憩、遠藤君が学食へ行ったのでしばらく帰ってこないであろう事を確認し、コンビニのおにぎりを食べている隣の凜子ちゃんにとりあえず接触開始。


「……さあてね」

「何があったのかは知らないけどさ、遠藤君怒らせると多分まずいよ。早めに仲直りした方がいいんじゃない?」

「私を心配してくれるの? ご忠告ありがとう。でも、余計なお世話よ」


 遠藤君の話題すら出すなという意思が心を読まなくともひしひしと伝わってくる。ありがとうと言ってくれたことからそこまで機嫌は悪くないようだが、本人からすれば中学時代もいじめ等に耐えてきたから高校時代も耐えることができると思っているのだろう。でも、俺は凜子ちゃんがいじめにあう姿を見たくないんだ。だから余計なお世話と言われようと、お節介を焼いてやる。


「遠藤君の機嫌が悪いと、こっちにもしわ寄せが来るんだよね」

「……それは……悪かったわね」

『そう、私のせいで迷惑がかかっていると私を非難しているわけね。でも、悪いのは私じゃないわ。あの歩くわいせつ物陳列罪が悪いの、彼が怖いからって女の子の私に責任求めないで欲しいわね』


 口では反省しているが、心では反省していない。思わず凜子ちゃんに幻滅してしまいそうになる。


「せめて何があったのだけ教えてよ、何とか説得するから」

「……何が原因かなんて、私が聞きたいくらいよ」

『高校に入ってからは喋ったことすらないのに、どうして恨みを買ってるのかしら』


 凜子ちゃん、心当たりが多すぎてどれが原因かわかっていないんだろうなあ。

 遠藤君以外にも同じような対応をしてきたんだろうし。いちいち覚えていないのだろう。

 罪な女とは、凜子ちゃんみたいな事を言うのかもしれない。




「遠藤君に聞いてきたよ。中学の時に、佐藤さんに酷い事を言われて根に持ってるってさ」


 翌日。勿論既に真相は知っていたので聞いたわけではないが、凜子ちゃんに何が原因かを伝えるために仕切りなおしてそう伝える。


「……ああ、あれね」

『思い出した。転んだ時にあの男が手を差し伸べたと思ったら、あの男の顔を見た瞬間あいつの下品すぎる妄想がなだれ込んできて、思わず手を振り払っちゃったんだわ。しょうがないじゃない、誰だってあんな妄想がなだれ込んできたら恐怖と怒りを感じるわよ』


 凜子ちゃんもようやく原因に気づいたようだが、やはり反省の色を見せない。


「私の味方をしろってわけじゃないけど、あの男と仲良くするのはやめた方がいいわよ。あの男は、頭の中が常にピンク色なの。ま、あなたがあの男と仲良くして、女の子を紹介してもらおうとか考えてるなら、好きにすればいいけどね。……冗談よ」

『友達は選んだ方がいいわよ、いつか痛い目見るわ』


 俺は凜子ちゃんを更生させるつもりだが、凜子ちゃんも俺に遠藤君との縁をすっぱり切らせて、更生させようとしているようだ。別に遠藤君は佃君と違って友達という程親しくは無いのだが。



 仕方がない、あまりこの手は使いたくなかったが凜子ちゃんのためだ。


「頭の中が常にピンク色ねえ……正直俺も遠藤君と同じくらいエロい人間だよ、今も正直、エロいこと考えてる」

「……へ?」


 俺がそう自己申告すると凜子ちゃんが固まる。多分この時点で凜子ちゃんの俺に対する印象は動物好きのそこそこいい人から遠藤君と同じく性犯罪者となり、凜子ちゃんの頭には俺のエロい妄想という名の凜子ちゃんの妄想がなだれ込んでくるのだろう。


「俺いつも思ってたんだよね、女の子って男子の中にはエロくない人間も結構いるんじゃないかって勘違いしているんじゃないかって、そういう願望があるのかな。自分の好きな人間はエロくないとか、あの人はいい人そうだからエロくないとか……関係ないよ、大半の男は同じくらいエロいよ」

「で、でもあなたは彼みたいに風紀乱れてないじゃない」


 俺が遠藤君と同じくらいエロい、ということを信じることができないようで動揺する凜子ちゃん。妄想爆発モードに入ると周りの男全員がエロエロという設定になってしまうが、通常状態なら凜子ちゃんは見た目で判断してこいつはエロそう、こいつはエロくなさそうとか決めているようだし、俺も凜子ちゃんにそこまでエロくない人間と思われているようだ。好意的に受け止められているが、その幻想を壊さないといけない。



「そりゃ俺はモテないからね、乱れることもできないんだよ。遠藤君はモテるから乱れる。佃君だって、彼女ができて今までできなかったエロいことをしようと意気込んでいる。正直大差ないよ」

「……」


 女の子に自ら自分はエロいですなんて言えば、嫌われるのはわかっている。

 でも、嫌われてでも俺は凜子ちゃんを守りたい。


「でも、男だからしょうがない、としか言いようがないよ。男は皆エロい生き物なんだって割り切るしかないと思う。そういう風に作られているんだよ。だからもし佐藤さんが、遠藤君がエロい人間だから嫌いだって思うんだったら、俺も同じくらい嫌って欲しい。確かに遠藤君、男の前ではペラペラと下品な会話とかするけどさ、女の子の前でそういう会話をしたの見たことないし、問題を起こしたって話も聞かないよ。なんだかんだ言って遠藤君はその辺弁えていると思うな。佐藤さんにこんな話をする俺より、ずっとマシだよ」


 遠藤君は今まで複数の女性と交際していたらしいから、つまりは複数の女性と別れたということなのだろう。それに関する女性問題は起こしていそうだが嘘も方便だし、実際彼が下品な会話をするのは男子トイレとか、女子のいない場所。見た目とか噂とかで不快な思いはさせているようだが、彼なりに女性に不快な思いをさせないようには努力しているようだ。とにかく俺を貶すことで、遠藤君を持ち上げようとする。


「……そう。言いたいことはわかったわ。悪いけど、ちょっと考え事があるからもう喋らないで」

「わかった」


 もう喋らないで、と言われてしまった。多分凜子ちゃんは俺の事をかなり軽蔑しただろう。また好感度の稼ぎ直しだ。


『男は皆エロい……か。確かにあいつ、他の男の心の声と比べたって大差ない気がする。見た目があんなだし、よくない噂も聞いていたからどうしてもバイアスかけちゃってるのかしら、心の声が聞こえるのに見た目や噂で判断するなんて、私も馬鹿ね。中学の時も、女の子にセクハラするようなことは確かに無かった。クラスに女子がいるのに熱中して美少女ゲームの話をするオタク集団よりは紳士的よね』


 けど、遠藤君への嫌悪感は薄れたようだ。唐突にオタク集団が嫌われているけど。



 丁度その時、遠藤君が学食から帰ってきてこちらを睨み、自分の机に座る。

 何かを決意したような目つきの凜子ちゃんは椅子から立ち上がると、彼の元へと向かった。



「……ねえ」

「ああ? これはこれは佐藤さん、セクハラ男に何か用ですか?」


 明らかに馬鹿にしたような態度で凜子ちゃんに凄む遠藤君。

 凜子ちゃんはビクっと震えるが深呼吸をすると、


「……その、中学の時、助けてくれようとしたのに酷い事言って、ごめんなさい」


 遠藤君にきちんと過去の罪を謝罪する。よくやった、凜子ちゃん。


「はん、今更謝ってすむと思ってんのかよ、つうかあれだろ、どうせお前、隣の席の男に謝った方がいいよって言われて、嫌々謝ってんだろ? なあ?」


 ところが遠藤君は更に語気を荒げて、許してくれそうにない。まずいぞ、俺が思っていた以上に怨恨は深かったのかのだろうかと焦り、気がたった遠藤君が暴力でも振るわないかと臨戦態勢に入ると、


「……ごめんなさい」


 凄まれて怖かったのか、本当に悪かったと思っているからなのか、凜子ちゃんは薄らと目に涙を浮かべる。凜子ちゃんをきつく睨んでいた遠藤君であったがやがて困ったような顔になり、


「……わかったわかった、俺の負けだよ。そんな泣くほど謝られたら許さないと俺が悪者になっちまう。つうか俺も佐藤さんのこと誤解してたみたいだ、悪かったよ。こないだも足踏んじまってわりいな、怪我とかしてないか?」

『ま、俺も大人げなかったな。女ってのは弱い生き物だからな、寛大な心を持たないとな。佐藤さんは性格の歪みきった人間かと思っていたけど、泣くほど謝るくらい誠意があるみたいだし』


 凜子ちゃん同様に謎の上から目線にはなったが、凜子ちゃんを許すのだった。

 こうして凜子ちゃんと遠藤君は和解。クラスの人間も事情は知らずともきちんと謝る凜子ちゃんを見て、少しは好意的になってくれたのではないだろうか。



 そして更に嬉しいニュースがある。


『男はエロくてどうしようもない生き物だから、寛大な心を持たないとね。よくわからないけど男子のエロい妄想も聞こえなくなったし』


 どうやら凜子ちゃん、男子のエロい心の声を聞かなくなったらしい。

 今回の一件で性に対する嫌悪感が薄れて寛容的になり、必要以上に気にしなくなったからなのではないかと推測する。凜子ちゃんが更に偉そうな人間になっている気はするが、一時的かもしれないが凜子ちゃんの能力が緩和されたというのは大きな前進だろう。


「その、感謝しておくわ。アンタのおかげで少し考えを改めることができたから。……でも、私が言うのも変な話かもしれないけど、お節介が毎回うまくいくとは限らないわよ」

『きっといつか痛い目を見る。できることなら、恩のある人間がそんな目にあうのは見たくないわね』

「肝に銘じておくよ」


 そこまで凜子ちゃんに嫌われてもいないようだし、一件落着。

 でも凜子ちゃんが男子のエロい心の声を聞かなくなったということは、凜子ちゃんがエロい妄想をほとんどしなくなったということになる。凜子ちゃんの心を覗く身としては、ちょっと残念?










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