サッカーうまいね凜子ちゃん!
今日の体育は隣のクラスと男女合同でサッカー。ちなみにこの学校の体育は、二人組を作って柔軟体操をするというイベントはない。全員で集まって準備体操をするだけだ。
だから凜子ちゃんが毎回ぼっちになることもなければ、俺が凜子ちゃんと組むこともできない。
「じゃあ2、3人で組んで、サッカーボールのパス回し。しばらくしたら男子ミニゲーム、女子ミニゲームだ」
しかし体育の内容によっては、こんな感じで余っちゃう。体育教師も酷いよね、2、3人って。余った人間が2人組のところに入れて欲しいとお願いするのが、どれだけ辛いことか。
「ほっ、ほっ、はっ」
プライドの高い凜子ちゃんはそれができず、結局一人でリフティングをしている。しかも結構うまい。
できる事なら凜子ちゃんとパス回ししたいけど、流石に体育の授業で男女でやるのはね。佃君と長瀬さんすら、別々に別れてそれぞれ友人グループとやってるんだし。大体凜子ちゃんの事だから大きなお世話とか思っちゃうに違いない。
それでも何とか凜子ちゃんとパス回しがしたいなあと、クラスの男子と適当にパス回しをしながら考える。そうだ、凜子ちゃんの方にミスショットして、凜子ちゃんにボールを取ってもらうというのはどうだろう。何となくだけど、昔そんな事をした気がするんだ。
「おいお前どこ蹴ってんだよ」
「悪い悪い」
というわけであえて凜子ちゃんの方にボールを蹴る。コロコロとそれは凜子ちゃんの近くまで転がり、
「よっ、ほっ、はっ」
結構リフティングが好きなのか心なしか楽しそうにしている凜子ちゃんにガン無視される。悲しいけど、凜子ちゃんがサッカー楽しんでいる? んだし別にいいかと、ボールを拾いに行く。
「ほっ……って、きゃあっ!?」
どうやら無視していたのではなく本当に気づいていなかったようで、凜子ちゃん俺が転がしたボールでこけてしまった。
「いたた……何でこんなところにボールが」
「ごめん佐藤さん、ミスショットして佐藤さんの方にボール転がっちゃってさ。怪我とかしてない?」
「何ともないです」
俺にボールを投げてよこすと、再びリフティングに興じる凜子ちゃん。ごめんね、転ばせちゃって。
よく見ると、ハーフパンツから覗かせる凜子ちゃんの膝が少し擦りむけていた。このくらいならすぐに治るだろうけど、本当に申し訳ない。
「何ですか、じろじろと」
「いや、リフティングうまいなあって」
「ペアの人待たせてるんじゃないですか?」
『人の脚見て興奮してる……きもっ』
凜子ちゃんに脚フェチにされちゃった。でも凜子ちゃん脚も綺麗だよなあ。
そうこうしているうちにパス回しの時間が終わり、男子のミニゲームが始まる。
凜子ちゃんに良い所を見せようと、いつも以上に気合を入れて試合に臨む。
残念ながらサッカーは目まぐるしく動くので、俺の心を読む能力は本当に役に立たない。役に立っても精々PKの時くらいだ。けど、能力なんて無くたって、好きな女のためならハットトリックだって決めて見せる!
「ナイスアシスト!」
流石にハットトリックとは行かなかったが、フォワードにパスを回して見事なアシスト。試合にも勝ったし、なかなかの貢献度と言っていいのではないだろうか。俺の雄姿を見て少しは見直してくれたかなと凜子ちゃんの方を見ると、
「……♪」
『猫……猫……』
学校の外にいる野良猫に夢中なようで、試合を全然見ていなかった。嫉妬だけにシット!
男子のミニゲームも終わり次は女子のミニゲーム。凜子ちゃんの見せ場というわけだ。リフティングはかなりうまかったし、サッカーは得意なんだろうか。
ディフェンダーとして出場した凜子ちゃん。早速相手チームが攻めて来たが、凜子ちゃんは華麗な足さばきでボールを奪う。カッコいいぞ凜子ちゃん。
「パス! パス!」
そしてそのまま敵陣に突っ込む凜子ちゃん。味方がパスを催促するがお構いなしの、攻撃的ディフェンスだ。運動神経はいい方なのか、足も速いし女子の中ではサッカーもうまいみたいだけど、3人目を抜こうとしたところで残念ながらボールを奪われてしまった。舌打ちしながら自分の持ち場へ戻る凜子ちゃん。
その後もリベロとして敵が来た時にはボールを奪い、そのまま突っ込みボールを奪われる、ゲームだったらチームプレイ×がついていそうな凜子ちゃん。
彼女の被害妄想がそうさせたんだろうけど、協調性のかけらもないなあ凜子ちゃんは。結局一度も味方にパスを回すことなく試合が終わってしまった。
『さっきこけさえしなければ、ゴール決めれたのに……』
ゴールを決めることができず、悔しそうな凜子ちゃん。さっき何ともないって言ってたのに……サッカーは一人でやる競技じゃないんだよ凜子ちゃん。
「なんか佐藤さん一人で盛り上がってたよね」
「それな、サッカー好きなんじゃね? でも全然パス回してくれんかったし、ちょっとムカつくね」
ほらみろ、女子の反感買っちゃってるよ。被害妄想が無くなっても、凜子ちゃんがクラスに溶け込める日は遠そうだ。でも地道に頑張るしかないんだよ、俺も頑張るから、凜子ちゃんも頑張ろうね。




