更生可能だよ凜子ちゃん!
恋のキューピッド作戦も無事に成功。現在は日常パートと言ったところか。
「つっくん、お昼ご飯食べよ、空き教室辺りで」
「おうよ。……悪いな斎藤、そういうわけだから。……実を言うとな、お前と一緒に飯食ってたのも、長瀬さんの近くで食べたかったからなんだ、許せ」
「知ってたよ。ま、おめでとさん」
無事に佃君と長瀬さんは付き合いだし、二人で食べるようになってしまったので再び俺はぼっち飯になってしまった。
『ははは、哀れね。友達のためにキューピッドになったら、友達が離れていくなんて。何て哀れなピエロなの。所詮友情なんてね、脆いものよ』
そんな俺をもしゃもしゃとコンビニ弁当を食べながら心の中で嘲笑う凜子ちゃん。凜子ちゃんに友情語られるのは何だか癪だな。でも確かに、男子はともかく女子って結構恋人が出来たからって友人関係蔑ろにして……っていう気まずい展開あるよね。
「佐藤さん、コンビニ弁当だったり菓子パンだったり……身体に悪いよ?」
「……大きなお世話です」
『友達無くして寂しくなって隣の席の女に話しかけるなんて、可哀想な男』
あんな馬鹿男でもランチメイトだったので、少し寂しくなった俺は不健康な食生活の凜子ちゃんを気遣うが、冷たくあしらわれてしまう。ツンツンだなあ今日の凜子ちゃんは。情緒不安定だから仕方がないのかもしれないけど、ちょっと前までの、自分の事をさとりんとか言っていたり、俺のことをちょっと優しくすればコロっと堕ちると思って凜子ちゃんに接している人間だと思っていたり、ちょっと乙女チックな凜子ちゃんが懐かしく感じるよ。でも多分、こっちの凜子ちゃんの方が素に近いんだろうね。
2ヶ月後くらいには気軽に凜子ちゃんが俺のお弁当を食べてくれないかなあと思いながら、飯を食い終わった俺がトイレに向かう。
「よう、斎藤」
「えーと、誰だっけ」
「遠藤だよ遠藤」
「ごめんごめん、あんま話したことないからさ」
用を足していると、隣で用を足していたクラスメイトの遠藤君が話しかけてくる。金髪でピアスつけてるいかにもなチャラ男だが、背も高いしイケメンだし、結構モテるのだろう。
「お前も災難だな、佐藤さんの隣の席とか」
「何だよいきなり」
「あいつ嫌な奴だろ? 俺あいつと同じ中学だったけどさ、かなり嫌われてたよ」
「……ちょっと中学時代の話聞かせてくれないか?」
「ああ? いいけどよ、いうて俺もそこまで詳しくは話せないぜ。つうかあれか? お前まさか佐藤さん狙ってんの? やめとけやめとけ、確かに現実でツインテール似合う子って珍しいかもしんねえけどよ、例え可愛くたって性格悪い女と付き合ってもロクなことになんねーって。俺も昔な、学年一の美人と付き合ったことがあるんだけどよ……」
「そんな話はどうでもいいよ、中学時代の話を聞かせてくれ」
遠藤君に凜子ちゃんの中学時代の話を聞く。中学二年で凜子ちゃんが偽テレパシー能力を発症したと心の中で語っていた通り、中学二年辺りから急に凜子ちゃんの態度とか性格とかが悪くなって嫌われて、いじめとかも受けていたようだ。
「ま、俺が話せるのはこの辺だな。もっと詳しく知りたいなら、それこそ佐藤さんを虐めてた女子とかに聞けよ。でもマジでな、やめとけって。あいつはどうしようもなく性格の悪い、更生不可能な女なんだって。今はまだ学校始まってそんな経ってないから少し浮いてるくらいですんでるけどよ、しばらくすりゃ化けの皮が剥がれるっつうの。俺も昔な、学年一の美人だけど性格悪い女と付き合った時にな……」
「……サンキュ」
イラつきながらも遠藤君に礼をしてトイレを後にする。遠藤君の口調や唐突に自分語りをするところにもイライラしたが、遠藤君が凜子ちゃんの事を悪く言う度にその金髪を毟ってやろうかと思ってしまった。けれど、遠藤君に悪気はない。純粋に彼は凜子ちゃんの事を性格悪い女だと思って嫌っているというのは心を覗けばわかるし、凜子ちゃんを嫌う気持ちも理解できる。
多分俺だって、凜子ちゃんの可哀想な被害妄想設定を知らなければ、最初こそ好みのタイプの女の子だと思ったかもしれないが、すぐに性格悪い女はノーサンキューだぜと思ったのではないだろうか。
凜子ちゃんは更生不可能じゃないと信じながら教室に戻る。食事を終えてつまらなそうに窓の外を凜子ちゃん。遠藤君の言うとおり、少し経てば凜子ちゃんは中学時代と同じような目にあうのだろうか。俺はそれを阻止することはできるのだろうか。そうなってしまったら、俺は凜子ちゃんを守ることができるのだろうか。
「いたいた。斎藤、佐藤さん、サンキューな」
「どうしたよ佃」
「……何?」
凜子ちゃんを眺めていると、気が付けば佃君と長瀬さんがこちらまでやってきてペコリと一礼する。
「いや、あの告白とかさ、佐藤さんが俺を屋上に連れてきたりさ、全部仕組んだことなんだろ? 俺達のためにさ、俺達お前等のおかげで付き合えたようなもんだし、本当にありがとうな」
「ありがとう、斎藤君、佐藤さん」
「……ふん」
人から感謝されることに慣れていないのか驚いた表情で二人を見る凜子ちゃんだったが、すぐにそっぽを向いて再び窓の外を眺めてしまう。
『心にもない事を。そうやって私達善人カップルですってアピールして、結局は私を疎ましく思うようになるんだわ。後1ヶ月もすれば、『佐藤さんって性格悪いよな』『そうだよねーウザいよね』とか言うようになるに決まってる』
筋金入りの捻くれ者な凜子ちゃん。でも確かに、今回の件で凜子ちゃんはこの二人の好感度を少し上げることができたけど、基本凜子ちゃん性格悪くて嫌われるタイプの人間だというのは自明の理だし、あながち凜子ちゃんの言っていることも間違いじゃないかもしれない。中学時代のトラウマを発症してしまったのか、やがて机に突っ伏してガタガタと震える凜子ちゃん。そんな凜子ちゃんに声をかけることができない自分の無力さを呪いながら、凜子ちゃんを救う決意をより一層固める。俺は遠藤君とは違って簡単には諦めないぞ。




