二人はお似合いだよ凜子ちゃん!
「つうかお前部活入らないのか? 野球はいいぞ野球は」
「大きなお世話だ。お前こそ……」
昼食の時間、俺の机にやってきてお弁当を広げ、部活の勧誘をする佃君。
外面だけなら熱血バカという感じなのだが、
「そういえば長瀬さんって好きな人とかいるの?」
「え~、秘密だよ」
「……!!!!」
『長瀬さんの好きな人、一体誰なんだろう、気になる、ああ長瀬さん、俺は野球と長瀬さんを選べと言われたらどっちを選べばいいんだ……!』
近くの女子グループから聞こえてくるそんな会話に、佃君は瞳孔をガン開きして長瀬さんの方を見ながらそんな乙女思考になる。
佃君は幼馴染の長瀬さんが好きであり、長瀬さんはそれに気づいていて告白を待っている。しかしヘタレの佃君はそんなことが出来ずに今までズルズルとやってきたというわけだ。幼馴染というアドバンテージを持っているにも関わらず今まで甘んじることしかできなかったことも、彼の自信を無くさせているのだろう。
見ていてイライラするし、凜子ちゃんに良い所を見せたいし、この俺が恋のキューピッドになってやろうというわけだ。
早速チャンスが訪れる。
放課後の教室掃除の担当が、俺と凜子ちゃんと佃君と長瀬さんというベストメンバーに。
普段なら凜子ちゃんと一緒に負けてゴミ出しに行くけれど、今回は二人に譲ろう。
能力を駆使して佃君と長瀬さんがじゃんけんに負けるように操作する。
「ゴ、ゴミなら俺が全部持つから! 長瀬は帰ってていいぜ!」
「いいよいいよ、佃君一人だと何か不安だし」
「そ、そうか? へへ……」
褒められてないのにデレデレする佃君。
心の中を覗けば、
『長瀬さんと共同作業! っしゃあ!』
『つっくんカッコつけちゃって可愛いなあ』
既にアツアツのカップルだ。俺が手助けしなくても、そのうち普通にくっつくのかもしれない。
さて、今日のアシストはこれくらいにして、俺も帰るとするか。
「ねえ」
満足げに二人を見送った俺が教室にカバンを取りに戻ろうとすると、何と凜子ちゃんの方から声をかけてくる。
「どうかした? りん……佐藤さん」
「アンタさ、あの二人くっつけようとしてるでしょ」
危うく凜子ちゃん、と言いそうになった俺に、酷くつまらなそうにそう言う凜子ちゃん。
バレたか。凜子ちゃん幻聴はともかく、洞察力はいいのかもしれない。
「そうだよ。あの二人お似合いだと思うしね」
「馬鹿じゃないの? 本人の気持ちも知らずにさ、友達想いな自分に酔うのは結構だけど、結局友達悲しませても知らないわよ」
凜子ちゃんの中では長瀬さんは援交少女で、佃君のことは何とも思っていないという酷過ぎる設定なので、佃君とくっつけようとする俺の行為は無意味だ、と言いたいのだろう。
「絶対成功するとは言い切れないけど、失敗するとも言い切れないじゃないか」
「言い切れるわよ」
「どうして? 本人が言ってたの?」
「それは……」
口をつぐむ凜子ちゃん。
『私には聞こえるのよ、あの女の汚い汚い心が……こいつにそんな事言っても、頭のおかしい奴扱いされるだけだから言わないけど』
心の中は被害妄想と、他人にそれを打ち明けることのできない苦しみに支配されていた。
「とにかく、あの二人は絶対にくっつかないわよ」
「くっつくさ」
「くっつかない! アンタは何もわかってない!」
今までで一番凜子ちゃんと長く会話をする事が出来たが、まさかこんな険悪な会話になろうとは。
凜子ちゃんと押し問答をしていると、ゴミ出しから二人が帰ってきたようだ。
「そういえば高校の野球って、大きな大会があるんだよね?」
「あ、ああ、甲子園のことか。まあ、俺は軟式野球部だから残念ながら甲子園には出れないけどな……野球に興味でもあるのか?」
「うーん、まあ高校生になったし、新しい趣味もありかなー、なんて」
『ここでデートでも誘ってくれればなあ』
『長瀬さんが野球に興味を! 野球観戦に誘いたい! ああでもそんなことしたら絶対俺の気持ちが伝わっちゃって最悪引かれるかもしれない、俺はどうすればいいんだ……』
もどかしくもほのぼのする二人に癒されていると、凜子ちゃんは二人が仲良さそうにしているのを認めることができないのかうつむいて、
『ああ、あの女はあの男を金づる程度にしか思ってないのね……哀れな男。金づる程度にしか思っていないと知っても尚、この男は二人をくっつけようとするのかしらね……』
何とも思ってないという設定から金づるとして見ているという設定にランクアップ? させる。どれだけ凜子ちゃんは長瀬さんが嫌いなのだろうか。長瀬さん、パッと見た限りじゃいい人にしか見えないから、凜子ちゃんみたいな人からすればいい人そうな人程心の中では……という思考なのだろうか。
まあ見てなって、しばらくしたらあの二人が幸せそうに乳繰り合ってて、凜子ちゃんの考えも変わるからさ。




