帰る場所
おじいちゃんから、たくさんのことを教えて貰った。
ルーベルクの森以外に存在する意思。
初めの役割をずっと果たしてる意思。果たせなくなった意思。
そして、崩れた世界。
だけど、それも歩みを続けてきた結果。
「悲しくなかったのかな?」
瘴気が生まれたのは、人と関わったから。
世界から取り込んだ力を、人の願いに使ったため。
きっと、人が好きだったはず。
「辛かったんだろうな」
好きなのに、苦しめてしまう。
「力の循環を行うだけで良かった意思が、人に触れ、感情を持ち、そして願いを叶えるようになった。その結果、森や湖、たくさんの命が失われた」
おじいちゃんは、僕をまっすぐ見つめてきた。
「お前は、被害を被った存在。理からも外れ、ただ瘴気を消す者として生まれた。それ故、人でもなく、森の意思でもなく、どこにも帰ることができない」
僕は黙って、おじいちゃんの声を聴く。
「お前は、何を思い、何を望む」
真剣な問いに、僕は思いを馳せる。
ラルヴァと一緒に本を読んだ時、落ち着いてホンワリとした。
ルークが褒めてくれると、すごく嬉しかった。
マークお兄ちゃんとミーシャお姉ちゃんは、一緒に居るだけで楽しかった。
アクセルとサラは、いたずらばっかりだったけど、みんな明るくなった。
お城では、忙しいのに陛下がいつもお菓子を持ってきてくれて、優しさが嬉しかった。
マーサおばちゃんの暖かい思い、ウィルの力強い思い。
悲しいこともあった。
捕まった時は、怖くて、悲しくて、痛くて……、心が真っ暗になったみたいだった。
戦いでは、たくさんの憎しみで押し潰れそうだった。
終わったあとには……、いっぱい遊んでくれたカームが眠ってしまった。
変わらない……。
いろいろな世界を見せて貰っても、僕が何者でもなくても。
僕の思いは。
「僕はみんなと一緒に居たい」
悲しいこともたくさんあるけど。
それでも。
「僕はみんなと一緒に居たい」
僕の思いをそのまま伝える。
「世界を恨まないか」
恨む?
うーん。何というか、世界を基準に話されてもなー。
「僕は生まれて、みんなと会えて嬉しいから恨まないよ。それに、おじいちゃんの子供も、自分で選んだんでしょ。砂だけになっちゃったのは悲しいとは思うけど。でも、嬉しくて楽しいことも、いっぱいあったと思うよ」
「……」
「おじいちゃん?」
どうしよう。怒ったのかな?
やっぱり、もっと世界のことを考えなきゃいけなかったかな。
「少し、感情が学べた」
「感情?」
「アルバートと重なり、世界の意思を見、感情を理解はしていた」
怒ってないみたいだけど、よく分からない。
なんで感情のお話?
「アルバートが、世界を肯定してくれて嬉しいと感じた」
「うーん? おじいちゃんが嬉しいなら良かった」
「もし、また彼らの元に戻れたとしても、お前は人の理からは外れるだろう。それに、望まれなくなれば、同じように消えることになるだろう」
それでもいいのか。
おじいちゃんは、それでも戻りたいか聴いてきた。
何度聞かれても同じ。僕の思いは変わらない。
「そうか。ならば、手伝おう」
「手伝う?」
不思議に思って聞き返すと、おじいちゃんは僕に触れてきた。
「なに?」
「存在の一部を渡す。それで、体を再構成できるだろう」
体!?
じゃあ、みんなの所に戻れるの!? って聴こうとしたら、おじいちゃんの腕が消えて僕に入ってきた。
「ちょっ!! おじいちゃんのお手々が!!」
「問題ない。ほんの一部だ」
いや、一部って……。
痛くないのかな?
しばらくすると、僕の体の輪郭が出来てきた。
やっぱり、小さい……。大きくはならなかったみたいだ。
「自らの力で成長し、生きている世界に、干渉することはできない。よって、これは前と同様に仮初めの体。ただし、森の意思から独立している」
うーん?
前は森の一部だったけど、今回は違うと。
でも前と同じってことは、やっぱり森から力を借りないと消えちゃうのか。
「でも、それだと体が保てなくて、消えちゃうんでしょ」
「そうだ。だが、彼らは新たな道を見つけたようだ」
新たな道?
「森の意思でなく、人の意思でお前を存在させる道だ」
「人の意思」
「もう行きなさい。彼らが何度も呼んでいる」
もう、おじいちゃんに会えないんだろうか?
「大丈夫。お前の存在は私に近い。いつか、ここに帰るだろう」
「うん。おじいちゃん、またね!!」
お別れすると、おじいちゃんは消えちゃった。
それで、えっと、どこに行けばいいんだろう?
見渡しても、真っ白な場所だけど。
……迷子? ルークに怒られるよー。
そのとき、波が僕に届く。
それは、意思と願いを以て、僕を導く。
僕は逆らわず、心地良い意思の波に身を任す。
ふわふわと流れてると、動かなくなった。
「うーん? やっぱり何も無い」
キョロキョロしてると、突然、体が重くなって。
落ちた。
「えっ!? っーーーー!!」
声も出せず、目をつぶってると、衝撃が来た。
……痛くない。
恐る恐る目を開けると、懐かしい顔があった。
「いきなり振ってくるからビックリしたよ」
思い出にある通りの優しい顔と声だ。
「お帰り、アルバート」
「ただいま!!」
アルバートと不思議な森、本話にて完結となります。
最後までお付き合いいいただき、ありがとうございました。
また他の物語でお目にかかれることを願っております。
荻野よし




