別れの時
皆が黙り込んじゃって、ちょっとどうしていいか分からずにいると、マークお兄ちゃんが沈黙を破った。
「アルが2歳児の赤ちゃんなのは分かったけど、帰るとか、居なくなるってのは何でなんだ?」
赤ちゃん……。
2歳だけど。間違いないけど。
「マークお兄ちゃん、僕は赤ちゃんじゃないよ!!」
「ほら、そんなのはどうでもいいから、どこに帰るんだ?」
どうでも良くないよ!!
膨れてると、ほらほらって急かしてくる。
「……ルーベルクの森」
「森? アルの家かなんかがあるのか?」
「無いよ?」
マークお兄ちゃんが不思議そうに首を傾げる。
僕も傾げる。
「アルバートの存在は森の意思に還元される。だから、肉体は残らない……」
ラルヴァの答えに、マークお兄ちゃんは声を失った。
「……なんで。なんで消えなくちゃいけないの!?」
僕は、ミーシャお姉ちゃんの涙を拭う。
泣かないで欲しい。悲しまないで欲しい。でも、それを取り除くことが僕にはできない。
「ごめんなさい。ミーシャお姉ちゃん」
ミーシャお姉ちゃんは、軽く首を振った。
「違うの。あなたを責めてるんじゃ無いの。ただ、悲しくて」
「僕はね、森の一部なの。本当は、体もなくて、お話もできないの。でも、森ががんばって、僕の体をここにおいてくれてるの。だけど、森はみんなの願いにも力を使ってるから、すごく大変なの」
「つまり、許容量を超える力が必要となって、アル坊を維持することができなくなったのか?」
「きょ、りょう? よくわかんない。なんかね、だんだんと僕に必要とする力が増えてきたんだって」
「ああ、アル坊も一応は、成長してたんだな」
成長してるよ!! 失礼な!!
でも、それで必要な力が増えたのかー。
「ねえ、ルーク。お願いがあるんだけど」
「ん? なんだ。」
「森にね、瘴気がまた生まれちゃったの。だから、また消えるようにお願いして欲しいの」
こないだの戦いで、たくさんの悲しみや憎しみが生まれて、森に瘴気が生まれた。
今なら、僕の体を作ってる力で無くすことができる。ラルヴァを守ることができる。
「ああ。一緒に森に行けばいいのか?」
「ここで大丈夫だよ。僕が消えるときに、願いを持って森に帰るから」
「……、分かった。」
「ありがとー。あとは、陛下、陛下ー」
「ん? 菓子か?」
くっ!!
食べたいけど、すごく食べたいけど。
「……、ちっ違うよ。」
「ものすごい葛藤があったな。で、俺にもお願いか?」
「お願いなのかな? 僕が消えるときに、僕を作ってる力の一部が宝玉になるんだって。だから、また陛下が持ってて」
「分かった。大切にする」
「ありがとー」
あとはー……。
他に伝えなきゃいけないこと……。
これで……、全部かな。
「アル……」
マークお兄ちゃんを見ると、すごく辛そうで、悲しそうな顔をしてる。
「マークお兄ちゃん、大丈夫?」
「我慢しないで、泣いてもいいぞ」
「泣かないよ?」
「泣いてるぞ」
手を顔に当てると、濡れてるのを感じた。
「あれっ? どうして……」
涙が止めどなく溢れてる。
泣いてることを意識すると、嗚咽が止まらなくなった。
気づくと、ラルヴァの腕の中に在った。
暖かくて、優しくて、悲しさより嬉しさが大きくなる。
「ラルヴァ、宝玉でお話ししてね。僕も聞こえるかもしれないから」
「ああ、森にも行くから」
「うん」
「いつかきっと、また会えるから。みんなで森に願うから」
「じゃあ、『またね』だね」
「そうだね」
僕はみんなに手を振った。また会えることを願って。
ぬくもりの中、僕はそこから存在を失った。




