森と在るもの
ラルヴァの近くまで来ると、ミーシャお姉ちゃんがやっと僕を降ろしてくれた。
ルーク達は、先に陛下に挨拶するみたいだから、今のうちにラルヴァとお話ししようと思ったんだけど……。
ラルヴァの所に向かおうとしたら、引っ張られて進めなかった。
後ろを向いてみると、ミーシャお姉ちゃんが僕の服の端を掴んでた。無表情で。
「……」
「……」
僕は戸惑って、ミーシャお姉ちゃんを見たけど、無言……。
なんか、逆らえないような感じが。怒ってはないみたいだけど。
ルークとマークお兄ちゃんを見ると、目を逸らされた。
見なかったことにされたよ!?
とりあえず、皆が陛下に挨拶するまで待つことにした。というより、それしか出来なかった。
怖いし。
ミーシャお姉ちゃんが陛下に挨拶するときは、陛下に変な顔されたよ。
そんで、今度は何をやらかしたんだって目だったよ。あの目は間違いない!! 僕は何もやっていないのに!!
挨拶が終わって、ラルヴァが「どうしたんだい」と声を掛けてくれた。
「えっと、……相談が、あるんだけど。」
「相談?」
後ろから、皆がジーッと僕を見てる感じがする。はっ話しづらい。
ちらちらと後ろを伺いながら、恐る恐るラルヴァとお話を続ける。
「えっとね、ルーク達がね、僕が居なくなったら悲しくなっちゃうって」
「……」
ラルヴァは、何も答えてくれない。
一瞬、驚いた後に、何かを耐えるような、そんな感じになった。
どうしよう。ラルヴァはなんか変だし、後ろからも変な雰囲気を感じるし……。
落ち着かなくて、視線を彷徨わせていると、ラルヴァの後ろに居るウィルと目が合った。
助けて!!ウィル!!
目で訴えてみた。
「お前が居なくなったら、悲しいのは当たり前だと思うが? 俺だって、そう思うし」
ウィルが戸惑いながらも答えてくれた。
「そうなの!?」
「そうなのって。俺だけじゃなくて、陛下や兵士だって悲しむさ。マーサさんなんか、きっと泣くと思うぞ」
皆が悲しくなっちゃうの!?
どうすればいいんだろう?
「そうだな、もし、私やルーク達が居なくなったら、どう思う?」
「ダメだよ!! そんなの、ダメ!!」
居なくなったと思うだけで、涙が流れてくる。
ラルヴァが、僕の涙をぬぐいながら、「皆も同じなんだよ」と教えてくれた。
僕が落ち着いて、泣き止むまでラルヴァが優しく抱きしめてくれた。
皆、黙って僕たちを見てる。それは、とても優しい思い。
「帰るんだね」
ラルヴァは僕をそっと放すと、優しく悲しい声で聞いてきた。
僕は、声を出さず頷いた。
「もう、時間はない?」
僕は、また声を出さずに頷いた。
皆が来るまで待って貰った。頑張ってもらった。でも、もう……。
「学園長」
ミーシャお姉ちゃんが泣きそうな声で、ラルヴァを呼んだ。
「そうだね。ちゃんと話しをしないといけないな。アルバート、皆に説明する時間はあるかな?」
「うん」
「陛下にも、お聞きして欲しいのですが、よろしいでしょうか?」
「ああ」
陛下が頷くと、ラルヴァは僕と出会ったときのことを話し始めた。
ラルヴァが僕と出会った時のことを話すのを聴きながら、僕もその時のことを思い出していた。
僕とラルヴァが初めて出会ったのは、ルーベルクの森。
2年前、ラルヴァは森の様子を確認していた。それは、森と在るものとして、いつか自身の役割を果たすためだったみたい。
でも、恐れてもいたんだって。でも、それは人として、当たり前の感情。
その感情の中には、願いもあった。
それは、きっと漠然としたもの。だけど、人が生きようとする根底となるもの。
今まで、何人もの森と在るものが、意識の奥底で願ったもの。
それに、ルーベルクの森は応えた。初めて、自らの意思を持って応えた。
その結果、僕の存在が生まれた。
最初は、ただ、そこに在るだけだった。意識も思いもなく、森と同じ存在だった。
ラルヴァと触れるうち、僕は僕となっていった。
その後は、言葉を教えて貰い、感情を知っていった。
1年くらいで、体も安定して人として動けるようになった。
その後は、森から離れてラルヴァ達と暮らし始めた。きっと、この時、僕はアルバートとして、生まれたんだと思う。
「この子は、私の罪。私が逃げたから……」
「違うでしょ。森と在るものは、みんな願ってたんだよ。それに、ルーベルクの森も願ったの。お友達を守りたいって」
罪ってなにさ!!
初めて、ラルヴァに怒っちゃたよ。
「学園長の、いや森と在るものの願いは、何なんだ?」
僕はルークを見て、森から聴いたことを伝える。
「生きたい。死にたくない」
「それは、当たり前だと思うな。そう思うってことは、森と在るものの役割は、危険を伴うのか?」
僕は、少し言いよどんだ。すると、陛下が代わりに応えてくれた。
「自らの命をもって、瘴気を消すこと。今まで、瘴気を消した森と在るものは、全員死んだ」
「しかし、私たちは、以前に瘴気を消しに行きましたが」
「ラルヴァの話しからすると、無事なのも、瘴気が消せたのも、アルバートが居たからだろう。本来は、宝玉と呼ばれるもの媒介として、瘴気を森と在るものが消すんだ。これは、人が扱える力ではない。だから、力に耐えられずに死んでしまう。そして、宝玉をそこまで扱えるのは、森と在るものだけだ」
みんなが黙り込んでしまう。
でも、今は無理でも、あきらめないで欲しい。それは、ルーベルクの森も同じ思い。




