戦と僕(後編)
王国軍と貴族軍が戦う最中、衝撃が僕を襲った。
頭をグチャグチャにされた感じで気持ち悪い。立っていられなくなって、蹲ると陛下が慌てて声を掛けてきた。
「大丈夫か!?」
「……」
無理。気持ち悪い。
声も出ない。
手をギュッとして、目もしっかり閉じて、耐える。
「ウィル!! アルバートを救護隊へ連れて行け。ラルヴァも付いて……大丈夫か? お前も顔色が悪いぞ。」
「少し、待って、下さい」
ラルヴァの辛そうな声を聞いて、力を込めて目を開ける。
顔をしかめて辛そうな顔。初めて見る……。
そんなことを思ってると、膝を突くと僕を軽く抱きしめてきた。
「アルバートの、お守りを、使わせて、もらうよ」
僕は無言で頷く。
辛くて声は出せないです。
ラルヴァは僕の首からかかっているお守りを、服の中から引っ張り出して両手で握り込んだ。
「……」
すると、周りに優しく暖かい感じが広がって、僕たちを包んだ。
もう、頭も痛くない。気持ち悪くもない。
お守り凄い!!
「大丈夫か?」
「うん!! でも、さっきの気持ち悪いのは何?」
元気になったから陛下にちゃんとお返事。
「気持ち悪い? 特には感じなかったが。戦に当てられたか?」
「いえ、向こうの『森と在るもの』が出てきたようです」
ラルヴァが小さく答える。
いつもの感じじゃ無くて、元気がなさそう。
「それで、なぜお前らが倒れるんだ? まさか、宝玉か?」
「宝玉での魔法はまだ使われていません。倒れかけたのは、宝玉に増幅された彼の思い、意思に飲まれ掛けたためです」
意思? 思い?
あれが?
ああ、彼は……。この戦にまた、悲しみが増える。
「お前達は、もう下がれ」
「まだ、下がれません」
「十分、役立ってくれた」
ラルヴァは動かない。
強固な意志を感じる。陛下とウィルも、いつもと違うラルヴァに戸惑ってるみたい。
うーん。ラルヴァは話さないし、僕が教えていいのかな?
「陛下、陛下ー」
「ん? 救護隊の方へ行って休むか?」
「そうじゃないよ!! 彼はね、心がなくなっちゃたの。たくさん、たくさん辛かったの。だから、壊れちゃったの」
さっきの衝撃は、喜びや悲しみ、いろんな感情がごっちゃになったものみたい。今はお守りで直接は感じないけど、意味を持たない意思が止めどなく、戦場に響いているのが分かる。
こんなことは、普通あり得ない。喜びも悲しみも、すべてが混ざって、意味をなさない感情になってる。
心が壊れるほどのことをされたんだ。同じ人間なのに……。
「彼、壊れた……。まさか!!」
「宝玉を、使わせるためでしょう。彼は、拒んで戦ったのだと思います」
ラルヴァが感情を込めずに、淡々と呟く。
「なんてことを」
陛下、ウィルも、顔をしかめて少しうつむいてる。
だけど、僕たちの悲しみが癒える間もなく、ただただ、それは始まる。
唐突に、彼の暴風のような思いに、明確な悪意が乗せられる。
(灼熱……、討て……)
誰か分からないけど、森に願う意思が聞こえる。
これは、王国軍への敵意。
森が戸惑う気配を感じるけど、願いに力が返された。
「なっ!!」
陛下とウィルが驚きの声を上げながら、空を見てる。
僕も同じ方を見ると、王国軍がたくさん居る上空に、炎が唐突に存在を始めた。
それは、次第に巨大化して熱量を増やしている。戦場の後ろの方にいるのに、顔が熱い。
「アルバート」
ラルヴァが僕の名を呼ぶ。
僕は頷くと、森に願う。ラルヴァ、それに宝玉を通して森と繋がるのが分かる。
(それは悲しい力だよ。みんなを傷つけてしまう。だからお願い……、消して!)
(私たちの子)
森の声が聞こえる。
悲しみの声。
そして聞こえなくなる。
……帰らないと。
空の炎から熱が無くなり、無数の小さな輝きとなって地上に降り注ぐ。




