戦と僕(前編)
分からない……。
なんで……。
昨日まで、すごく楽しかった。ルーク達もお城に来てくれて、一緒に魔法の練習をしたり、ウィルや他の兵士さんに剣の使い方を教えて貰ったりしてた。マーサおばちゃんとも毎日たくさん話して、たくさん笑った。
なのに、なんで。
今は、楽しさも優しさもない。
ラルヴァと手を繋いでるのに、1人きりになったかのよう。
「ラルヴァ……」
そこに居ることを確かめるように、手を強く握り、名を呼ぶ。
ラルヴァは僕を見下ろして、手を握り返してくれる。それだけで、不安が薄れる。
「アルバート、知って欲しい。これも人の一面なんだよ」
「……」
「だけど、優しさもあることを忘れないで。人は、悲しさや憎しみだけではないから」
「うん」
捕まって、痛くて怖い思いをした。でも、それ以上に……。
学園は楽しかった。一緒に勉強したり遊んだりした。
お城も楽しかった。魔法や剣の練習は楽しかった。
怖いのも、楽しいのも忘れない。
郊外まで来ると、兵士さん達は陣形を組み始めた。
僕はラルヴァと一緒に、陛下の近くで皆を見守る。
もう、止まらない。止められない。
目に見える距離に、貴族さん達を中心とする隊が展開している。
ここで進行を止めないと、学園に避難してる皆もどうなるか分からない。
だから、僕は……。
「ラルヴァ、そろそろ戦闘が始まる。できる限りでいい。結界を頼む」
「はい」
ラルヴァは膝を突くと、僕と目線を合わせ、両手で僕の手を繋いだ。
「アルバート、私の意思を森に伝えるのを手伝って欲しい。 少しでも、彼らを守るために」
「うん。僕もみんなが好きだから」
本当は、ダメなんだと分かる。
この場で森と意思をつなげるのは、きっと良くない。でも、僕は皆を守りたい。
これは僕の意思。ラルヴァと在り、皆と出会い、生まれた思い。
ラルヴァの手をしっかりと握る。
「ありがとう」
僕は目をつぶると、遠く心を広げる感覚で森を感じ、近く心を合わせてラルヴァを感じる。
「皆を守る風を」
ラルヴァが静かに、だけど強い思いを持って言の葉を紡ぐ。
思いを、意思を、願いを合わせる。
一陣の風が、願いに応えるように舞った。
目を開けて周りを見渡すと、変化は見えないけど、守りの意思を感じる。
剣を掲げ、弓を引き、戦闘が始まった。
怖い、と思う。
たくさんの人が、傷つき、動かなくなっていく。
僕の手足が冷たくなって、心までも凍り付くような感じになる。
「アルバート。怖いと感じるのは、しょうが無い。むしろ正常だ」
「ウィル?」
「俺らは国を、国民を守るために戦うことを選んだ。命令されたからでなく、自ら考えて選んだんだ。無理に近づかなくても理解しなくてもいい、だけど知っておいてくれ」
難しくて全部は分からないけど、ウィルの言葉はとっても暖かい。
「僕は、みんなすきだよ?」
ウィルは、引き締めていた表情を一瞬だけ崩すと、僕の頭をぽんぽんと撫でた。
「ウィルさん、状況はどうでしょうか? 結界の効力もそろそろ切れると思いますが」
「数は向こうが上ですが、今のところ優勢です。乱戦に近い状態となってきてますので、魔法による援護は控えた方がよろしいでしょう。それに、この状況では弓も使えないので、結界の守護がなくても大丈夫です」
「じゃあ、僕は陛下に結界」「出られなくなるからいい」
すかさず、陛下から拒否された……。
最後まで言ってないのに!!
たくさん練習したから大丈夫なのに!!
「膨れるな」
「膨れてない!!」
「そういうことにしとこう。まぁ、いざという時に頼むな」
「うん!!」
陛下は少しだけ、表情を柔らかくしてくれた。
そのとき、衝撃が僕を襲った。




