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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔女の呪い

作者: JC

タイトルの「魔女の呪い」は、「魔女ののろい」とも「魔女のまじない」とも、どちらで読んでもらっても構いません。

そこは、読んで下さった方の気分にお任せします。


 気が付くと僕は、涙を流しながら人間を食べていた。


 いや、正確には人間の死体だ。

 歯が皮膚を突き破り、筋肉の繊維をすり潰し、鉄の味が口の中いっぱいに広がる頃には、骨を噛み砕く。

 頭が潰れているもの、手足が捥がれているもの、内臓が飛び出てるもの、折れた骨が突き出してるもの、そんな無残な死体が辺り一面に散らばっている中心に、それらが重なってできた山がある。

 その上で僕は、ただひたすらに死体を貪っていた。

 そんな恐ろしい事実に気付き我に返った瞬間、僕は持っていた誰かの腕を置き、その場で吐いた。

 ここはどこだろう。

 どこか森に囲まれた草原。

 影になってくれるものが周りにないので、夕日が眩しい。

 そういえば全身が血だらけになっている。

 死体を食べていたせいかとも思ったが、右肩と左足に矢が刺さっていた。

 よく見ると他にも無数の切り傷や刺し傷があったが、さほど痛みは感じない。

 刺さっていた矢も抜いてみたが、血は出なかった。

 そして困った事に、ここまでに至る経緯がまったく記憶に無い。

 しゃべり方も分かるし、歩き方も分かる。名前も年齢も出身の街も覚えている。

 家族の事も覚えているし、友達や幼馴染の事も覚えている。

 だが、いったいここで自分が何をしていたかは分からない。

 どうしてこんな場所で血溜まりの中、死体を食べていたのかも分からない。

 気が付いたらここにいた。ただ、それだけだ。

 たった一つの記憶を除いて。

 いったい僕はどうしてしまったんだろうか。

 


 日が沈み、あの場にいるのが怖くなった僕は、落ちていたナイフを二本拾って逃げた。

 誰かが来て見つかる心配もあったが、それ以上に自分の行っていた事の異常さに恐怖し逃げた。

 ひたすら方向も分からない森の中を、誰かから逃げるように走った。

 木の根に引っかかりこけても、しなった細い枝に額を傷つけられても、地べたに這いつくばってでも、とにかくあの場所から離れたかった。

 どれくらい走っただろうか、森の中はすっかり夜の闇に包まれていた。

 全力という全力を出し切ったため、もう腕も脚も上がらない。

 前にも後ろにも一歩も動けない。

 だが、あんなに走ったというのにまだ森の中だ。

 いったいこの森はどこまで続いているというのだろう。

 とりあえず今夜は、この森で野宿するしかないようだ。

 何時間も走ったからか、お腹が減ってきた。

 と、その事に気付いた後、何かが胃の中からこみ上げてくる感じがし、あのおぞましい行為を思い出して、また吐いた。

 どうやら死体を食べても、お腹は普通に減るらしい。

 

 母さんや父さんはどうしているだろうか。

 自分達の子供が死体を食べたと知ったら、いったいどう思うだろうか。

 妹のミザリーはまだ五歳だ。僕がいなくてちゃんと泣かずにやっていけているだろうか。 

 幼馴染のターニャやいつも一緒にいた皆は元気にしているだろうか。

 皆の顔を思い出していたら、何故だか急に心細くなってきてしまった。

 街に帰ろうにもここがどこか分からない。

 暗い森の中で、血まみれになりながらたった独り。

 たまらなく寂しい。

 少し泣きそうになってしまったので、気を取り直して何か食べれるものを探しにいこうとした時、森の奥に人魂が見えた。

 じっと見ているとそれは、二つ、三つと増えていき、気が付くと約二十数個の人魂に周りをぐるっと囲まれてしまっていた。

 この世には魔女がいるくらいだ、人魂がいてもおかしくはないが、まさかこんなに一遍に現れるとは思っていなかった。

 これはいったいどうしたものか。

 そんな事を考えていると、どこからともなくヒュッという風を切る音がした。

 そして次の瞬間には、一本の矢が僕の喉を貫いていた。

「あ……がっ……ごぶ」

 一瞬の鋭い激痛が走り、状況がまったくつかめない僕に対して、容赦ない追撃が襲ってくる。 

「今だ! 奴が怯んだぞ! 殺せ!」

 数十本もの矢を全身に受け、僕はその場に膝を着いた。

 それと同時に、誰かの叫ぶ声に続いて大勢の何かが近づいてくる気配がした。

 霞んできた目を凝らしてみると、松明を持った男達が一斉に僕目掛けて走ってくる。

 手には武器を持ち、鎧を着け、殺意の篭った目をしている。

 そして、口々に何事かを叫んでいる。

「この狂人め! 悪魔め!」

「自分の家族どころか、俺の大切な娘までも……この殺人鬼!」

「俺達の街の敵だ!」

「幼い頃から良くしてやった俺達に、よくもあんな酷い事ができたな! 殺してやる!」 

 いったい皆何の事を言っているんだ。

 どうして、僕がこんなに傷つかなきゃいけないんだ。

 どうして、この人達は僕を殺そうとしているんだ。

 どうして、僕はこんなになってもまだ生きているんだ。

 そんな思考が駆け巡った時、僕にただ唯一残る記憶の中の女が頭の中でささやいた。


「あなたに魔女の呪いをかけてあげるわ。もう簡単には死ねない、食べれば食べるほど人の定めから遠ざかる、素敵な身体にしてあげる。でも気を付けて、本能には逆らっちゃだめよ。お腹が空いたらちゃんと食べないと、あなたの大切な人達に悲しい事が起こっちゃうわよ」

 

 だめだ、逃げようにも体がいう事を聞かない。視界が狭いと思ったら、いつの間にか右目にも矢が刺さっている。こんな時なのにお腹が減った。やっと一歩踏み出せた。でも、左腕が切り落とされてしまった。これじゃあ、もう誰も抱きしめる事ができない。お腹が減った。父さん、母さん、ミザリー。まったく痛みがない。食べなきゃ。この人達はいったい誰なんだ。何で僕なんだ。早く食べないと。血が出てない。死ねない身体。あの記憶の女は何だ。食べるんだ。僕は何なんだ。魔女の呪いって何だ。何で僕は死なない。本能。食べた。

「ああああああああああああああああ!!」


 

 全てを思い出した僕は、泣きながらまた死体を食べていた。


こんな粗末で意味不明な駄文の羅列を読んで下さり、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読んだよ〜。
2011/08/11 18:10 退会済み
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