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仕立て屋〜世界の舞台裏〜   作者: tismo
少年は、そして、勇者を夢見る
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第五話 少年は、そして、勇者を夢見る(1)

第五話 少年は、そして、勇者を夢見る(1)

 


「夏季合宿をします!!」



エルルゥの発したこの言葉により、村中の子供達は近くの山で合宿をすることになった。

合宿というよりも泊り込みのキャンプだ。

子供達はいわれた当初は驚きながらもしばらくするとざわざわと楽しそうにはしゃぎ始めた。

なんといっても親元からしばらく離れ自由を享受できるのである。

子供達にとっては初めての経験であり、自分が独立する第一歩のように思われたのだ。


エルルゥはこの言葉の後には即座に行動を開始した。

まずは村長の元へと訪れ、計画について説明した。

森にはさすがに子供だけでキャンプをするのは危険だと言われた。

それでも引かなかったエルルゥは熱意でがんがんと村長を押したて、大人が数名同行することを条件に許可を貰ったのだった。

エルルゥは子供達の考えるような、大人への第一歩!!だとかひと夏の甘い思い出!!などを享受させるつもりはまったくない。

これはあくまでも合宿。

村の将来のために子供達の実力を高めるつもりだ。

休みなく魔物たちと戦わせ、命を懸けた戦いの感覚、命を奪う感覚、誰か守るものが後ろにいることを身に染みさせる腹積もりである。

エルルゥは子供達にトラウマを残す気などないが、トラウマになっても不思議ではない。

しかし、この夏で少年達を立派な戦士になってもらい、少女達は守ってもらうだけのか弱い存在からの脱却してもらわなければならなかった。


エルルゥはこの村にずっととどまることはない。

これは確定事項だ。

エルルゥの未来に対する考えはもう固まっている。



この世界は弱すぎる。



世界のことを知ってからずっと考え続けてきたことだ。

弱いことは罪ではない。

しかし、弱いことを言い訳にはできない。

エルルゥは世界をもっと強くする。

もっと逞しく。

この大好きな世界のために。

彼女はがんばることにしたのだった。

まずこの村から。

帰る場所だけはどうしても守ろうと決意していた。



「それじゃあ、皆、合宿について説明するよー!帰ったらちゃんとお母さんと話し合うんだよー」



もう子供達の家庭には話が行っているだろうし、村長の話を聞く限りでは好評とまでは行かなくても大きな反発はないようだ。

それにとりあえずは自由参加である。

参加させたくなければ参加させなければよいのだ。

森には弱いとはいえ魔獣がでるが、それくらいなら軽く屠れる村の男達も付いてくるのである。そう大事に無いだろう。村の反応はおおむねこんな感じだった。

おそらく半数以上の子供達は参加するはずだ。

もうすでに言いだしっぺのエルルゥもルゥもネイも両親から許可を貰っている。

子供は自然の中で遊ぶのが一番だ!と笑っていたのは父である。

エルちゃんがいるなら心配ないわねとにこやかだったのは母だった。

懐が広いのか適当なのかよくわからない両親だった。

他の仲のよいルクスやトニー、ネオはすでに親から許可をもらっていた。

みぃちゃんは少してこずっているようだ。

エルルゥとしてもみぃちゃんには来てほしいと思っていた。






それから一週間が立ち、子供達は村の広場に集合していた。

今日が出発日だ。

村の子供達は四分の三以上は集まり、これからの合宿に期待して大きく目を輝かせていた。

もちろんその期待にこたえられるだけの(ハードな)スケジュールをエルルゥは練ってきたつもりである。




しかし、エルルゥだけは出発前の高揚とした雰囲気に乗れていなかった。

鼓動。

その疼きが止まらない。




狂戦士




その抑圧に抑えが効かなくなっている。。

こんなことはこの体となってからは起きたことはなかった。

何かが起きている・・・?

風に乗って戦いの匂いを感じたのだろうか?



「何だ・・・。この言いようもない不安は・・・」



エルルゥは得体の知れない不安を感じていた。男だったころの戦士としての口調に戻っていた。回りに誰もいないことは確認しているのでばれる心配はなかったが。


そう、これは戦士としての警告だった。


だが、これから行われるであろう平和で安全な訓練と血と肉で汚れた戦場の警告を結びつけることはエルルゥにはできなかった。


気のせいだろう、と頭を振っていつものエルルゥとしての顔に戻ると



「なあんか怖い顔してましたわねぇ。エル」

「みぃちゃん・・」



みぃちゃんがこちらに話しかけてきた。

独り言は聞かれていなかったようだが、顔は見られていたらしい。



「そんなことはないよ。ただちょっと不安に感じちゃってね。この合宿で皆楽しんでくれるかどうか」



嘘半分、本当半分でみぃちゃんに不安を明かす。

不安に感じているのは本当だが、皆が楽しんでくれるかどうかはそんなに不安じゃない。

もちろん皆が楽しめるようなイベントを企画してはいるが、それが第一目的ではないからだ。

エルルゥの感じる不安とはもっと深い問題だった。



「あなた・・。そんなこと心にもないことを言って・・・。あなたのことですから、この合宿では皆をしごくつもりなのでしょう、合宿計画を練っているときのあなたの顔をあなた自身にも見せてあげたいですわ。まるで悪鬼のようでしたわよ。どれだけハードにしごくつもりですの。楽しませてもらうことを私はすでに諦めていますわ」



そうため息をつきながら、金色の髪を揺らす。

絵になるような美しさだった。

実に性格に見合わない美しさだなぁ、とかそんな酷い思考をしながらエルルゥは目の保養としていた。

悪鬼って・・・そんなにひどい顔をしていたのか、とショックを受けながら、本当の不安に気づかれなかったことに安心した。



「とかいっちゃってー、このー、それでも来てくれるなんて、みぃちゃんはツンデレすなぁ。それともMなのかにゃ?」

「誰がMですか!!別に仕方なくですわ、来なかったらエル落ち込むだろうなぁって思ったから、仕方なくですわよ!勘違いしないでくださいまし」



ほっぺをつつきながらからかうと、赤くなって否定してきた。

高飛車な口調で照れる姿は本当にかわいい。

実際、みぃちゃんは家を説得するのに結構苦労したようだ。

そもそも貴族の娘が村人と遊ぶこと自体あまりないことなので、それだけでもみぃちゃんの家族は寛容だ。みぃちゃんも相当粘ったのだろうが、それを含めてもみぃちゃんの家族がこの合宿に許可を出したことが信じられなかった。

みぃちゃんの家族もみぃちゃん同様、相当にフレキシブルなのだろう。



「みぃちゃん、かわいいー!!」

「もう、エルに言われてもなんの自慢にもなりませんわ」



ふと気が付くと鼓動が収まっている。

狂戦士の暴走が収まりつつあった。

みぃちゃんをからかっているうちに不安が少し薄くなっているのに気づいて少しだけ感謝するエルルゥだった。




作中の「M]とか「ツンデレ」などの言葉は、エルルゥの世界の言葉を私たちが住む世界の若い年代層向けに訳した言葉ですのであまり気にしないでくだしあ。

たとえば、あちらの言葉を直訳すれば「M」は「いじられるのが楽しいんじゃないの?」で、「ツンデレ」は「またまた~、恥ずかしがっちゃって~、素直じゃないなぁ」になります。

基本的に「M」や「ツンデレ」という概念はあそこの世界にはありません。

これから先もこのような不自然な表現が出てきて疑問に思うことがあると思いますが、ご了承いただけるとありがたいです。



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