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仕立て屋〜世界の舞台裏〜   作者: tismo
少年は、そして、勇者を夢見る
5/13

第四話 幕間(1)

自分にあった書き方を探すための練習でもあるのですいませんが、書き方を変えさせていただきます。

余裕が出次第、今までの文章も大幅に変更させていただきます。

ご了承ください。


あの後すぐに目を覚ました二人に特に怪我はなかった。


しかし、負けた者に待ち受けるのは恐怖の罰ゲーム。


『パジェロ』は多くの混乱を招き、ルークとみぃちゃんの心にトラウマを残していった。


みぃちゃんの部屋から夜「うーん、やだよぉ。もうパジェロはやだよぉ」とみぃちゃんの家のメイドが聞いたらしい。


おおこわ。


おそらく二人にとって練習試合のダメージより『パジェロ』が堪えただろう。


がんば!!


しかし、あのルクスとみぃちゃんでもルゥとネイのコンビネーションを破ることができなかったのか。


最初から二手に分かれて、一対一で倒しにかからないとルゥとネイのコンビネーションを破ることは難しいだろう。


おそらくみぃちゃんがネイじゃなくルゥを狙ってしまった時点で、負けは確定していたのだ。


ネイかルゥどちらかを放置してしまった時点で魔法による大爆撃が開始されるので、非常に厄介なのだ。


ちなみにルゥは時間が少しかかる代わりに、なんと最大七つほどの魔法を一気に放出する。


複数同時構成ができるのだ。


その効果は計り知れない。


確かに片方を二人で先に気絶させることができれば、勝てた可能性があった。


それを狙ってみぃちゃんとルークはルゥを集中して攻撃したのかもしれない。


だが、接近戦においてもルゥにせよネイにせよ私によって英才教育を受けている。


また、戦場においての生き残るための剣術も教えている。


欲張って倒すことを考えなければいくらあの二人が相手であれ、逃げ切ることは簡単なのだ。


とはいえ、ルゥのあの古代魔法の使用はさすがに予想外だった。


エルルゥは才能豊かな妹達に秘密であるこの魔法を教えていたが、公の前での使用を極力禁止していた。


使わなくても十分に勝てただろうに。


ちょっと怒った私は連帯責任として二人に五時間に及ぶ説教を行った。


功に焦ったこと、敗北した際の恐怖に負けて自制心を欠いたことを延々としかり続けた。


その結果妹達は泣いた。


しかし、妹のためならば、悪魔ともなりうる私は、その涙を無視して説教し続けた。


お母さんが止めにはいらなくては延々と続いていただろう。


あと翌日。


二人共、戦いに飢えているみたいなので、いつもよりハードに練習試合をしたら、またもや涙目になっていてちょっと反省しました。テヘ。


そして、数日後。



図書室にて


少女は、父の書斎で魔術に関する本を読んでいた。


少女には前世の記憶がある。

それは転生と読んでもいいものかもしれない。

少なくとも前世の記憶を他人のものだとは思っていなかった。

彼女の大切なひとつの要素。

それは彼女に多大なる力を与えている。


ここに通っていてわかったことがいくつかある。

まず衝撃を受けたのは、ここが異世界ではなく、もと居た世界の未来であること。

未来ではあるが、彼女の所属していた国もその時代にあった文明も全て戦争もしくは他の何らかの原因で滅び、その時代の遺物が見つかることによってその存在は確認されているという。

実際、父の話を聞く限りでは確かによく使っていたような利器も発見されており、逆に現在それが使われていないことに驚いたのだった。

この小さな村で使われていなくとも、都市では使われているものだと思っていた。


その時代に使われていた魔法に関してもほとんどが現在では滅びていた。

しかし、この国の史書には昔の魔法によるものと思われる事件の記述があった。

その一つにある村の娘が凶暴化し、その村を壊滅、討伐にきた騎士団も半壊にしたという事件がある。

悪魔憑きだったのだろうと推測されていたが、おそらく違う。少女には心当たりがあった。



戦魔法:「罪落とし」(ひとつめのささやき)



過去に使われていた設置型の戦魔法、いわばトラップである。

設置型の中でも手軽で戦のときに敵への撹乱のために使われた陽動部隊などが使う魔法だが、対抗するための魔法もいくつもあり兵士自体も抵抗が簡単にできるため、発明されてから時が流れるにつれあまり使われなくなった魔法である。

おそらく設置したまま何千年もの間作動せず、何かの拍子に発動してしまったのだろう。


エルルゥがいた時代の魔法は現代では古代魔法と呼ばれており、その一つ一つが現代では災厄を引き起こすほどの威力を秘めているといわれているらしい。

エルルゥからしてみれば鼻で笑うような魔法も多かったのであるが。


そしてこの魔法は、あくまで撹乱用のトラップであり、落ち着いて対応すれば普通の兵士でも対応できたのだが、この事件は少女に一つの結論を与えていた。

彼女の居た世界、いやもう時代と直したほうがよいだろう、よりも恐ろしく戦士の質が低下している。

そのせいで、トラップにも対応できず命を落とすはめになり、結局村娘も死んでしまったと報告されている。

魔族に侵攻されているのも納得してしまう。

魔物を恐れ魔人には太刀打ちできない。

他の部族には見下されている。

どれもこれも人間が弱いせいだろう。


過去の古代、少女の居た世界は戦乱に満ちていた。国と国が戦い、戦士達が戦いに狂い、人々が自己防衛のためにさらに力を求めた時代。強さ、数、賢さ、兵器、利器、経験、狡猾さ、運。誰もがあらゆる力を求めていた。お互いにお互いを高め、敵を取り込み、味方を強め、上限が見えない世界だった。死が散乱し、傷無き者は真っ先に殺された。名誉も権力、謀略ですらも圧倒的な力の前では踏みにじられた。王は十年とも持たなかった。世界で最大といわれた王国が、小さな村の戦士達に壊滅させられた話すらあった。圧倒的力。

それが古代、少女の生きた世界。英雄が生まれ、すぐに死んでいく時代。

少女はその輝かしい時代を思い返し、今を見つめる。



「弱すぎる・・・。これが平和なのか・・・」



この時代には欲が足りないのかもしれない。もしかしたら恐怖も足りないのかもしれない。

実の平和には程遠い。今は平和だが、強きもの、例えば魔族、例えばエルフ、例えば獣人族に攻められたのならいったいどうするつもりなのか。

仮初の平和。

古代は皆が気づいていた。力を求めなければ即座に死ぬ。

どんな原因が死を招くかわからない。

だから生きるために貪欲にならなければならない。



「このままでよいのか・・・?」



いや、きっとまだ大丈夫。魔族たちとの境界は遠い。

ここが侵攻を受けることはないはずだ。

それにいざというときのために村の子供達を鍛えているのだから。

そう心の中でつぶやいて、かぶりを振る。


読んでいた本を閉じて、本棚にしまう。

そろそろ出ようとドアへ向かおうとすると。



コトン



と何かが落ちる音がした。

その方向には小さな絵本。

題名は



『光の勇者』



とだけ書いてあった。

懐かしいなぁ。

そう思いながら、落ちたそれを手に取る。

五歳となって、文字を習いたいと母親にお願いしたとき、この本を読んでくれたのだった。

毎晩寝る前に少しずつ進めていき、それに沿って文字を教えてくれたのだった。

初めて読んだ本であり、妹達が五歳になるまえに初めて読み聞かせた本でもある。


『光の勇者』

この本は伝説を元にした物語である。

遥か昔、人間が魔族に支配されていた時代。

恐怖におびえる人間達に突然現れた希望、それが光の勇者だ。

腕に光の輝く紋章を持ち、光の女神のご加護を受けた最強の戦士だった。

聖剣を見つけ出し、鳳凰に乗り、四人の仲間達と共に多くの魔族を倒した。

魔王と対峙し、死闘の末に討ち取る。

ただし、その命と引き換えに。

勇者をたたえた人々は、歌として各地の詩人達が歌い、勇者馴染みの地に銅像が立った。

教会は神の息子として奉り、勇者の生まれた村は聖地として聖域扱いだ。

そして、光の勇者の影響は今でも多く残っている。

国々がある一定の条件を満たした戦士達を勇者と称号を与え、魔族の王である魔王の討伐に向かわせている。

その条件は、光の紋章を持ち光の女神のご加護を受けた戦士。

光の紋章を持つ人は多大なる力と運を授かり、魔族に対抗する力を持つ。

勇者がそのご加護を得ていたことから、光の紋章を持つものは今でも魔王を倒すと信じられている。

しかし、光のご加護を持つものは世界に二桁を越えない。

あまりにも希少すぎて今でも六人しか勇者になっていない。戦うことを拒む人もいるので全員が全員勇者になることを受け入れるわけでもない。

さらには魔王に返り討ちにされた勇者も少なからずいる。


これは昔読んだ本で知ったことだ。

この絵本自体は子供向けのもっとシンプルのものだった。

それでも懐かしさに駆られて、絵本を読み進めていると、外の廊下からばたばたと駆けてくる複数の足音が聞こえてきた。



「おねええちゃあああああああああああああん。遊ぼうよおおおおおおおおおお!!!」

「にゃおおおおおおおおおおおおおおう。リフレッシュするんだにゃああああ!!!」

「家の中では走らない、っていつも言ってるよ、ルゥ。ネイ」



案の定妹達、ルゥとネイだった。

落ち着きがないが妹達に少々辟易としながら、エルルゥは静かに本を閉じた。



「しょうがないか」



手間のかかる妹達だが、しかしそれに負けないくらい世話焼きなエルルゥだった。

本を戻そうとすると、ネイが表紙をみて



「にゃにゃ!!『光の勇者』だにゃ!!」



と嬉しそうな反応をした。目がきらきらしている。

すると、ルゥも好物を目の前にしたかのように



「あー!!あー!!姉さま姉さま、読んで読んで!!」



と騒ぎ立てる。

物心つく前からよく読み聞かせていたので、今でも覚えているようだ。

そういえばこの子達は他のどの絵本よりもこの『光の勇者』が好きだったな、とエルルゥは思い出す。

あの頃も今と同じように目を輝かせながらエルルゥの言葉を聞いていたのだ。

そういえば二人に剣や魔法の修行をさせるきっかけもこの絵本だった気がする。

少し大きくなったはずなのに変わらない可愛い妹達を愛しく思ったエルルゥだった。



「にゃーさま、にゃーさま、読むのにゃ。読むんだにゃ」



ネイの言うにゃーさまは、ねーさまといいたいのだろう。どうしてこうなった。どっかの猫の村の守り神っぽい名前にしかエルルゥは聞こえなかった。正直やめてほしい。



「ねーさまぁ。読んでよぉ」



ルゥも大きくだだをこね始めた

エルルゥは大きく息を吐きながら


「わかったわかった。今夜ね。今は遊ぶんでしょ?」


と頷く。

しかし、その顔はかわいらしい妹達の無邪気な姿を見て、ご満悦そうな顔である。



「にゃーにゃー。にゃーさま、大好きー」

「ありがとぉ。ねえさまー」



ネイもルゥも嬉しそうだ。

二人はエルルゥに抱きついて、エルルゥは二人の頭をなでている。

二つしか変わらない彼女達であるが、傍から見たら関係がはっきりわかる美しき姉妹であった。



「何をして遊ぶ?」

「水猫と遊ぶのにゃー!」

「むー!おままごとだよー!」



そうして書斎を出て、この日の昼は過ぎていく。

『光の勇者』

この時代の彼らは、しかし、この美しき姉妹の日々を守ることはできなかった。



2011.06.08 加筆修正

2011.06.09 加筆修正

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