第三話 10歳のころ(3)
剣の授業のほうは、主に素振りが基本だ。
素振りはどんどん増やしていく。
振れば振るほど体になじんでいく。
鉄心を仕込んだ模造品なので剣と重さは変わらない。
それから一つずつ丁寧に型を教えていく。
実践で使うものとは限らないが、結局は剣を体の一部として扱うには必要な練習だ。
模造品は多くの種類がある。
普通の剣だけではなく、大剣、小剣、ナイフ形の暗器、槍挙句の果てにはなぎなたまであり、充実しすぎるくらいに充実していた。
全部みぃちゃんが用意した。
金持ちってすげー。
狩猟のために弓矢の練習も忘れない。
こちらも矢はもちろんのことチャクラム、投摘用ナイフの模造品まであり本当に無駄に充実していた。
とりあえず、投摘用ナイフやチャクラムも私は練習している・・念のために。
ネオとトニーの組み手を見ているあいだに全員一通り素振りから基本の型まで終えていたみたいだ。
それじゃ新しい型でも教えるかと、思っていると
「なあ、エル。ルゥとネイが練習試合したいってうるさいんだが」
ルークがちょっと楽しそうにしながら話しかけてきた。
「ルゥとネイが?なんでいきなり?」
「さっきのに触発されたみたいでな」
ああ、ネオとトニーのか。
あの子たちも見てたのね。
「こっちはミイコと組む。あいつしかできそうなのいなくてな」
「人を余り物みたいに言わないでほしいものですわね、まったく」
再びギャーギャーと言い合う二人をぼんやり見ながら、この二人ならルゥとネイに対抗できるのかしらね、と思う。
練習試合は基本的にやらせない。
未熟者同士がやったら下手に怪我をさせることになりかねないからだ。
しかし、二対二か。
なかなか珍しい。
いいかもしれない。
協力して戦うなんて、魔物狩り以外ではあまり練習しないし。
ルゥとネイは私と一対二で戦うから慣れてるだろうけど、四人の個人同士の実力で言えば互角。
案外、みぃちゃんとルークは二人で戦ったほうが強いということもあるかもしれない。
よし、やらせてみるか。
しかし、ルゥとネイ。
私の姉妹なだけあって好戦的ね。
朝も私と練習試合しといてまだしたいとは。
明日からすこし厳しくしなくちゃいけないかな。
「いいよ。私とネオ、トニーが立ち会うよ。皆集まってー」
~ネオを昼寝から起こすため少々おまちください~
「えーっと。仕切りなおして。皆、さっきの熱い戦い見たでしょう?」
「ネオとトニーのですかー?」
「そうよ。あの勝負に触発されて、練習試合がしたいっていうお馬鹿ちゃん達が出てきたわー」
「「「な、なんだってー」」」
ふむ。
さすが、ナイス反応。
皆も楽しそうにきゃっきゃとはしゃいでいる。
「しかも、二対二の珍しい練習試合よ。これは本人達にとってもためになるのは当然のこと、見ている人にとっても勉強になるわ。きっちり勉強しなさい」
「「「ざわ・・・ざわ・・・」」」
「おっと、皆。対戦者が気になるのはわかるわ。でも、もう少し待ちなさい。まずは罰ゲームから決めるわ」
そういって、すかさず投摘用ナイフを取り出す。
そして、遠くに離れた的に向かって。
「とりゃああああああああ!!」
投げつけた。
すとおおおおおおおおおおおん、という音が鳴って、
その刺さった先には
「パジェロ」
と書かれていた。
「「「「ざわわ・・・ざわわ・・・!!」」」」
「なんですって・・・そんな『パジェロ』ですって・・・」
「なんでよりによって・・・あんなッ奇跡的な確率でしかでないもんが・・」
「あわわ・・・これは絶対に勝たないと・・・」
「にゃ・・・にゃああああ」
仲間達はざわめいて、みぃちゃん以下決闘者達も青ざめている。
「ふ、この練習試合によって、二人もこの『パジェロ』犠牲者が出るなんてかわいそうに」
さしもの私もこの世の不条理さにニヒルな笑みを浮かべてしまう。
この戦いの終わりはきっとむなしいものなのだろうな(ホロリ
「決闘者は、ルーク&みぃちゃん、そしてルゥ&ネイだ。前に出なさい」
四人ともまだ顔が青ざめているが、全員舞台に上がった。
四人とも顔にはこう書いてある。
勝てばいいんだ!
と。
「ネオ。トニーは副審判ね。ミスジャッジがあったらあなたたちも『パジェロ』よ」
二人はいやそうな顔をしながら広場にたった。
「ルールは、相手を一人でも倒すか、負けを認めるか。もしくはこの広場、みんなの暇つぶしから一人でもはじき出されたら、負けにするからね」
四人とも真剣な顔でうなずく。
「それじゃあ練習試合、開始!!」
四人ともいっせいに動き出す。
ルゥ、ルークとみぃちゃんは相手に向かって走り出す。
ネイのみは後ろにバックステップをして下がった
「うおおおおお。食らえ!」
ルークは、練習用の剣をルゥに振り下ろす。
「なんの!食らいませんよ!」
ルゥは小ぶりの剣を二刀頭の上で交差させ剣を受け止める。
それから攻守を交代して、ルゥが手数の多い攻撃を加えていく。
それをルークは見切り、見事に受け止めていた。
しかし脇から
「甘いんじゃないですこと!?」
と腕にガントレットをつけたみぃちゃんが、追いつき殴りかかってくる。
ルゥは後ろに下がることで慌ててその攻撃をかわす
「もらった!!」
それを追撃するかのようにルークは、足で地面を蹴り、剣でルゥのおなか目掛け、刺突を行う。
ルークは後から聞くといやな予感がした、という。
唐突に刺突をやめ、剣の腹でかばうように自分の体を守った。
みぃちゃんも気づき、魔力で防御障壁をくみ上げる。
そして、即席ではあるがルークにも障壁をかける。
光の雨
光の中級魔法。ネイから放たれる複数の光線がみぃちゃん、そしてルークに降り注ぐ。
この広場は、遮蔽物がない。
つまり、遮蔽物がないために遠くからの攻撃は動きつつ避けるか、障壁で守るしかない。
「ぐおお!」
「クッ!!」
完全に隙を突かれたルークはとっさに回避行動ができなかった。
だが、みぃちゃんの障壁によって得られたわずかな時間で体制を立て直す。
光がやんだ後、ルークを覆っていた障壁が割れる。
もうこれ以上の耐え切れなかったのだ。
ネイは三人が衝突した時間、わずかな時間で中級呪文を三つくみ上げた。
ネイとルゥの特筆すべき点は、魔法量の多さと使える魔法の多さだ。
昔から私が教え、そして与えてきたおかげで魔法に関しては非常に優秀な実力を持つ。
ネイは特に魔法を組み立てるのが早い。
一瞬でいくつもの魔法を組み立て、その魔法が発動し終えるまでにさらにいくつもの魔法を組み立てる。
華麗さとは程遠いが、豪快に敵を焼き尽くすのだ。
そして、魔力量も膨大にあるせいでなかなか攻撃がやまないのも厄介な点である。
残りの二つの魔法が発動する。
炎の障壁
嵐崩し(ツェルシュトルム)
炎と風の中級魔法。
ルークとみぃちゃんの前に炎と風が混じりあい強大な炎風を引き起こしている。
ルークは走り出す。
ルークは剣においてはトニーを越え、私の次に強いだろう。
しかし、魔法については、身体能力向上を除いてはてんでだめである。
障壁を使えない以上、逃げて避ける以外に炎風から逃れる術はないのである。
同時にみぃちゃんも走りだす。
ネイの魔法の実力を甘く見ていたのだ。
あそこまで強力な魔法を使えるとは思っていなかった。
もはや、簡単な障壁で防げるレベルではない。
足に魔力を込め、力に変える。
この時、ルークとみぃちゃんはこのタイミングでルゥが何かを仕掛けることを予想できていなかった。
余裕がなかったのもそうだが、さっきまで近接戦闘をしていたルゥはネイからの防御に精一杯でここで何かができるとは思っていなかったのかもしれない。
だが二人は忘れていた。
ルゥも魔法に関してネイと同じくらいの実力を持ち、なおかつ奇妙な魔法を使うエルルゥの妹であるということを!!
「な、なんだ。これは!」
「ここから出れない!?何ですの!?これは!!」
境界魔法:「来るもの拒まず、去るもの逃がさず」(しにがみのてまねき)
ルゥが使ったのは、私の前世の魔法-最近知ったことだが、ここでは古代魔法と呼ばれているらしい―だった。
自分の前に強固な炎と風の障壁を構築し、その上で狭い領域での境界を構築する。
ルゥも大概本気を出していた。
境界魔法は人前では使わないようにいってあるのだが、パジェロの恐怖に負けたか。
こうして炎風が直撃し、あっけなくルゥとみぃちゃんはダブルノックダウンとなった。
なおネイのほうは、ルゥが古代魔法を使うとは思っておらず敵二人は魔法を避けたと思っていた。
なので、炎風が収まったあと
水の障壁
拡散する雷
罪深き闇の陣
とさらに三つの魔法を展開させ、自らの防御と敵への攻撃をしていた。
そのうち雷がルークに激突し、あえなくオーバーキルとなった。
何故、ルークがオチ担当になってしまったんだろう・・・
2011.06.10 加筆修正