第二話 10歳のころ(2)
村の入会地、通称みんなの暇つぶしには、もう皆集まっていた。
「おせえぞ」
その中の一人、ルクスがぶっきらぼうに声をかけてくる。
ルクシード・エンゲルス。
不機嫌そうだが、それはいつものことだった。
しかし、イケメンだ。
目は鋭く、三白眼。
髪は黒くツンツンして、体が筋肉質なのが服のうえからわかる。
社交的とはいえないが、基本的にやさしい。
不器用なのでわかりづらいけどね。
プライドが高く、私によく決闘を仕掛けてくる。
だが勝てたことはない。
「やほー。イケメン。相変わらず辛気臭い顔しているねえ」
「イケメン言うな!!」
「照れちゃってー。可愛い子でちゅねー」
「なんだと!!」
「エル。ルーク。漫才はそこまでにしとこ」
傍で笑いながら話しかけながら声をかけてきたのはトニーだ。
トニー・ケーニッヒ。
白い髪で中性的な顔立ち、華奢な体をしているが剣術も力も、子供の頃から共に剣の練習をしてきた
私にとって一番古株の剣の練習相手だけあり、非常に強い。
私には及ばないけどね。
どこか人を引き寄せる魅力のある少年で、このグループのリーダーである。
エルとは私のことだ。
ルークはルクスの愛称。
「いつものことですってよ。そんなことより早く剣であれ魔法であれ、練習しましょう」
「ミイちゃんは、熱心だ。私は、お昼寝したいのに」
高飛車に声をかけてくるのは、この町一番のお嬢様。
ミイコ・タカハラ。
愛称:みいちゃん。
金髪ロールの髪型だ。
釣り目でいかにもなお嬢様だが、身長が小さくそのギャップがとてもかわいらしい。
高慢に近い態度だが、威張り散らすのではなく、身分を気にしないタイプの人柄で村の子供たちとも仲が良かった。
一方、返事をしたのは、ネオロン・マスカッティ。
愛称はネオ。
女の子にしてはかっこいいし、男の子っぽい名前だ。
ショートで水色の髪をしている。落ち着いた雰囲気の美少女だ。将来どうなることやら。
通称:沈黙と怠惰の魔女。
他の仲間達と同じ十歳でありながら、卓越した知識と魔力でどこか神秘的な雰囲気を持っている。
そのほかにも十名ほど年下の子供がいる。
いつもここで剣と魔法、そして勉学の講義をやっている。
エルルゥは十歳ながらこの村の子供達の講師をしていた。
前世の知識を生かした結果だ。
「はーい、じゃ剣の練習する子はこっちねー。魔法はあっち。文字の勉強は明日ね。あ、でも聞きたいことがあったら聞いてねー。」
「おねえちゃん、こっち、こっち教えて!」
「にゃー、ネイもネイもー!」
「ルゥとネイは後で家で聞きなさい」
ギャーニャーうるさい妹二人にはとりあえず剣の素振りをさせておいた。
ルゥもネイも魔法に関しては申し分ない。
幼い頃から魔力を注ぎ込んでいたので他の子達よりも全然魔力量も魔法の使い方もうまいのだ。
それに朝はいつも姉妹三人で魔力を練っている。
この時間は剣の素振りでもさせておいたほうがためになるのだ。
まずは魔法組から見ていこう。
基本的に魔法の講義は、魔力の感知と魔術の練り方を基本に教えている。
親から魔力の恩恵を受けていればすぐにできるようになるか、すでにできているかするのだが、あいにくこの世界では受けていない。
そこで一年ほどかけてこの方法を習得してもらうしかない。
そして、その後に魔法による身体能力の向上、自己防衛の為のこの世界の基礎魔法、親から子へ送る魔力の伝達の大切さを教えていく。
それが終われば毎日魔力を練るという作業をする。
この講義を受けているのは、トニーとネオ、あとは五人ほどだった。
五人は未だ講義の教科書を見ていたり、練り方の練習をしたりしている。
トニーとネオはもうすでに講義を全部終えていた。
そこでこの二人は、魔法を使った組み手をしている。
「食らえ!炎球ッ!」
「遅い、私を前にして魔法を使う愚かさ、身に染みろ」
魔法を放ったトニー。
ネオは驚異的なスピードでそれを避けると懐まで一気に詰め寄る。
ネオは本来、身体能力はそこまで高くはない。
トニーと比べると天と地ほどの差があり、懐に入れるはずはないのだ。
しかし、不可能を可能にする。
それが魔法。
ネオの恐るべきところは、魔法を百パーセント使いこなすというという点であった。
魔法制御という側面のみを見れば、私を凌駕する。
そして、その天性の魔法制御を使い、一瞬で無駄なく身体能力を強化し、驚異的な速度で詰め寄った。
一瞬で移動性能から筋力性能へと身体能力の向上値を振り分けたネオは、トニーに向かって腕を振り上げる。
「ぐうう!」
「おお!まさか反応するとは!」
「・・・!」
両腕を胸の前で交差させ攻撃を防ぎ、弾き飛ばされる。
トニーは後ろの木に叩きつけられ、苦悶の声を上げる。
思わず私も声を上げてしまう。今のはよく反応した!素晴らしい。
しかし・・・
「勝負はあったみたいね」
「くう。本当にネオは強いなあ」
トニーが構えなおす前に、ネオはトニーの前に立ち、顔の鼻に向かって腕を構えている。
後は少し力を入れれば終わりだった。
「やった」
ネオは身体能力向上の魔法を解き、嬉しそうに少しだけ頬を緩ませた。
「腕を振り上げるだけで人一人吹き飛ばすってどんな化け物だ・・俺にもできんぞ」
「さすがですわね。模造品でも剣があれば少しは勝負が違ったかもしれませんが、それでもお見事としか言い用がないですわね」
剣の型の練習をしていたルークとみぃちゃんも熱い戦いに見入っていたようだ。
ネオ、トニー、ルークとみぃちゃん、そして妹二人は同じ程度の実力を持っている。
それぞれに一長一短があり、組み手や練習試合は非常に白熱していた。
私も見ていると血が騒いでしまう。
狩りに行ってよかった、あぶねーと内心冷や汗をかく。
私が暴走したら止められるのはこの中にはいない。
少なくともこの村には母さんしかいないかもしれない。
「化け物はひどい」
「え、あ、いや、言葉の綾でな」
「本当ですわ。レディに対して化け物だなんて」
「まったくそうだね。これだからルークは」
「う・・・。ネオ、すまん!これから先は精進するから許してくれ」
「いや、どんな謝り方よ。それ」
「許す」
ルークの謝り方に思わず皆笑った。
2011.06.10 加筆修正