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仕立て屋〜世界の舞台裏〜   作者: tismo
少年は、そして、勇者を夢見る
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第十話 森の騒乱(5)

第十話 森の騒乱(5)



衝撃が森を襲う。

風が舞い、炎がはじけ、やがて収束して消えていく。

なんとか障壁が炎に勝った。


障壁と灼熱魔法の衝突した場所は焼け野原となっていた。

木々は燃え尽き、地面はめくれ焦土と化し、葉はどこにも残っていない。

上級魔法のすさまじさが伺える。

木々によって遮られていた丘のふもとにあるレウィニ村の景色が見えるようになっていた。

雲の流れる青い空と合わさって村はいつもと変わらず、平和に見えた。



子供たちは安心したように息をついた。

しかし、ネイの魔法によって作られた檻が壊されてしまった。

再び戦闘態勢を取って兎達の攻撃に備えようとする。


「後ろに下がりなさい!!」


みぃちゃんが大声で叫び、そして自身はしんがりを務める。

退却する一番後方にて兎達の攻撃を防ぐつもりだ。

退却する理由は時間稼ぎとあと一つ理由がある。

今、戦っている場所はすべてが焦土となってしまい、高い木々もすべて燃え尽きるか、焼き焦げてしまった。

それはネイの作戦のためには向いていない。

ネイとネオも一番後ろ、しんがりで兎達の攻撃を防ぐつもりのようで剣を取り出している。


上級魔法を防ぐのは非常に魔力を消費した。

ネオもネイも、みぃちゃんもまだ十歳程度の子供である。

普段から魔力を練り、今では一介の魔法使いをしのぐ程度の魔法量があるとはいえど、上級魔法を防ぐにはあまりにも厳しい。

上級魔法は王国の宮廷魔術師が使う魔法だ。

つまりこの王国で最高の魔力を扱う人間がようやく使えるようになれる、戦術級といっても差し支えないほどに威力が高い。

灼熱魔法であれば、魔法使いを含まない小隊ならば全滅してもおかしくない威力である。

みぃちゃんの魔力はすでに底をついていたし、ネオとネイの魔力もすでに半分を切っている。

灼熱魔法を防いでなお半分程度の魔法量の消費で済んだことは称賛に値することであるが、この戦場ではそれでも危うい。


反面、兎達の戦力は大幅に減少したことも見て取れた。

近衛兎、女王兎、双方の魔力が非常に減っている。

女王兎に至っては、低級の命令魔法を使っているようだが、絶対指令でないところを見ると、魔法量はほとんど残っていないようだ。

それならば、もう上級魔法を使ってくることはないだろう。

ネイは戦局が逆転したわけではないが、それでも一気に押し切られることもないと安心していた。


ただ子供達はもう消費しきっている。

いつ死人が出てもおかしくないのだ。

作戦を実行する。

そのためにはまずこの場所から遠ざかり、高い木がある場所まで移動しなくてはならない。



「「「ムキュキュー」」



兎達がかわいらしく鳴きながら、その声とは裏腹な危うい角を振りかざし襲いかかってくる。

その動きはさきほどより単調で、絶対指令ではなく低級の命令魔法である影響と取れた。

数も先ほどまでの戦闘で大幅に減り、前線にいる兎も減っている。

子供達は兎達の攻撃をいなしつつ、徐々に徐々にと木々の生い茂る森へと後退する。


そして子供たちを追撃するために女王兎が焦土と化していたあの場所から

生い茂る森のとある木の下まで行進したとき、



「今だ!やって!ルゥ!」



ネイがその木に向かって、大声で合図を出した。

兎達はその声に耳をピンと立てる。



境界魔法:「来る者拒まず行く者逃さず」()



その木から黒い靄らしき物が宙に向かって発生し、やがてドーム状に兎達を包み込んだ。



「むきゅ!?むきゅきゅ?」「ムキュキュキュキュ?」「ムーキュー!」



兎達はその靄の向こうに抜けることができない。

足に絡みつき、体に巻きつき、向こう側へ行くのを阻害するのだ。

兎達は不愉快そうに体をうねらせている。



ネイが合図を発した木の上にはいつの間にかルゥが見えた。

ルゥが構築した魔法によって兎達はその靄の向こうにはいけないのだった。

兎達は何が起きているのか理解できていないので、もたついている。

なぜかルゥの存在にも気づいていないようだ。



「うまくいったね」



ネイは汗をぬぐいながら、他の仲間たちにも兎達にも見えていないルゥを見つめる。

ルゥは境界魔法:「水面の波紋」(つみきくずし)という魔法を使っている。

認識の境界をずらす魔法だ。

意識を無意識にずらす効果がある。

この魔法は他人や者にも込めた魔力の分だけの時間、かけることができる。

古代で大切なものなどを隠すために作られた魔法なのだ。

古代魔法の共通点として、それに対する対抗魔法が作られるために結局は使われなくなるのだが。

しかし、この場においてはルゥの身の安全と兎達の拘束に非常に効果を発揮する。


ルゥが灼熱魔法の時も兎達に攻撃を仕掛けた時も参加しなかったのは、少しでも自分という存在を相手の目からそらすためだった。

認識を完全にずらすために、そして境界魔法という膨大な魔力を使う魔法を使うためには仲間を信頼して戦闘に加わるわけにはいかなかったのだ。


境界魔法:「来る者拒まず行く者逃さず」は強力な魔法、たとえば先ほどの灼熱魔法を使えば、簡単に破壊することができる。物理攻撃でも同様だ。

ところが魔力も消耗しきり、重要なアタッカーもあまりいない兎達にはこの靄を抜け出る手段はなかった。

ネイはもうこれ以上の攻撃はないだろうと安心しきっていた。

あとは援軍が来るまで、子供たちの回復をしながら待てばいい。

子供たちに回復魔法をかけるために兎達に背を向けた。

子供達もネイの姿を見て油断してしまったのだ。

だから子供たちに治癒魔法をかけていたネオも、ねぎらいの言葉をかけていたみぃちゃんも、木の上で胡坐をかいていたルゥも、とっさには反応できなかった。




子供ほどの大きさになった魔食兎が靄を突き破り、その大きく鋭い角をネイの背中に突き立てようとしているのを。

誰かが声を上げる前に、それは終わってしまっていた。




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