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俺は今日もパンを拾いにダンジョンへ通う  作者: 無職無能の素人


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13/13

第13話 ぬるめ

 ぬるい。怒りと絶望だけの冷たい世界のはずなのに。

 力を奪われたまま幾度となく繰り返された死と復活。最後には魂さえ汚され、我は呑まれて消え果てたはずなのに。


 ぬるい。陽の光が体を温めている。

 ぬるい。我が怒りが熱を失っている。

 ぬるい。ここはぬるい。柔らかく、惑いなく、兄弟たちと共に眠った遠い日のように。


 暖かい。今しばらく眠るとしよう。我が力は失われていないのだから。


 ………


 ………


 …………………わう?


「あ、シロちゃん起きたね。よく寝てえらい!ご飯用意できてるよ」


「なんでも褒めてるだけでいいのか?躾が大事だと村長が言ってただろ」


 アン!アン!


「よしよし、シロはいっぱい寝ていっぱい食べるのが仕事だもんねぇ」


 はぐはぐあぐあぐあぐ!


「はぁ。まぁ、いっぱい食え」


 アン!


          ◇◆◇◆◇


 シロとの激戦から5日が過ぎた。

 折れていた腕もとっくに治り、もう健康そのもの。毎日ダンジョンにも通っている。


 ダンジョンでは相変わらず変な石ころや植物が多いが、一番奥では毎回箱いっぱいの食料が手に入った。今後はこれをボス箱と呼ぼう。

 ボス箱には、パン・果実・砂糖と塩が必ず入っている。それに加えて山菜にミルクに肉や魚。後は見たことのない、恐らく食い物って感じのが色々混ざっている。

 村のみんなに配っているので感謝してくれている。さすがにおばちゃんたちが取りに行くって言い出したら困るからな。


 ジャム作りも再開した。ミルク粥は相変わらずほとんどシロが食っちまう。肉も焼いてやるんだが食いつきが悪い、ミルク粥がお気に入りみたいだ。

 ジャムを詰めるのにスライム肉が入っていた瓶を使ってるんだが……大丈夫か?捨てた中身は地面の上でビクビク痙攣してから溶けていった。ちょっと怖い。シロが食べようとしてフレアが叫んでいたな。


 それとたまに狼の魔物が出るようになった。初日はいなかったんだが、二日目以降は部屋で待機していた。倒すと十に一つくらい毛皮か牙が出る。これが結構嬉しいんだ。


 村のみんなにもダンジョンのことを話し、まずは詫びた。

 自分勝手な俺を、みんな笑顔で許してくれたんだ。謝るとき横に砂糖と塩と穀物の粉を積んでおいたのがどう影響したのかは分からない。


「シロ、こっちおいで!」


「アン!」


 フレアは子狼、シロにずっと夢中だ。

 シロもすっかり懐き、朝起きてはフレアの膝に飛び乗り、尻尾を振りながら甘える。昼間は庭で転がって遊び、夜は掛け布の端っこで丸くなる。ダンジョンで戦っていたあの白狼の面影はどこにもなかった。牙を剥いて吠えていた姿なんて夢の中の話みたいだ。


 そのシロが朝起きて昼までの間は何をしているかっつーと……。


「シロ、行くよー」


「あぁフレア!今日もがんばろうな!」


「はぁ、力が抜けちまうな……」


 一緒にダンジョンだ。三人で籠を背負い、シロも連れてダンジョンに通っている。

 今のダンジョンなら一人でも通えるが、やっぱり三人揃っていきたい。ダンジョンで戦えば強くなれるからな。

 でもフレアはシロに夢中なわけで、子どものシロを一人で放って行くなんてできなかった。それでこうなったわけだ。


「アン!アン!」


「お前も強くなってまた変身したりしてな」


 まぁ既にゴブリンくらいは倒しちまうんだが……本当に大丈夫か?

 今日も平和だ。ダンジョンに戦いを求めるのは間違っているだろうか。


          ◇◆◇◆◇


 昼過ぎ。俺たちがいつものように朝からダンジョンを済ませ、軽くパンを食べてからトラルと二人で戦利品を整理していると、村に物々しい集団が現れた。革鎧を着て、剣や弓を携えた五人組。冒険者だ。


 冒険者たちは何かを聞き回っているらしく、それは彼らが歩くより遥かに早く村のおばさんが知らせてくれた。

 わざわざ走って教えてくれなくても彼らの方から来るんだろうけどな。


 案の定、冒険者たちは俺たちのところにもやってきた。

 手入れされた防具、肩にかけるバッグすら丈夫そうだ。五人組ってのもいいよな、俺たちも仲間増やしたいなぁ。

 それに、いいなあの剣。俺は折れたナタをそっと撫でた。


「すまねぇ、ちょっと聞きたいんだが」


 リーダーっぽい男が声を掛けてくる。鋭い目つきの歴戦の戦士って感じだ。


「逃げ出した大きな白狼を追っている。深い傷を負っているが、追い込まれた魔物は何をするかわからん。犠牲が出る前にやっちまいたいんだ」


 俺は一瞬息を飲んだ。シロのこと……か?いやでもあいつ小さいよな?ダンジョンではデカかったけど……。

 深い傷ってのはよく分からんが、傷ついて追い込まれたあいつがダンジョンに入ったとか?ありえなくはない……か。


「いや、見てねぇよ」


 俺が言葉に詰まっていると、トラルが横から口を挟む。


「悪いが、俺たちも最近できたダンジョンに通ってるだけで、山を見て回ってるわけじゃねぇんだ」


「お、おぉそうなんだよ。冒険者さんたちもダンジョンに寄ってってくれよ。あんまり金になるもんは……ないけど」


「あん?ダンジョンなぁ。少し前まで田舎のダンジョン掘りが流行ってたんだが、どこも小粒でな。村人が折れたナタで通ってるような小さいやつじゃ、俺たちは興味ねぇよ」


「まぁ確かに金は稼げないが……食うには困らないぜ?」


「村人が小遣い稼ぎするにはいいんだろうな。だけどそれくらいがちょうどいいんだぞ?欲張って無理やり大きくしようとした村が、怪しい連中に乗せられて失敗したって話だ。白狼はそのダンジョンから逃げ出したらしいぜ」


 男がガハハと笑う。


「俺たちなら魔物を逃がしたりしねぇけどな!」


 悪い奴らじゃなさそうだ。ただ雇われて白狼を追ってるだけ。「うちのダンジョンも宣伝してくれよ」と声をかけたが、彼らは笑って去っていった。


「どうしたもんか」


「どうもしねぇでいいだろ。あいつを引き渡すなんてお前できるのかよ」


 後ろを見ればシロが庭でフレアと遊んでいた。

 転がっては飛びつき、尻尾を振り回す。楽しそうに吠える声が村に響く。


「シロ、そっち行っちゃダメ!」


 フレアが笑いながら追いかける。それを眺めるトラルの顔は見るに耐えない。何も言わないでおこう。


 シロは無邪気に走り回る。でもダンジョンでは巨大な白狼の姿になっていた。どっちが本当の姿なんだろう。

 関わりがあるんだろうな。広がったはいいが宝箱の出なくなったダンジョン。それは失敗だ。

 どこかのダンジョンがそうなって、うちのダンジョンもそうなった。それにシロが関わっていたなら、追い回されたのも分かる。


 だけどそれはもう終わった話。シロは戦いなど知らないし、ダンジョンも元に戻った。いや、改善したと言っていい。

 塩や砂糖が前よりたくさん出る。これだけで村の暮らしが楽になる量だ。

 相変わらず石ころや木、草が大半だけど、これに価値があるなら人も呼べる。早く行商来ないかな。


 そうなると冒険者の施設も欲しいな。町には冒険者ギルドってのがあるんだ。さっきの冒険者たちもそこに所属して仕事を受けたんだと思う。

 冒険者が居着いたら、宿屋や食堂も必要だよな。馬車だって行き交うかもしれない。魅力的な場所になれば、出ていったあいつらだって……。


「これから忙しくなりそうだな」


「そうなりゃいいな」


 俺は頷いた。また、あんな戦いがしたいと思う。危険だけど熱い戦い。仲間と一緒に力を合わせて立ち向かう強敵。

 でも今は……このぬるい世界が心地いい。


 シロが足元に駆け寄ってきた。尻尾を振って、鼻を押しつけてくる。


「アン!」


 俺は笑ってシロを抱き上げた。


「おーしおし!お前もぬるい世界でゆっくりしろよ!」


 そんなことを言いながらも、きっとすぐに新しい冒険がやってくると信じていた。だから今だけ、のんびりしておけばいい。

 だがもしも退屈な日々が続くようなら……


(こっそりダンジョンに餌やり再開しようかな!)

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