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俺は今日もパンを拾いにダンジョンへ通う  作者: 無職無能の素人


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第12話 セガサターン、シロ!!

 陽の光は思った以上に眩しく、湿った空気の中で深く息を吸うと生を実感する。

 戦いも楽しかったが、陽を浴びてのんびりするだけでも楽しいよな。体が健康ならそれだけで十分だ。


「でも今は体が痛いからもう少しゆっくり走ってくれよ。しがみついてるけど俺腕が折れてんだよ」


「フレアが走ってるんだから仕方ないだろ。トロトロ遅れて戻ったらドヤされるぞ」


 兄より子狼。悲しいけどこれ、現実なのよね。


 家に戻ると、フレアはすぐに子狼を寝かせ、傷の具合を確かめた。

 その小さな体には、深い裂傷が走っている。乾ききらない血と腫れ上がった皮膚。

 鉄の矢尻が腹に刺さった傷だ。反対側まで貫通している。


「矢が残ってないのはよかったが、これじゃあ……」


 あの時は戦いだった。悪いことをしたとは思っていない。

 だが……、どうにもな。


 フレアは言葉を失ったまま、子狼のそばに座り込んでいる。自分の放った矢傷だからな。気に病まなければいいんだが。

 トラルは黙って俺の手当をしてくれた。トラルだって細かい傷だらけだ。


「あ、ごめん二人とも!すぐに水を汲んでくるから!」


「あぁ。でも今はそいつを見てやれよ。俺たちは丈夫だから平気だ」


「そうだ。こいつは傷口だけ洗っとけばいいだろ」


「……ごめん」


 それだけ言ってフレアは水を汲みに行った。

 優しいやつなんだけどな、対象がまっすぐというか、ワンコしか見てないっていうか、俺を忘れがちっていうか。


「おい、足上げろ。足の裏ズル剥けじゃねぇか。土が入ってると腐るぞ」


「いてぇよ!お前はもっと優しくやれや!」


 雑な手当が終わり、動くのも辛いのですぐ暇になってしまった。

 フレアは子狼に付きっきりだ。だけど医者でもない俺たちにできることなんて限られている。


 ふとダンジョンで拾った瓶が目に入った。銀っぽい装飾が綺麗な、すごく豪華な瓶だ。這いずっていって手に取った。

 中身の液体は何なんだろうな、どう見ても価値が高そうだ。瓶を揺らしてやると中の液体が揺らめいて、不思議に色を変えながら光を反射している。

 それが綺麗で面白くて、指先でくるくると弄んでいた。


「うおっと!」


 ふとした拍子に瓶が傾いて、緩かった蓋の隙間から中身が少しだけ垂れてしまった。

 もったいねぇな、しっかり蓋締めといてくれよ。

 手を伝う液体を適当に拭う。その時に気付いた、手も擦り傷だらけだったよな?すっかり綺麗になっている。


 見間違いかと思い、何度も指を確かめる。だが、確かに傷は無くなっていた。

 他の傷はまだ残っている。当然だ、まだ一晩だって経ってない。


「ニゼク、どうしたんだよ」


「な、なぁ。これ、ちょっとかかっただけで傷が消えたんだよ。これってもしかして……」


「あんちゃんそれって……」


 聞いたことがある。でっかい街にいる魔法師が作るという、どんな怪我もぶっかけるだけで治しちまう魔法の薬。


「「「ポーション!」」」


 すげぇ、あのダンジョンからこんなお宝が出るなんて。


「それがあれば……!」


 フレアが手を伸ばしかけて止まった。沈黙が落ちる。


 子狼は浅い呼吸のまま身じろぎもしない。

 だが俺もぼろぼろだ。腕は折れて痛むし足はズル剥けでしばらく歩けない。たぶん体もあちこちおかしくなっているだろう。今晩には熱が出て苦しむだろうな。

 トラルだって細かい傷だらけ。それに白狼のあの攻撃を受けたんだ、何も言わないがどこかを痛めてるだろう。

 しかしフレアは無傷。その無傷のフレアが貴重なポーションに手を伸ばすのがどういう意味か。


「使えよ。たぶんこれはあいつのだ」


「フレアの思うように使え。俺たちは平気だし、それで満足だ」


「……ありがとう」


 フレアは何かを言いかけて、それから礼だけを言った。

 気にすることはないのにな。俺達は死ぬわけじゃない、だが子狼を救うには他に手は無いだろう。まぁ、救ってどうするんだって話ではあるが。


 フレアは瓶を受け取って、慎重に子狼の体へポーションをかけた。


 ポーションに塗れた傷口が音もなく塞がっていく。

 赤黒かった肌も元の色を取り戻す。その後に毛が生えて傷口のあった所を隠した。もう傷痕は分からない。


「……本当に、魔法の薬だ」


 子狼は小さく鼻を鳴らし、呼吸が安定した。


 それを見て力が抜けた。フレアは顔を伏せて肩を震わせている。

 これでよかった。あいつが悲しむのに比べたら、俺たちがしばらく痛みに泣くくらいどうってことない。


 トラルをチラリと見たら、フレアを凝視しながら大泣きしていた。なんでだよ。


 俺は後ろに倒れてそのまま目を瞑った。体が火照ってるしこのままでいいや。




 そして翌朝。


「あー、健康っていいなぁ!まだ腕はちょっと痛いけど」


「お前の体どうなってんだよ!」


 俺の体は大体治ってた。ポーション使わなくて本当に良かったぜ、無駄にするところだった。


「お前だってもう大分よさそうじゃないか。ダンジョン見に行こうぜ」


「あー、そうだな」


 昨夜はトラルも泊まっていった。と言っても俺と同じ様にそのままざこ寝しただけだが。

 フレアは遅くまで看病していたのか、子狼を抱くようにして眠っていた。ほっといた方がいいだろう。


「行ってくる」


 小声で言って家を出た。


 服も着替えてないがどうせダンジョンだしいいだろう。しかし腰がさみしい。ナタの刀身が半分になってしまっている。


「ナタ……なんとか稼いで返すわ」


「おう、秋には色々使うからな」


 ダンジョンが変わってるといいなぁ。砂糖でいいから出てくれ。


 しかし希望に反して入口は何も変わっていない。

 中に入っても景色は同じだった。だが、最初に襲ってくるはずの狼がいない。


「……静かだな」


 慣れた道を進み、最初の部屋に辿り着く。そこで身を隠しながらこっそりと中を覗き見た。

 そこにいたのは、小さな人間のような姿をした魔物だった。


(やった!変わってるぞ!)


(ゴブリンか)


 ゴブリン。森の嫌われ者だ。気がついたら集落を作って繁殖をしていたりするらしく、辺境の村では見かけ次第狩りが行われる。森の食料を食い荒らすんだよ、生存競争を考えたら人間とは一番敵対している存在かもしれない。

 単体では子供程度の能力しか無いが、武器を使う知恵がある。弓を持たれると厄介になるらしい。


 そして目の前のゴブリンの手には――


「そのナタよこせぇぇ!」


 そのナタよこせ!よこせよ!

 こちらを見つけて醜悪な笑みを浮かべながら襲いかかってくるそれを蹴り倒して手早く倒す。よえぇ、狼のが10倍強かったぞ。


 倒れたゴブリンは黒い靄となって消えていく。


「あ……あ………」


「まぁそりゃそうだよな」


 ゴブリンの握り締めた武器も同時に溶けて消えていった。なんてこった。


「おい、それより宝箱があるぞ」


「ありがたい。姿は前と変わったけど、宝箱は戻ってきてくれたんだな」


 感動で打ち震える腕を抑えて宝箱を開けた。

 中身は石ころ。たぶん鉱石だろう。そうであってくれ。


「何だこりゃ、駄目みたいだな」


「いや、前からこんなもんだ」


 がっかりしたような、安心したような、微妙な気持ちで次へ進む。

 途中の部屋にはどこも魔物が配置されていた。この部分は変わらないんだな、

 ゴブリンだったり、大きなムカデだったり。以前のネズミやコウモリよりは大きいし危険度も高いが、あの白狼を倒した俺たちから見れば雑魚もいいところ。


 どんどん進み、白狼がいた部屋にやってきた。中では巨大なスライムが待っていた。

 

「懐かしいな!戻ってきてくれたか!」


 今までどこにいたんだよ、会いたかったんだぜ?

 白狼を倒した奥にいるのかもとは思っていた。だけどやっぱりここがボス部屋ってことなのかな、このぷよぷよボディを見ると安心するわ。


 スライムは以前より遥かに大きいが、その分動きは鈍い。

 ナタで何度も斬りつけるとやがてベシャリと溶けていった。後に残るのは謎の瓶。前にも出ていたスライムっぽい物が入っている簡素な瓶だ。一応拾っていこう。


 広いボス部屋のさらに奥、短い通路の先。

 そこに最後の宝箱が置かれていた。期待を込めて、その蓋をゆっくりと開く。


「やったぞ!食い物だ!ずっとこれが欲しかったんだよ!」


 中には、パンや果物が詰まったカゴ、砂糖や塩の入った大きな袋、ミルクに粉類。それに生肉の塊まで。

 箱いっぱいの食料が詰め込まれていた。


 俺とトラルは顔を見合わせた。分かりやすい報酬に顔がニンマリと歪む。


「持って帰ろう。フレアが喜ぶぞ」


 背負い籠を持ってくるんだった。両手に食料を抱えて帰路につく。魔物は復活してなかった。


 家に戻ると、既にフレアも起きて出迎えてくれた。


「フレア!収穫だ!」


「おかえり。ダンジョンは戻ったんだね。ご苦労さま」


「お、おう」


 安心して微笑むフレアを見てトラルが照れてやがる。昔はそんなんじゃなかっただろお前。


 疲れていたが、取ってきたミルクとパン、それに砂糖を使って甘いミルク粥を作った。塩もひとつまみ。これがうめぇんだよ。

 肉も適当に切って塩をふって焼いた。これだけでいい。何の肉なのかわかんねぇけど。


「今日は勝利の祝いだ。昨日はなんにもしなかったしな」


 出来上がったミルク粥と肉。それにパンと果実を並べて祝いの用意を整えた。

 その間にトラルは砂糖をおばさんに届けて、代わりに野菜を煮たのをもらってきてくれている。こっちも美味そうだ。

 こんな豪勢な飯は久しぶりだな。本当にダンジョンが戻ってよかった。


「シロが動いたよ!」


「もう名前つけてるのかよ」


 子狼がもぞもぞと身じろぎをした。

 ゆっくりと目を開き、周囲を見回す。


「ほれ、食えるか?」


 皿によそって置いてやった。パンをミルクでとろとろに煮たミルク粥だ、小さなこいつでも食えるだろう。

 子狼は戸惑いながらも、差し出されたミルク粥に鼻を近づける。

 次の瞬間、必死に食らいついた。

 顔を濡らし、しっぽをぱたぱたと振りながら夢中で食べている。


「いい食いっぷりだ。全然足りそうにないな、全部食われちまうぞ」


「ケチなこと言うんじゃねぇよ」


「ありがとうあんちゃん!」


 粥はすべて食わせてしまった。

 まぁ、また取りにいけばいいさ。だってダンジョンは元の姿を取り戻したんだから。


 これできっと大丈夫だ。全てうまくいった。

 そんな確信と喜びが、静かに胸に広がっていった。

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