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15話 魔王軍、形を成す

オーガとの決着から一夜が明けた。


翔太たちは森の外れで野営を続けていた。焚き火の傍らで、ゴウは静かに座っている。巨体を丸めるようにして、じっと炎を見つめていた。


「ゴウ」

翔太が声をかけると、ゴウはゆっくりと顔を上げた。


「お前、この先どうしたい?」


ゴウは少し考えるように目を閉じた。そして、低い声で答えた。

「......森」


「森?」


「この森......俺の、縄張り」

ゴウは遠くを見つめた。


「ずっと......一人で、守ってきた。他の魔物が来ないように。人間が来ないように」


翔太は黙って聞いていた。


「お前に負けた。だから、お前の従魔になった。でも......」


ゴウは翔太を見た。その目には、複雑な感情が渦巻いていた。

「森を......離れたくない」


翔太は少し考えてから、頷いた。

「わかった。お前はこの森を守れ」


ゴウの目が僅かに見開かれた。


「いいのか......?」


「俺はお前を無理やり連れ回すつもりはない。お前が守りたいものがあるなら、守ればいい」


翔太は立ち上がり、ゴウの前に立った。


「ただし、俺が呼んだら来い。その時は、力を貸してくれ」


ゴウはしばらく翔太を見つめていた。そして、ゆっくりと頭を下げた。

「......わかった。主よ」


その言葉には、敬意が込められていた。


***


朝日が昇る頃、翔太たちは再び旅立った。

ゴウは森の入り口で見送った。その巨体が木々の間に消えていくのを確認してから、翔太は前を向いた。


「さて」


ランマが隣に並んだ。

「ここらで一度、状況を整理しようか」


「そうだな」


翔太は歩きながら、ランマが宙に浮かべた画面を見た。


────────────────────────────────────


【魔王ショータ】


Lv. 36


【スキル】


・溶解耐性(微)

・突進

・物理耐性(高)

・短剣術(初級)

・罠作成(初級)

・夜目

・群れの連携

・水流操作(初級)

・毒耐性(微)

・岩石操作

・硬化

・怪力

・咆哮


【従魔】


・プルン(スライム) Lv.30

・グラン(グレートボア) Lv.15 ※エルフの森外縁部を守護

・ハニービースト Lv.8 ※エルフの森に生息

・カジリスク Lv.6 ※エルフの森に生息

・ギル(ホブゴブリン) Lv.12 ※エルフの森でゴブリン族を統率

・ゴブリン族 (ゴブリン) Lv.6 ※ギルの指揮下

・ナーガ(リバーサーペント) Lv.28 ※大河を守護

・ロックスター(ロックゴーレム) Lv.31 ※山岳の廃坑を守護

・ゴウ(オーガ) Lv.35 ※大森林外縁部を守護


【同行者】


・シルフィ(風の精霊)※従魔ではない


────────────────────────────────────


「こうして見ると、結構な数になったね」

ランマが感心したように言った。


「でも、みんなバラバラの場所にいる」

翔太は腕を組んだ。


「グランは最初に従えた森の守護者。ハニービーストとカジリスクはあの森に棲んでる小型の魔物。ギルとゴブリンたちは、滅ぼされた村の跡地で暮らしながら森を守ってる」


「ナーガは大河、ロックスターは山の廃坑、ゴウは大森林の外縁......」


ランマは顎に手を当てた。

「まるで、各地に守備隊を配置してるみたいだね」


「意図したわけじゃないけどな」


「でも、結果的にはそうなってる」


シルフィが翔太の肩に降り立った。

「ねえねえ、それって軍隊ってこと? しょーた、軍隊持ってるの?」


「軍隊......か」

翔太は少し考えた。


「そう呼べるほど立派なものじゃない。でも、いざという時に集まれる仲間がいる。それは確かだ」


「ふーん。魔王らしくなってきたじゃん」

シルフィはくすくすと笑った。


プルンが翔太の頭の上で、ぷるんと揺れた。何か言いたそうだ。


「どうした、プルン」


プルンは身体を伸ばして、遠くを指すような仕草をした。


「ああ、ギルたちのことか」


プルンがぷるぷると肯定するように震えた。


「会いたいのか?」


プルンは少し恥ずかしそうに身を縮めた。


翔太は微笑んだ。

「そうだな。一度、みんなの様子を見に行くか」


***


数日後、翔太たちはギルたちのいる森に戻ってきた。


「おお、戻ったか」

ギルが村の跡地で出迎えた。その立ち姿には族長としての威厳があった。


「留守の間、何かあったか?」


「特にはない。人間の斥候らしき影を何度か見かけたが、深入りはしてこなかった」


「そうか」

翔太はギルの後ろに並ぶゴブリンたちを見た。以前より数が増えているようだ。


「仲間が増えたのか?」


「ああ。近くの森から、はぐれ者が何匹か合流した。お前の噂を聞いてな」


「俺の噂?」


「魔物を従える人間がいる、と。人間でありながら魔物の味方をする者がいる、と」

ギルは皮肉っぽく笑った。


「信じる者もいれば、疑う者もいる。だが、少なくとも興味を持つ者は多い」


「......そうか」

翔太は複雑な表情を浮かべた。


その時、プルンが翔太の頭から飛び降りて、ゴブリンたちの方へ転がっていった。


「おい、プルン——」


小さなゴブリンの子供たちが、プルンを見つけて駆け寄ってきた。

「あ! ぷるぷるだ!」


「ぷるぷる、また来たの!?」


子供たちはプルンを囲んで、きゃあきゃあと騒いでいる。プルンは嬉しそうにぷるぷると震えながら、子供たちの間を転がり回った。


「......なんだあれ」

翔太は呆気にとられた。


「あいつは愛嬌があるからな。子供たちの人気者なんだよ」

ギルが肩をすくめた。


プルンはゴブリンの子供の一人に抱きつかれて、ぷるんぷるんと揺れている。迷惑そうにしながらも、どこか嬉しそうだ。


「プルン、お前......」

翔太は思わず笑みをこぼした。


あの臆病で泣き虫だったスライムが、こんなに懐かれているとは。


「成長したな、プルン」

プルンは子供たちに揉みくちゃにされながら、翔太の方をちらりと見た。そして、誇らしげにぷるんと一度だけ震えた。


***


その夜、焚き火を囲んで宴が開かれた。

といっても、ゴブリンたちが採ってきた木の実や焼いた肉を分け合う、ささやかなものだ。


「にしても、お前、強くなったな」

ギルが肉を齧りながら言った。


「レベル36か。最初に会った時は、いくつだった?」


「......確か10だ」


「たった数週間で26も上がったのか。化け物だな」


「お前に言われたくない」

翔太は苦笑した。


シルフィはゴブリンの子供たちに囲まれて、風の魔法で木の葉を踊らせていた。子供たちは目を輝かせて、きらきらと舞う葉っぱを追いかけている。


「あのちっこいの、精霊か?」

ギルが眉を上げた。


「ああ。シルフィ。気まぐれだが、役に立つやつだ」


「精霊を味方につけるとはな。大したもんだ」

ギルは感心したように頷いた。


一方、ランマは少し離れた場所で、一人で夜空を見上げていた。

翔太はそっと近づいた。


「どうした?」


「ん? ああ、翔太」

ランマは振り返らずに言った。


「なんでもないよ。ちょっと、昔のことを思い出してただけ」


「昔のこと?」


「うん」


ランマは星を見つめたまま、静かに続けた。


「昔、旅をしたことがあるんだ。大切な人と一緒に」


「......そうなのか」


「その人は、すごく強くて、すごく優しかった。でも、いつの間にか......変わってしまった」

ランマの声には、どこか寂しさが滲んでいた。


「変わってしまった、って?」


「......わからない。何が変わったのか、気づいた時には、もう手遅れだった」

ランマは小さくため息をついた。


「でもね、翔太。私は今、こうしてまた旅をしてる。それが嬉しいんだ」


「俺との旅が?」


「うん」

ランマは初めて翔太の方を向いた。その目には、複雑な光が宿っていた。


「翔太は、優しいね」


「......急になんだ」


「ゴウを無理に連れ回さなかったり、プルンが子供たちと遊ぶのを嬉しそうに見てたこと。ギルの話をちゃんと聞くこと」


ランマは微笑んだ。だが、その微笑みの奥には、翔太には読み取れない何かがあった。


「その優しさを、失わないでね」


「......なんだよ、改まって」


「ふふ、なんでもない。おやすみ、翔太」

ランマは軽く手を振って、寝床の方へ歩いていった。


翔太はしばらくその背中を見つめていた。


「......なんだったんだ、今の」

そう呟いた時、シルフィが飛んできた。


「ねえねえ、しょーた! あのゴブリンの子供たち、すっごく面白いよ! 一緒に遊ぼうよ!」


「お前、子供好きなのか?」


「好きっていうか、からかうのが楽しいの!」

シルフィはけらけらと笑った。


翔太はため息をついたが、その顔には笑みが浮かんでいた。


「まったく......仕方ないな。からかうんじゃない。ちゃんと遊んでやるんだ」


***


翌朝。


翔太は出発の準備をしながら、ギルに声をかけた。

「ギル、ここは任せたぞ」


「ああ、任せておけ」

ギルは頷いた。


「何かあったら、グランかナーガを先行して向かわせる。俺たちは、いつでもお前のために動ける」


「頼む」


翔太はギルと拳を突き合わせた。


プルンはまだゴブリンの子供たちに囲まれていた。別れを惜しんでいるようだ。


「プルン、行くぞ」


プルンは名残惜しそうに身体を揺らしたが、やがて翔太の方へ転がってきた。子供たちが「またねー!」「ぷるぷる、また来てねー!」と手を振っている。


プルンは振り返って、小さくぷるんと震えた。それが、プルンなりの「またね」なのだろう。


「行くか」

翔太は仲間たちを見回した。


ランマ、プルン、シルフィ。

そして、各地に散らばる従魔たち。


まだまだ弱い。まだまだ足りない。


でも、確実に前に進んでいる。

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