14話 リベンジ、オーガとの決着
翔太たちは、再び大森林の外縁部へと戻ってきていた。
「ねえ、しょーた。これからどこ行くの?」
シルフィが翔太の周りをくるくると飛び回る。
「大森林だ。前に一度入ったことがある」
「へえ、この森? なんか魔力が濃いね。強い魔物がいそう」
「ああ。実際、かなり強いのがいた」
翔太は拳を握りしめた。
レベル35のオーガ。あの時は逃げるしかなかった。蜘蛛の巣穴を利用して、なんとか逃げ延びた。
だが、今は違う。レベル30になった。ロックゴーレムを倒して得た新しいスキルもある。
「あの時の借りを返しに行く」
プルンが翔太の頭の上で、ぷるぷると震えた。10話での恐怖を覚えているのか、少し緊張しているようだ。
翔太はプルンを撫でた。
「大丈夫だ。今度は逃げない」
プルンは小さく震えて、覚悟を決めたように身体を硬くした。
「何がいるの?」
シルフィが興味深そうに聞いてきた。
「オーガだ。レベル35。怪力と硬化、それに咆哮のスキルを持ってる」
「咆哮?」
「ああ。食らうと身体が痺れて動けなくなる。前はそれでやられかけた」
ランマが補足した。
「音による攻撃ね。かなり厄介よ」
シルフィは顎に手を当てて考え込んだ。
「ふーん......あたしは風の精霊だから、音の攻撃はちょっと苦手かも。でも、偵察くらいならできるよ」
「頼む。まずは居場所を確認したい」
「任せて」
シルフィは風に乗って、森の奥へと消えていった。
***
しばらくして、シルフィが戻ってきた。
「見つけたよ。奥の方にいる。なんか怒ってるみたいで、しょっちゅう木を殴り倒してた」
「怒ってる?」
「うん。何かにイライラしてる感じ」
翔太は考えた。もしかしたら、前に逃げられたことをまだ根に持っているのかもしれない。
「よし、作戦を立てる」
翔太は地面にしゃがみ込んだ。
「まず、問題は咆哮だ。あれを食らうと動けなくなる」
ランマが頷いた。
「前はプルンが目を塞いで時間を稼いでくれたわね」
「ああ。でも、それだけじゃ勝てなかった」
翔太はプルンを見た。
「プルン、お前は咆哮の影響を受けてなかったよな?」
プルンは首を傾げるように身体を揺らした。
「スライムには聴覚がない」
ランマが目を輝かせた。
「だから音による攻撃が効かないのよ。プルンだけは、咆哮の中でも自由に動ける」
「それだ」
翔太の頭の中で、作戦が形になっていく。
「オーガが咆哮を使った時、俺たちは動けなくなる。でも、プルンだけは動ける」
プルンがぷるぷると震えた。
「その隙に、プルンがオーガの口の中に飛び込む。溶解液で喉を焼けば、咆哮は使えなくなる」
プルンは大きく震えた。明らかに怖がっている。
「ロックゴーレムの時と同じだ。お前にしかできない役割だ」
翔太はプルンを見つめた。
「できるか?」
プルンはしばらく震えていたが、やがて覚悟を決めたように、ぷるんと一度だけ大きく震えた。
「よし。シルフィは上空から状況を見てくれ。何か変化があったら教えてほしい」
「了解」
「ランマは後方支援だ」
「わかってる。ライトアローで気を散らすくらいしかできないけど」
「十分だ」
翔太は立ち上がった。
「行くぞ」
***
大森林の奥。
翔太は木の陰から、オーガの姿を確認した。
前と同じ場所。巨大な体躯。筋肉の塊のような腕。そして、凶暴な目。
「......やっぱりでかいな」
レベル35。今の翔太はレベル30。まだ5の差がある。
だが、前のように逃げるつもりはなかった。
翔太は深呼吸をして、木の陰から飛び出した。
「おい、デカブツ! 俺を覚えてるか!」
オーガが振り返った。
その目が、翔太を捉えた瞬間——
「グオオオオオ!」
怒りの咆哮。
大気が震える。木々がざわめく。
翔太は歯を食いしばって耐えた。体が痺れる。動けない。
だが——
「硬化!」
新しく得たスキルを発動する。体の表面が岩のように硬くなる感覚。
痺れが、少しだけ和らいだ。
「くそ......動け......!」
必死に足を動かす。オーガが突進してくる。
ズドン!
巨大な拳が地面を叩く。翔太は間一髪で避けた。
「こっちだ!」
翔太は走り出した。オーガを、開けた場所へと誘導する。
「グオオオ!」
オーガが追ってくる。地響きが翔太の背中を追いかける。
開けた場所に出た。
翔太は振り返り、オーガと対峙した。
「来い!」
オーガが再び咆哮を上げる。
「グオオオオオオ!」
今度は、さらに強力だ。翔太の体が完全に痺れる。
動け、動け、動け——!
だが、体は言うことを聞かない。
オーガが拳を振り上げた。
その時——
プルンが翔太の頭から飛び出した。
咆哮の中、プルンだけが自由に動いていた。
スライムには聴覚がない。音の攻撃は、まったく効いていなかった。
プルンは真っ直ぐにオーガの顔に向かって飛んでいく。
オーガは咆哮を続けている。口が大きく開いている。
そこへ——
プルンが飛び込んだ。
「グッ......!?」
オーガの咆哮が止まった。
喉に何かが入り込んだ。異物感に、オーガは慌てて口を押さえた。
「ゴボッ、ガッ......!」
翔太の痺れが解けた。
「今だ!」
翔太は短剣を抜き、オーガに向かって走り出した。
オーガは喉を押さえてもがいている。プルンの溶解液が、内側から効いているのだ。
「グ......ガ......!」
咆哮を使おうとするが、喉が焼けて声が出ない。
翔太はオーガの足元に滑り込み、短剣を振るった。
「突進!」
スキルを乗せた一撃が、オーガのふくらはぎを切り裂く。
「グアッ!」
オーガがよろめいた。
「ランマ!」
「任せて!」
ランマがライトアローを放つ。オーガの目を狙った一撃。
「ギャッ!」
目を押さえるオーガ。その隙に、翔太は再び斬りかかる。
膝裏、腕の付け根、露出した筋肉の隙間。
一撃一撃は浅いが、確実にダメージを積み重ねていく。
「シルフィ!」
「わかってる!」
シルフィが風を操り、砂埃を巻き上げた。オーガの視界を塞ぐ。
「グオオ......ガ......!」
オーガの動きが鈍くなっていく。
喉の痛み、目の眩み、そして無数の切り傷。
やがて、オーガは膝をついた。
翔太は短剣を構え、オーガの前に立った。
「お前に、選択肢をやる」
オーガが血走った目で翔太を睨む。
「俺の従魔になるか、ここで終わるか。選べ」
オーガは荒い息をつきながら、翔太を見つめていた。
その目には、怒りがある。屈辱がある。
だが——同時に、何か別のものも浮かんでいた。
長い、長い沈黙。
やがて、オーガはゆっくりと頭を下げた。
翔太は、オーガの頭に手を置いた。
温かい光が、二人の間を流れた。
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【魔王ショータ】
Lv. 30 → Lv. 36
【スキル】
・溶解耐性(微)
・突進
・物理耐性(高)
・短剣術(初級)
・罠作成(初級)
・夜目
・群れの連携
・水流操作(初級)
・毒耐性(微)
・岩石操作
・硬化
・怪力 ←NEW!
・咆哮 ←NEW!
【従魔】
・プルン(スライム) Lv.27 → Lv.30
・グラン(グレートボア) Lv.15
・ハニービースト Lv.8
・カジリスク Lv.6
・ギル(ホブゴブリン) Lv.12
・ゴブリン Lv.6
・ナーガ(リバーサーペント) Lv.28
・ロックスター (ロックゴーレム) Lv.31
・ゴウ(オーガ) Lv.35 ←NEW!
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「レベル36......6も上がった」
「オーガを従えたのは大きいね。これで、戦力が一気に増えた」
ランマが感心したように言った。
シルフィが翔太の肩に降り立った。
「やるじゃん、しょーた。あたし、正直ちょっと見直したかも」
翔太はオーガを——いや、ゴウを見上げた。
「お前の名前は、ゴウだ」
ゴウは静かに頷いた。
その目には、もはや敵意はない。代わりに、主に対する忠誠の光が宿っていた。
プルンがオーガの口から出てきて、ぐったりと翔太の腕の中に落ちてきた。
「プルン! 大丈夫か?」
プルンは疲れ切っていたが、小さくぷるんと震えて無事を伝えた。
「ありがとう、プルン。お前がいなかったら、勝てなかった」
プルンは嬉しそうに、もう一度ぷるんと震えた。
***
その夜、一行は森の外れで野営した。
ゴウは少し離れた場所に座り、静かに空を見上げている。
シルフィが翔太の肩に降りてきた。
「ねえ、しょーた。さっきの戦い、すごかったね。あのオーガ、めちゃくちゃ強かったのに」
「シルフィがいてくれて助かった。砂埃で視界を塞いでくれたから、俺も動きやすかった」
「えへへ、そう? あたし、役に立った?」
「ああ、もちろん」
シルフィは嬉しそうにくるくると回った。
ランマが焚き火を見つめながら口を開いた。
「魔王の力で直接従魔となった魔物は、野生の頃とは違う存在になる。ゴウも、今は翔太への忠誠心が強くなってるんだと思う」
翔太はゴウの背中を見た。
「あいつの中にも、元々何かあったのかもな」
「かもね」
ランマは小さく笑った。
プルンが翔太の膝の上で、すやすやと眠っている。
翔太はその小さな体を撫でながら、空を見上げた。
「これで、また一歩進んだな」
リリアのいる場所。そこへ向かう道は、まだ遠い。
だが、確実に近づいている。
「待っていてくれ、リリア」
星空に、翔太は静かに呟いた。




