13話 山岳の守護者、岩巨人との対峙
翌朝、翔太たちは山岳地帯へと足を踏み入れた。
ごつごつとした岩肌が続き、道らしい道はない。足元には砂利が転がり、一歩進むごとに小石が崖下へと転がり落ちていく。
「この辺りだよ」
先行していたシルフィが戻ってきた。
「もう少し先に、あいつがいる。でっかい岩の塊みたいなやつ」
翔太は頷いた。
「ロックゴーレム......どんな相手だ?」
「んー、とにかくデカい。あたしの十倍......ううん、百倍くらいあるかも。それと、すっごく硬そう。全身が岩だからね」
ランマが補足した。
「ロックゴーレムは、物理攻撃がほとんど通じない魔物だよ。剣で斬っても、拳で殴っても、岩を叩いてるのと同じ。普通の冒険者なら、まず勝てない相手だね」
「魔法は?」
「魔法なら多少は効くけど......翔太くん、魔法使えないでしょ?」
「......確かに」
翔太は考え込んだ。
物理攻撃が効かない相手。それは、グランの突進もプルンの体当たりも無意味ということだ。
「核を壊せば倒せるって言ってたよな」
「うん。ゴーレム系の魔物は、体のどこかに魔力の核がある。それを破壊すれば、一瞬で動きを止められる」
「その核の位置は?」
シルフィが手を挙げた。
「それ、あたしに任せて。風で体の中を探れるから、たぶんわかる」
「頼む」
シルフィは得意げに胸を張った。
「任せなさい! でも、探るには近づかないといけないから、ちょっと時間がかかるかも」
「その間、俺たちが引きつけるってことか」
「そういうこと」
翔太は仲間たちを見回した。
プルンは不安そうにぷるぷると震えている。
「ロックゴーレムは巨体だ。動きは遅いはずだ。だが、一撃の威力は凄まじいだろうから、まともに食らえば一瞬で潰される」
「つまり、当たらなければいい」
「そうだ。だが、問題は核を壊す手段だ。物理攻撃が効かないなら、どうやって核を破壊する?」
翔太は自分のステータスを確認した。
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【魔王ショータ】
Lv. 24
【スキル】
・溶解耐性(微)
・突進
・物理耐性(微)
・短剣術(初級)
・罠作成(初級)
・夜目
・群れの連携
・水流操作(初級)
・毒耐性(微)
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「溶解......」
翔太はプルンを見た。
「プルンの溶解液は岩にも効くか?」
プルンは少し身体を揺らした。
「スライムの溶解液は、基本的にどんなものでも溶かせるよ。ただ、硬いものほど時間がかかる。岩なら......結構かかるかも」
「でも、核に直接触れられれば?」
「核は魔力の塊だから、岩より柔らかいはず。溶かすのも早いと思う」
翔太の頭の中で、作戦が形になっていった。
「よし、こうしよう」
全員が翔太の方を見た。
「まず、俺とランマがロックゴーレムの注意を引く。その間にシルフィが核の位置を探る。位置がわかったら、プルンが核に取りつく」
「取りつく?」
「ああ。プルンは液体だ。岩の隙間から体内に入り込めるはずだ。核に直接触れて、溶解液で破壊する」
プルンは不安そうに震えた。
「大丈夫だ」
翔太はプルンの頭を撫でた。
「お前なら、できる。俺たちが必ずサポートする」
プルンはしばらく震えていたが、やがて小さく身震いした。
「よし。じゃあ、行くぞ」
***
山道を進むと、やがて開けた場所に出た。
そこに、それはいた。
「でか......」
翔太は思わず呟いた。
岩でできた巨人。高さは優に五メートルを超えている。全身がごつごつとした岩で覆われ、まるで山そのものが歩いているようだ。
ロックゴーレムは、翔太たちに気づいていないようだった。その場に立ち尽くし、微動だにしない。
「眠ってる......のか?」
「ゴーレムは待機状態になると、動かなくなるんだ」
ランマが説明した。
「でも、縄張りに侵入者が来ると、すぐに起動する。気をつけてね」
翔太はランマに目配せした。
ランマは頷き、杖を構えた。
「行くぞ」
ランマが杖から光を放つ。唯一使えるという魔法、夜の道案内用の光をぶん投げる「ライトアロー」だ。
光は真っ直ぐにロックゴーレムの胸に向かって飛んでいく——が、岩肌に当たって、あっけなく消え失せた。ダメージはゼロだろう。
しかし、それで十分だった。
ロックゴーレムの目——岩の隙間から覗く、赤い光——が、ゆっくりと翔太たちの方を向いた。
「■■■■■■■■!」
言葉にならない咆哮。
大地が揺れた。
ロックゴーレムが、一歩を踏み出した。
「来るぞ! 散開!」
翔太の号令で、全員がばらばらに動いた。
ロックゴーレムの拳が振り下ろされる。
ズドォン!
翔太がいた場所に、巨大なクレーターができた。
「くそ、速い!」
動きが遅いと思っていたが、攻撃の瞬間だけは恐ろしく速い。
「シルフィ!」
「わかってる! 今探ってるから!」
シルフィが風を操り、ロックゴーレムの周囲を飛び回っている。
翔太はギルからもらった短剣を抜き、ロックゴーレムの足元を駆け抜けた。
「こっちだ、デカブツ!」
ロックゴーレムの注意を引きつける。巨人は翔太を追って体を回転させた。
その隙に、ランマが反対側から光を放つ。
光は岩に当たっては弾けたが、ロックゴーレムは苛立ったように唸った。
「効いてはいないが、気は散らせてるな」
ロックゴーレムが再び拳を振り上げた。今度の標的はランマだ。
「ランマ、避けろ!」
ランマは素早く横に飛んだ。拳が地面を叩き、衝撃波が広がる。
「シルフィ、まだか!」
「もうちょっと! ......あ、わかった!」
シルフィの声が響いた。
「核は胸の中心! ちょっと左寄り!」
「プルン!」
プルンが翔太の頭から飛び降り、地面を這うように進んでいく。
だが、ロックゴーレムがプルンに気づいた。
「■■■!」
巨大な足が振り上げられる。プルンを踏み潰そうとしている。
「させるか!」
翔太は全力で走り、プルンを抱え上げた。
ズドン!
足が地面を叩く。衝撃で翔太は吹き飛ばされた。
「ぐっ......!」
岩壁に背中を打ちつける。息が詰まった。
「翔太!」
ランマが叫ぶ。
ロックゴーレムが、倒れた翔太に向かって歩いてくる。
「まずい......」
体が動かない。衝撃で、一瞬だけ意識が飛びそうになる。
「こっちだ、岩頭!」
ランマが必死に叫びながら、ライトアローを連射した。というか四方八方に振り回した。
ロックゴーレムは一瞬だけ足を止めたが、すぐに翔太への歩みを再開した。
もう、間に合わない——
「......翔太」
腕の中で、プルンが震えていた。
「プルン、逃げ——」
プルンは小さく、でもはっきりと意思を持って否定した。
プルンの体が、急速に変形した。
液状化し、翔太の腕からするりと抜け出す。
そして——ロックゴーレムに向かって、真っ直ぐに飛んでいった。
「プルン!」
プルンは岩の隙間を見つけ、その中に滑り込んだ。
ロックゴーレムが足を止めた。
「■■......?」
体内に異物が入り込んだことに気づいたのか、困惑したように体を揺らす。
翔太は必死に立ち上がった。
「プルン......頑張れ......!」
しばらくの間、ロックゴーレムは自分の体を叩いたり、揺すったりしていた。
プルンを追い出そうとしているのだ。
だが、プルンは諦めなかった。
岩の隙間を縫うように進み、胸の中心——核を目指して。
そして——
「■■■■■■■■!!」
ロックゴーレムが、今までにない悲鳴を上げた。
核に、到達したのだ。
巨体が痙攣するように震える。
岩の隙間から、緑色の液体——プルンの溶解液——が染み出してきた。
やがて、ロックゴーレムの動きが止まった。
赤い光が消え、巨体がゆっくりと崩れ落ちていく。
ズズズズズ......
轟音と共に、岩の山が形成された。
「プルン!」
翔太は瓦礫を掻き分け、プルンを探した。
岩の隙間に、ぐったりとしたスライムの姿があった。
「プルン......! 大丈夫か!?」
プルンは弱々しく身体を揺らした。
「やったよ。お前がやったんだ」
翔太はプルンを優しく抱き上げた。
プルンは嬉しそうに、ぷるんと一度だけ震えた。
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【魔王ショータ】
Lv. 24 → Lv. 30
【スキル】
・溶解耐性(微)
・突進
・物理耐性(微)→物理耐性(高)↑
・短剣術(初級)
・罠作成(初級)
・夜目
・群れの連携
・水流操作(初級)
・毒耐性(微)
・岩石操作 ←NEW!
・硬化 ←NEW!
【従魔】
・プルン(スライム) Lv.18 → Lv.27
・グラン(グレートボア) Lv.15
・ハニービースト Lv.8
・カジリスク Lv.6
・ギル(ホブゴブリン) Lv.12
・ゴブリン族 (ゴブリン) Lv.6
・ナーガ(リバーサーペント) Lv.28
・ロックスター (ロックゴーレム) Lv.31 ←NEW!
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「レベル30......6も上がった」
「ロックゴーレムは強敵だからね。それだけ経験値も多いってこと」
ランマが言った。
シルフィが翔太の肩に降り立った。
「ねえねえ、あたしの情報、役に立ったでしょ?」
「ああ、助かった。お前がいなかったら、核の位置なんてわからなかった」
「えへへ、でしょでしょ?」
シルフィは得意げに笑った。
「でも危なかったねぇ。しょーたが死んじゃあ元も子もないのに」
「わかってる。でも、プルンを見捨てるわけにはいかなかった」
シルフィは小さく頷いた。
「......そういうところが、しょーたの強さなのかもね」
翔太は腕の中のプルンを見た。
疲れ果てて、眠っているようだ。
「ありがとう、プルン。お前のおかげだ」
プルンは眠ったまま、小さくぷるんと震えた。




